第7話~崩壊~
午前9時15分頃。香織はタワーの階段をひたすら降りていた。
階段はいつも会社員などで忙しそうな場所だったが、今は言葉が出ないほど悲惨なところだった。
火傷や傷を負った人たちが、階段を必死に降りていたり、座り込んだりしていた。
大倉「二階堂君」
香織「はい」
大倉「これは戦争だよ。本当に」
香織「そうですね」
と、電話が鳴っているのに気付き、急いで出る。
香織「もしもし」
相手は二階堂だった。
彼もあまりにも電話に出ないので、少し心配していた。
二階堂「香織?」
香織「義文さん?」
香織は少し驚いた表情で言った。
二階堂「よかった無事で」
香織「今まだタワーなのよ」
二階堂「え?大丈夫なのか?」
二階堂は心配そうに聞いた。それもそうだ、まだあのタワーにいるから。
それに誰が30分後に崩壊すると予想しただろうか
香織「大丈夫。今必死に下りてやっと30階。このままだとすぐに1階に行けるから」
二階堂「ならよかった。気をつけろよ」
香織「もちろんよ。あっまた後で掛ける。じゃあね」
電話は切れた。今は30階すぐに避難できると思いホッとして、落ち着かせるためにコーヒーを一杯飲んだが、落ち着かない。
ただニュースを見ているしか方法はなかった。
午前9時半過ぎ、他の社員は既に下に降りていたが、大倉は今年で59歳。心臓に持病を持っていたため、体に限界が来てしまい。座り込んでしまった。階は20階
香織「部長。大丈夫ですか?!」
香織が大倉のそばに寄る。
大倉「すまない。心臓が悪いから少し座らせてもらうよ」
香織「ではこっちに寄りましょう」
そう言い、20階エントランスに寄った。
大倉「君は先に逃げなさい」
香織「部長を一人になんかできません。私も座ります」
香織が座り込んだ。
大倉「何をしている。私の事なんか構わずに」
香織「何言ってるんですか。部長は私にとって恩人ですから」
大倉「え?」
香織「部長が本社から、私を連れて行ってくれなければ、本社の言いなりになっていましたよ。本社という組織から抜け出せてくれたんです。ですから、部長は私にとって、生きる必要性を導いた恩人です」
大倉が少し笑顔になり
大倉「ありがとう」
香織「あぁ私も疲れたから、少し休憩します」
香織が笑顔になる。2人はそこで休むことにした。
午前9時57分、二階堂は香織からの電話を待っていた。すると携帯が鳴り
二階堂「もしもし香織?」
上田「あぁ二階堂君。上田だ」
電話の主は総合部長の上田だった。
二階堂は驚きながら
二階堂「あっ部長。お疲れ様です」
上田「いや、少し遅れてきたら、こんなことになっていて驚いたよ。確か野崎から聞いたけど、奥さんがまだワールドトレードセンターにいるみたいじゃないか」
二階堂「えぇ先ほど電話で、避難している最中だと聞いたので」
上田「大丈夫なのか?」
二階堂「もうビルから出てる頃だと思いま…」
午前9時59分、二階堂の目に飛び込んできたのは、香織がいる北棟の隣・南棟が崩壊した場面だった。
驚きのあまり、携帯を落としてしまった。これはもしかしたら北棟も危ない、そう思い震えた。でも多分ビルから出ていると自分に言い聞かせたため、すぐに携帯を拾い
二階堂「もしもし」
上田「大丈夫か?大変なことになったぞ」
二階堂「今ニュースで見てます」
上田「何かあったら、電話入れてくれ」
二階堂「私は会社に行った方がいいですか?」
上田「いや、君は家で待機してくれ、仕事はこっちに任せろ」
そう言い電話は切れた。妻は絶対に大丈夫だと思い、度々玄関を見ながら、帰りを待ち望んでいた。
午前10時20分頃、2人は途中10階で休憩を取り、なんとか1階に着いた。あたりは白い粉塵に包まれており、なんとか外からの明かりで、出口まで来た。
大倉「何かあったのかな」
香織「なんですかね。この粉塵は」
大倉「誰もいないし、火災現場とは思えない」
すると香織が何かに気付いたように、大きな声を出した。
大倉は驚き
大倉「なんだ」
香織「10階でさっき休憩しましたよね」
大倉「あぁ」
香織「そこに大事なペンダント落としてきたかもしれません。ほら携帯取ろうとしたときに」
確かにその場面があった。二階堂に電話をかけようとした。しかし、電波が悪く繋がらなかった。その時に落としたと香織は思っていた。
大倉「本当か?」
香織「私取りに行ってきます」
大倉「危険だぞ。消防隊もいなし、恐らく何かが起こる」
香織「絶対に戻ってきますから。あっそうだ」
香織はポケットから一枚の手紙を取り出し
香織「先に逃げて、これを夫に渡してください」
大倉「なんだラブレターか?」
香織が笑顔になりながら頷く。
香織「お願いします。私はすぐに抜け出すんで」
と頭を下げる。
大倉「わかった。気を付けて」
香織「ありがとうございます」
そう言い、階段の方に向かっていった。
時間は午前10時25分、大倉はそのまま外に逃げ出た。3分ぐらいなんとか走って逃げていると窓ガラスが割れていない、一つのレストランに逃げ込んだ。
ワールドトレードセンターから1キロ離れた場所だった。
すると轟音が聞こえ見ると、香織がいる北棟が崩壊する瞬間だった。
そのころ、ニュースを見ている二階堂は、その瞬間を見たが、妻は逃げていると思い込みあまり動揺はしなかった。
それが二階堂を悲しみのどん底に突き落とすのだった。
~第7話終わり~