第八話 妖精神と美姫
エルフは美しい種族だ。その上、ハイエルフ族の美しさは・・・・・・言葉で伝えるのは難しい。
誰もが人間では、滅多にいない程の整った容姿。肢体の均整も神々にも劣らないだろう。
成人しても、少女、少年の若さを維持し、そこから、外見的な歳はとらない。
知能も高く、古魔法の使役や精霊召喚をする。弓の技量も、器用さも備えた高性能な種族だ。
だが、その綺麗な者を求めて、劣情に走る輩が人族や、亜人種、魔族には頻繁に現れた。
庇護の対象。大抵の無法者は、国家で暮らすハイエルフやエルフに撃退されたが。中にははぐれたエルフを捕らえたり、人身売買する為、軍を起こす非道も有った。
聖国メガラニカ、タナトス帝の御代。中央から西方探索に派遣されたエイダット侯爵もその一人だ。
緑豊かなレスダーン大森林で、一軍を用いたエルフ狩を催し、ハイエルフの姫オフィーリアを捕獲する。
同時に捕らえられたり、阻もうとして討たれた者もいる。
オフィーリアはハイエルフ族の王女で、その美しさは並ぶ者無しと讃えられた姫君だ。
すらりとしなやかな四肢はほっそりと少女の幼さを残し、澄んだ瞳と艶を帯びた長い髪は、蒼く煌く。
顔もあどけなさの中に、気品をも兼ね備えた。見る者を魅了する美の極み。
それが、その全ての男を魅了する美少女が。怯えた顔で、エイダット侯の天幕のベットの上で拘束されているのだ。
ゴクリと、男たちが、喉を鳴らした。
「美の女神もかくや。これほど美しい女が、この世に存在したとは。エイダット様。タナトス帝は、必ずやこの姫の美しさに報いてくれましょうぞ」
「ひひひっ。女ぁぁっ、この女が俺の女ぁ!」
「何と?! 侯爵、それは! 他にも捕らえた女が!」
「ふふはっ、嫌だ。席を外すのだ」
「・・・はっ!」
「っ・・・」
鎖の付いた手枷足枷で絡めとられたオフィーリア姫は、怯えた。
(この男に立ち向かえるだろうか? 鎖に魔法と自由を封じられ拘束されている。抵抗する手段が無い。慈悲をすがらなければならないのか)
考えが巡る。悲しげな瞳には、どうしようも無く恐れで、涙が溜まる。
「今宵は、俺の立派な息子様で責めまくって! 良い声で哭かせてやるぞ。貴族の慈悲でなぁっ!」
エイダットの手がオフィーリアの頬を撫で、唇、顎、そして下へ下へ。服の上から、彼女の胸を弄る。
「ぃ嫌、やだっ、辞めてください」
その声に、征服欲を刺激された手が服の脇から直に、控えめな胸を触り、揉み、責め始めた。
「ひあ、あっ、んっ」
慟哭するオフィーリアと、その胸の揉み応えの良さに、エイダットは拍車をかけて情欲に駆られる。
「揉んで大きくしてやるぞ。俺好みに調教してくれる。哭け!哭けぇっ!」
次にエイダットは、下へ、腹に、下へ、少女の股間に喜悦に駆られながら手を伸ばそうとし。
「! ・・・・・・」
絶命した。
いつの間にか、背後から一人の少年が忍び込み、エイダットの口を押さえると同時、素早く胸を一突き刺したのだ。
血が迸る。
「・・・ユリシスさま!」
オフィーリア姫は、少年の名を呼んだ。
少年の背中には、アゲハ蝶の様な大きな、透き通る青い翅が。妖精族。いや、神族だろうか。
緋色に煌く剣を払い、そのまま少女の拘束を両断。鞘に納めた。
恥じらい身繕いするも、オフィーリアはユリシスに抱きついた。
二人して天幕を出て歩く。外は戦場だった。
エルフと妖精が、寡兵をゲリラ的に用い、各所で奇襲をかけたのだ。精霊がエイダットの部下を絡め取り、荷駄隊が燃えている。
「撤退! 撤退だ! エイダット侯爵討死!」
人族が慌ただしく狂奔。逃げて行く。
「オフィーリア」
「は、はい」
「僕が目を離すと、君が汚されるところだったなんて。君に何か有ったら僕は・・・・・・お願いだ。今、僕と結婚して欲しい」
「・・・・・・ユリシスさまは、神様。私は、エルフですよ?」
「君はハイエルフ。神との違い等、生まれた順だけだ。無いに等しい。僕の側にずっと居て欲しい」
見つめ合う。
顔を赤く染め、俯き嗚咽するオフィーリア。
「私などを・・・・・・求めて下さるのですね。喜んで」
エルフ達と、妖精、精霊達の歓声に包まれ、妖精神とハイエルフは祝福された。
これは、かつての地球での出来事。
聖国メガラニカはタナトス帝の御世、神々の怒りを買って一夜にして滅びたという。
妖精神ユリシスと、ハイエルフの美姫オフィーリア、二人の間にはメティスという名の冥界を統べる偉大な神が生まれ、やがて、ケルベロスという名の少女神と、世界の命運を担って歩いて行く。
ちょっとHな回でした〜。