最終回~妻からの手紙~
夜・野崎が帰ると、ふと野崎から渡された手紙が気になり、見ることにした。
封筒の中には2枚の手紙が入っていた。
それを黙読する二階堂
香織の声「義文さん。初めてだね、こうやってラブレター書いて渡すの。あっ指輪ありがとうね。凄く嬉しいしちょっと泣いちゃった。それにね、義文さんにどうしても伝えたいことがあるの。それはこんな私と結婚してくれてありがとうってね。まさかあんな告白されるなんて思ってもなかったし、ちょっと驚いた。でも義文さんの男らしさと常に人を気遣うところに惚れて、OKしたの」
二階堂は涙を堪えながら、必死に手紙を読んでいた。
香織の声「私、義文さんと出会えて本当に良かったと思ってる。凄い幸せなの」
二階堂が2枚目の手紙を見始める。そこにはたった一言。
「心の底から愛してます。香織より」
それを見た二階堂は今まで体験したこともないくらいの号泣をした。
何故こんな事件が起きてしまって。今何故目の前に妻がいないんだと思い、そしてこの手紙で涙腺はノックアウトだ。
何かを感じて顔を上げると、目の前にはウエディングドレスを着た香織の幻想姿があり、香織が笑顔で
香織「元気出して。義文さん」
二階堂は涙目になりながら
義文「あぁ。頼むからいなくなったりしないでくれ」
すると香織が笑顔で二階堂に抱き着きながら
香織「分かった」
いつの間にか、香織の姿が消えていた。この時二階堂は感じ、そして決意した。
「香織は心の中で永遠に生き続けている。自分がしっかりしなきゃ」
翌日、久しぶりにミッドタウン支社に出社した二階堂。他の同僚らは笑顔で
同僚ら「おかえりなさい。課長」
すると近くにいた野崎が笑顔で声を掛ける。
野崎「先輩。あのラブレター読んだんですか?」
二階堂はいつも通りの笑顔で
二階堂「うるせぇな。読んだよ」
すると野崎が小言で
野崎「あの。後でちょっといいですか?」
そう言われて二階堂は頷く。
少しした後に、野崎に連れられ応接室に来た2人。
二階堂は少し動揺しながら
二階堂「どうしたんだよ」
野崎「まぁまぁ、座ってくださいよ」
2人が対面して長椅子に座る。すると野崎が重い顔をしながら
野崎「実は。来月を持って上田部長が異動になるんです」
二階堂は驚いた顔をしながら
二階堂「え?それは本当か?」
野崎「えぇ、本社の人事部に友人がいるんで聞きました」
二階堂「異動先はどこになるんだ?」
野崎「どうやら、今年の夏に設立したばかりの札幌支社に」
二階堂「そんな場所まで」
野崎「それでですね。当然先輩は課長じゃないですか。だから普通の流れだったら課長が総合部長になってもおかしくないじゃないですか」
二階堂「それはそうだな」
野崎「ですから。先輩に」
二階堂はすぐに
二階堂「断るよ」
野崎「え?」
まさかの返事に少し動揺しながらも野崎は
野崎「でも、先輩が部長になんないと下が詰まってばかりです」
二階堂が笑顔で
二階堂「あっ丁度良かった。野崎に頼みがある」
野崎「え?」
二階堂「俺の代わりに、お前が総合部長になれ」
野崎「は?なんでですか」
少し語尾を強めに言った野崎。しかし二階堂は頭を下げて
二階堂「頼む。俺は永遠に課長のままでもいい。そうしなきゃ、もし俺がどんどん出世したら、香織のこと忘れそうなんだよ」
涙を流しながら言う二階堂に、野崎は最初戸惑っていたが。
野崎「でも、今後先輩にどう接したら」
二階堂が頭を上げて、野崎に微笑みながら
二階堂「普通通り、部長らしく上から物を言ってくれ。俺はその時はお前の部下だ」
野崎「でも、そんなことできませんよ」
二階堂「今の社会。後輩が先輩を越して出世する例は山ほどあるからな。心配するな」
野崎が少し不安と戸惑いの顔をしたが、この話はその場で終わりにした。
そのまま部署に戻る。すると上田の姿があり、ものすごい笑顔をしながら
上田「あっ二階堂君。やっと復帰できたか」
二階堂「あっはい。おかげさまで。ご心配をおかけしました」
頭を下げる二階堂。すると上田が笑顔で
上田「頭を上げろ。大丈夫だから」
すると上田は少し大きな声で
上田「みんな聞いてくれ。この度来月からの人事が発表されました。今回の人事対象者は1名だけです。そう、この私です」
周りがざわつく。野崎と二階堂は真顔でそれを聞いている。特に野崎は複雑な気持ちだ。
上田「私は来月より、日本の札幌支社に行くことになりました。今までこんな自分についてきてくれて、どうもありがとうございます。そして、新たな部長には二階堂・・・」
二階堂「上田部長」
上田はいきなり声を掛けられたため、少し動揺しながら
上田「どうした」
二階堂は冷静に、少し大きな声で
二階堂「新しい総合部長には、野崎が適任だと思います」
場が騒然となる。上田も野崎もまさかの出来事に少し慌てながら
野崎「先輩、ここでは」
上田「どういうことだ二階堂君。既に次期部長は二階堂君だって決まってるんだよ」
二階堂は少し黙り、落ち着きながら
二階堂「私は、永遠に課長止まりでもいいです。それはなぜだか、香織の存在が大きかったからです。彼女はいつかこう言いました。課長の方がかっこいいと、出世したら私付いていける自信がないの、だって課長の義文さんの方が素敵だからと。やっぱり一番愛してる人からそう言われたら、簡単に出世なんかできません。それに野崎にも言いましたが、出世したら香織の事が忘れそうなんです。もしかしたら新しい奥さんも作ってしまうかもしれない、それが怖いんです。それくらい香織を愛してますから。私は死ぬまで香織が素敵と言ってくれた課長のポストを守りたいです。上田部長、お願いいたします」
頭を下げる二階堂。
周りがいい雰囲気に包まれた。中には涙を流す女性社員もいた。上田はやはり納得した顔をしなかったが、野崎の方を向き
上田「野崎。どう思う」
すると野崎が大きな声で
野崎「私は、二階堂課長の言う通りにします。そして自分が部長になり、二階堂先輩を支えていく所存でございます」
二階堂は驚いた顔で野崎を見る。
二階堂「野崎、お前」
野崎「私は先輩から色々なことを教わりました。だから自分が出来る最大の恩返しです」
野崎が少し笑顔を二階堂に見せる。
~2019年12月~
二階堂「そして、野崎は俺の上司になり、今に至る」
野崎「先輩には。色々とお世話になりましたからね」
野崎が18年前と一緒の笑顔を見せる。
すると大井が
大井「そんな過去があっただなんて」
二階堂「でも。長年この課長のポストでいられたのも、野崎のおかげでもあるし、こうやってずっと生きていけるのも、ある意味の香織の支えがあったかもしれないな」
尾澤も少し泣きそうな顔で聞いている。
野崎「あっそういえば、二階堂先輩の後任が来ませんね」
二階堂「あっ部長。ずっと気になってたんだが、その新しい課長は誰なんですか?」
すると扉を開けて、新しい課長である元ウォールストリート支社部長であった、大倉が入ってきた。
二階堂が驚いて
二階堂「え?大倉部長」
野崎は知っていたため、少し苦笑いしていた。
大倉「いや、18年振りにニューヨークに帰ってきました」
二階堂「確か大倉部長って、911のあと本社に行ったんじゃ」
大倉「あぁ、でも俺ももうすぐ定年だ。本当は定年退職してもいいんだが、最後にやっぱり一番思い出のあるニューヨークで過ごしたいなと思ってね。戻ってきた」
二階堂が納得した顔になる。
野崎が少しだんまりした空気を何とかするべく
野崎「よし、大倉新課長も来たことだし。もう一回乾杯だ!」
他の社員らが一斉にビールを持ち
全員「乾杯!!」
~終わり~