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揺れる馬車の中でイリアーゼは外の景色を見ていた。

もうすぐ王都を出るため門を潜るようで道の先には大きな門が見える。

私は住んでいた国と隣の国の狭間にある教会に送られそこで今までの行いを悔いながら生涯を終える予定らしい。


そう、予定らしい


(ゲームではその前に行方不明になるのよね、盗賊が現れるのは門を越えてからかしら?)


馬車の御者(馬車を操縦する人)が門を守る兵隊に話をしている。門を開けるように話しているのだろう。此方を見た複数の兵隊から視線と小馬鹿にするようなひそひそ話が聞こえる。こちらまで聞こえているからひそひそ話ではないが、私の学園での噂を知っているのだろう。


(どうでも良いことだわ。学園でも人に会うたびされてたし…それにしても今まで色々あって疲れたわ)


「好きなように振る舞うのも楽じゃないのね」


「おや?それは興味深いですね。話を聴いても?」


一人だと思っていた馬車に急に人が入ってきて声をかけられた。

男の声なのに見た目は女性兵士用の制服に身を包んだ綺麗な女だったのでイリアーゼは一瞬驚いて声が出なかった。


「あ、驚いてます?すみませんね、本当は追放先までの説明係は女兵士が担当だったんですが別件でそちらに行かなくてはならなくて、代わりに男の僕が来たんですよ。説明の為とはいえ男と馬車に二人きりですみませんね」


前世では心の性別と身体の性別が違う人や好んで異性の格好をする人が多く居たが、今世ではまだ理解がそれほど進んでいない、特に貴族は血の繋がった後継ぎを重視していることが大半なのでそういう方々を見ることがしばらく無かったため驚いてしまった。が、どうやら目の前にいる人は心も身体も男のようだ。


「…それは構わないけど何故その格好を?」


「ああ、上からの命令で元とは言えど公爵令嬢が馬車に異性と二人きりのところを見られるわけにはいかないということで着用しました。」


「それは、…気を使わせてしまって、その申し訳、ありません。」


(ああ、公爵令嬢に産まれて謝罪をすることなんて無かったから変な感じだわ)


目を伏せながら謝罪を口にし、顔をあげると目の前の男が驚いた顔をしていた。


(え?なに?)


「あの、どうかしたの?」


声をかけると男はハッとしたように居住まいを直した。


「あ、すみません。まさか公爵令嬢が謝罪を口にするとは思わなくて」


「そうね、公爵令嬢なら逆に謝罪をさせているでしょうね。でも私は貴方が言ったように元公爵令嬢だもの、それにもうすぐ死ぬ予定だから今世では最後くらい人に謝るのもいいかと思ってね」


「もうすぐ死ぬ?何を言っているのですか?貴女はこれから追放先の教会に送られるだけですよ、死刑になんてなっていません。その証拠に僕が追放先での説明をしに来たんですよ?こんな格好までしてね。僕の苦労を無駄にしないでください。」


目の前の男が着ている制服を私に見せ付けるようにしながら説教をしてきた。苦労と言ったがとても似合っている。きっと元々整った顔立ちなのだろう。少し丁寧に話しているのに一人称が私ではなく僕なのは彼の抵抗なのだろう。


「…ふふ、確かにそうね。」


「そうでしょう?それとも先程の好きなように振る舞うのも楽じゃないと言う事と何か関係が?」


男の容姿の件で流れたと思っていた話がまた出てきた。どうやら聴きたいようだ。


(死ぬ前だしいいか、ゲームの事を話したところで気が触れたとでも思われるだけでしょう。)


「関係あるわ。死ぬ前…いえ、追放先に着くまで暇潰しに聞いてくれる?貴方がつまらなくなったら止めるから」


「ぜひお願いします。今から門を出るので教会に着くのは約3時間後ですからね。追放先の説明は10分も要りませんから、ちょうどいい暇潰しがあって良かったです。」


話始めようとするとノックの音と共に馬車の御者が門が開きしだい追放先に向かうと声をかけてきた。御者が操縦するため座ると同時に門が開いた。

響き渡るような大きな音を立てながら門が開く姿は始めてみる光景で、私はこれから死ぬと言うのに門が開いた先に見えるどこまでも広がる道を見ると、笑い出したいような泣きたいようなよくわからない気持ちになり門を潜るまでの間、両手を握りしめて目を伏せていた。

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