第七話 ガンマール大戦
ガンマール国の冥界迷宮は、最深部で、死後の世界に繋がる。地上で唯一、所在の分かる神が居る所。
浅い階層は魔物も手頃に弱く。経験値と、魔物が蓄えたお宝目的で冒険者や、軍人が日々狩りを楽しんでいた。
突然、ゴブリンの集団に襲われ、驚いて悲鳴を上げる。ガンファイターの少女マリア。
遠距離中距離専門のガンファイターが、銃も抜けず、接近されてしまった。身体に集られる。ウエスタンハットが、落ちて踏みつけられた。
迂闊。唖然とする。今、好色なゴブリンに、貞操の危険を感じる。自分は、赤面しているのか、蒼白になっているのか。
「た、助けて〜! メイちゃん! パステルちゃん!」
言われるまでも無く、仲間の身体を触って来るゴブリンに、少女冒険者達がフォローに入る。
鎖帷子の剣士メイが、二本の鋼の直剣で斬り込み、
法衣の僧侶、パステルが声を上げる。
「偉大なる冥界神の眷属、月の女神アスタルテ様! 聖なる弓矢をお与え下さいっ! 破魔っ!」
数条の閃光がゴブリンを穿つ。
「マリアちゃんっ! 今ですっ!」
群がり、好色な涎を垂れ流すゴブリンに、マリアが銃を連射する。
「ブリッツ! 6連! リロード! 更に!」
6回の射撃で、6匹倒した。装填し、更に6連射。雑魚なゴブリン相手なら、冷静になれば私でも。
「冷静・・・。冷静」
直剣が踊る。
「一、二、三、四・・・。五、六つ、キリがない〜。走ろ〜!」
メイが、斬撃を続け、続け、叫ぶ。
「な! ぇ〜!」
「待って〜っ!」
マリア、パステルが後ろに攻撃しながら続く。
ゴブリン達の行動パターンが、
「絶対、変でしょ〜?!」
「「うん!」」
奥に進む者にだけ襲いかかって来た番人達なのに。今は、迷宮内にいる者に群がってくる。
そしてそれは、ゴブリンだけでは無かった。魔物達全て。
逃げ切れない!
「大丈夫ですかー」
「「「?」」」
少女達の横を、薄羽蜉蝣の様な翅を持った小さな男の子の妖精が飛んでいた。葉っぱを加工した服を着ている。
「妖精さんだっ?!」
「ですよー。救助に来ましたー」
妖精が口笛を吹き、手を叩く。すると・・・ゴブリンは、少女達を見失い散り散りになって行く。
「キラーン! 妖精魔術ー! 出口まで案内するよー」
途中、狩場で混乱中の、冒険者や軍人達がいたので、固まって脱出出来た。
「う〜! 触られた! 触られたっ! ゴブリン、死滅しろ!! 気持ち悪い〜!」
「妖精さん、ありがとう!」
「「ありがとうっ!」」
「うんー。冥界の門が開きかけてたから、逃げた方が良いよー」
「妖精さんはっ?」
「僕らも、妖精界に退避するよー」
「何で助けてくれたんですか?」
マリアが聞くと、
「メティス様はさー。彼は、妖精神ユリシス様の子だからねー」
「メティス様っ! 私の信仰する月の女神アスタルテ様は、メティス様の眷属なんですよっ!」
パステルが興奮する。
「あー、アスタルテ様ね。でも、メティス様は、死んだよー。メティス様ー。シクシク」
「「「?!!」」」
「ん?でも、最期、転移したから、もしかしたらー?」
「何てことっ・・・」
「・・・・・・君たちー・・・ここ危ないからー・・・一緒に、妖精界に来ないかい?」
その後、すぐ後から、地下から脱出した英雄一行。人々に詫び、呼びかけた。
『私達は、亜神デウス・エクス・マキナに謀られて、冥界神メティス様と、守護竜王エイダ様を死なせてしまいました。魔王と、亜神の侵攻が始まります。この国から離れ、遠くに逃げて下さい』
守護天使長クリムが、都、街、村々に警告を与えて回る。
上位種である天使が与える警告は、受け入れられ、ガンマール魔導王ガノと、ガンマール魔導師団は、撤退戦を演じる為準備を始めた。
各国に、救援を要請する為、念話、早馬も飛んだ。
だけど、平和に慣れた小国には、何の避難訓練の経験も無い。
それから、七日後。
迷宮から魔王と眷属。魔人、大量の死霊、ゾンビの集団が溢れ出た。
迷宮の魔物は、魔王の眷属を止める為、使命を果たし、侵入者との戦いで多くが死んだ。
成れの果てのゾンビ達の中には、ユニコーンやペガサスと言った幻獣や、ライオス達が討ちもらしていた竜族もいた。
亜神と関係を絶った英雄一行が抵抗しながら、亜神、魔王の軍勢と戦ったが、ガンマール国はもうダメだろう。
王国建国時代は神から王達へと、地上の権限が移譲された。
輝かしい時代だった。
今、国々は、神、王、人も、亜人も、存続の為の戦い。魔との戦乱の時代を迎えようとしていた。
この戦いを【ガンマール大戦】と呼ぶ。
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