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「もしや、イリアーゼ・クロース令嬢では?」
村長の家の前に来ると家から出てきた男に話しかけられた。
その男は村人達や襲ってきた盗賊達とは違い上質な服を着ていた。
(誰かしら?家から出てきたし第1王子の関係者?)
アレックスならば知っているだろうとイリアーゼは側にいるアレックスを見ようとしたが、また男に話しかけられた。
「いえ!答えずとも結構!こんな場所で出歩く高貴な魅力を纏った女性ならばイリアーゼ令嬢のみ!お会いできて光栄です。」
そう言って男が見つめる先にいるのはミリヤだった。
「へ?」
「ん?」
「え?」
「……まあ、」
思わずゼン、アレックス、イリアーゼから同時に出た驚きの声に遅れてミリヤの冷ややかな声が聞こえた。
(私とミリヤを間違えてる?)
男はミリヤに近づいて来るが、ミリヤを抱き抱えているゼンはそれより先に動き男と距離をとった。
すると男は苛ついたように声を荒らげた。
「従者の分際で高貴な我々の話の邪魔をするな!」
「恐れ入りますが、イリアーゼ様はこのような状況に大変混乱しておいでです。…イリアーゼ様のためにお名前を伺ってもよろしいでしょうか?」
ゼンはそう言うとミリヤを抱え直し相手の反応を待った。
「くっ、イリアーゼ様の為なら仕方がないっ……私の名はデャルド・グローダでございます。隣国ナルダグの男爵でございます。イリアーゼ様、以後、お見知りおきを」
そう言ってデャルドと名乗る男は礼をした。ミリヤに
(どうしたらいいかしらこの状況)
イリアーゼは少し離れているゼン、ミリヤに交互に視線を向けるがゼンはミリヤを男爵に近づけさせまいと相手から距離をとっているし、ミリヤは先程と変わらず冷ややかな視線を男爵に向けていてこちらに気づかないでいる。
ならばと、隣にいるアレックスを見ると目線が合った。
イリアーゼはデャルドを一瞬見てアレックスに視線を戻すと意図を理解してくれたのかアレックスは頷いてくれた。そしてなにか言い続けているデャルドの前に出た。
「っ、なんだ貴様は!」
「デャルド男爵、先程はこちらへ殿下を案内していただきありがとうございます。」
「殿下を…?ああ!先程の従者の一人か!そういえばイリアーゼ様を迎えに行くと一人離れていたな」
「はい、デャルド男爵のおかげでイリアーゼ様をこちらにお連れする事ができました。ありがとうございます。」
「当然だ!わかればイリアーゼ様を私にわた」
「殿下もイリアーゼ様の無事を祈っておりました。ご一緒にイリアーゼ様の無事を報告に参りましょう。」
「ぐ、いや!私が殿下の場所にお連れする!お前らは薄汚い盗賊どもを追い払ってこい!」
デャルド男爵はそう言うとミリヤを掴もうとするがやはりゼンが先に動きそれをかわす。
その様子に邪魔をするな!と喚くデャルド男爵は誰が見ても怪しかった。
「失礼ですがデャルド男爵、イリアーゼ様は怪我をしておいでです。イリアーゼ様をデャルド男爵お一人で殿下の場所までお連れできますか?」
「馬車…ではない!私の従者を呼べば大丈夫だ!」
「近くにはいないようですが…」
「うるさい!時間がないのだ!早くイリアーゼ様を渡せ!」
そう言った男爵にアレックスは人の悪い笑みを浮かべて
「確かに殿下をお待たせするわけにはいきませんね!デャルド男爵の言う通りです。」
「わかったなら!」
「では、デャルド男爵の従者を待っている時間もありませんし我々がイリアーゼ様をご案内します。」
アレックスの言葉にイリアーゼとミリヤを抱き上げているゼンはフェルデス殿下が待つ建物に入るため歩き出した。
「は?、いや、待て!」
「さあ、男爵もご一緒に参りましょう」
掴みかかる男爵にアレックスは笑顔で促す。
「ぐ…!くそっ!早く来ないか!貴様ら!」
男爵は焦ったのか大きな声で叫びだす。
その声が辺りに響くと遠くから馬の騒がしい音が聞こえてきた。
それを確認するとアレックスはイリアーゼの手を引いてミリヤを抱えるゼンと共に村長の家に走り出した。
「こちらに!」
「わ、!」
イリアーゼは転びそうになるがアレックスに支えられて無事に村長の家に入ることが出来た。後からゼンとミリヤも男爵を振り払い中に入る。
扉を閉める前に見えた男爵は顔を赤くしてなにかを叫びながらこちらを指差していた。
「ねえ、あの男爵は…」
「恐らく盗賊どもの雇い主でしょうね」
「ここも危険じゃないの?」
「殿下が奥の部屋にいるはずです。ゼン、ここを頼んでもいいか?」
アレックスが確認するとゼンはミリヤを近くの椅子に座らせてから頷く
「わかった、あいつらを抑え込んでおく」
「お嬢様、アレックスと一緒に行ってください。」
ミリヤに言われてイリアーゼは頷く
「わかったわ。」
「イリアーゼ様、こちらです。」
アレックスの案内に従い二人と離れて家の奥に進んでいく
「フェルディス様は無事かしら?」
「殿下の護衛もいますし無事だとは思いますが…っ!イリアーゼ様!」
「うっ!」
先を歩いていたアレックスが何かに気が付いたのかイリアーゼを庇うように振り返り共に床に伏せる。
ダンッ!と、壁に何かが勢いよくぶつかった音が聞こえてイリアーゼは庇ってくれたアレックスの肩越しに音のした壁を見ると矢が刺さっていた。
(家の中でなぜ矢が?)
「奴等の仲間ではないのか?」
考え事をしていたら進行方向から声が聞こえてアレックスとそちらを見ると弓を持った男がこちらを見ていた。




