第三十五話 魔法少女と大悪魔
後から、お土産の箱を持ってやって来たケルベロスちゃん、ファウナ。
瞬間移動で小学校低学年の賢者、詩歌ちゃんもやって来た。
1階のリビングに皆んなで降りて、蛍も加わり大勢でお茶会が始まる。
お客様用の白磁のカップ&ソーサーに紅茶を淹れていく蛍と、それを手伝う子供達。
お土産の箱から取り出されたカヌレを、顔を輝かせて並べる。
食欲を唆る芳しい甘い香り。
コロンとした、可愛い小さめのお菓子。カヌレ。「溝のついた」という意味の名前。
正式名は、カヌレ・ド・ボルドーというらしい。甘みの中にほろ苦さ。外側パリッと、内側しっとりもっちり食感。
上品な味。
「「美味しい♪」」
舌鼓を打つ。
(あっ)
とても気に入ったのだろう。白髪ツインテールの可愛らしいムードメーカー。天使長シャルロット・スィーは、カヌレを複製魔法でこっそり増やしている。
それを、エヴェリンとラウラが、パクパク食べて行く。
それに気付いた詩歌が興味深く観察。
動作を真似し始めた。
「皆んな皆んな。さっき空君がね?」
そこで先程の、空が大人になって、また元の姿に戻ってしまった話を真白が始め、桜、天使達がその感動を告げると。
「「私も見たい(です)!」」
新たに4人が、声を揃えた。
かなり、切実に見たいと態度に出ている。
先程、目にした少女達も、性格が真面目なクリムすら、娯楽と感じ、ワクワクした。
目を輝かせる皆の期待に、応える。
「ん。淑女の皆様のご期待にお応えします。でも、力は増すけど、見た目は大人になれるだけですけど?」
「凄いよ? 子供が大人に変身する何て、アニメか特撮か、映画の主人公だけだよ空君?」
真白がツッコミを入れた。
変身ヒーロー。
これは、それを特撮では無くリアルで見せる奇跡。
空の身体がまた光り、変身した。
皆んな目を輝かせ。ケルベロスちゃん等、感極まって目に涙を溜めて頬を染める。その表情は、とても美しい。
そんな中。賢者、詩歌も感動して、見つめていたが。
聖杖アヴィリオスを、どこからとも無く取り出してから、
「?」
何かを、反芻する様に呟き。
空の変身ポーズを真似て右手を挙げた。
瞬間、詩歌が後光を纏う様に光り。
「「「!!?」」」
光が消え、そこにいたのは。
綺麗な顔立ち、物静かな文学少女の様な、おさげ髪の美少女。
真白の通う中学校のセーラー服と同じ物を着ている。
身長、身体付きは、胸、腰、お尻のメリハリは子供から、思春期の女性らしく成長。歳は15〜16歳位になって見える。
「師匠♪ 出来ました♪」
空を慕い魔法の師弟関係となっていたが。
聖杖の性能だけでは無い。
霧谷 詩歌は、魔力を扱う才能が有ったから賢者になった。
変身を、模倣習得してしまった。
「綺麗!?」
「可愛い! 詩歌ちゃん?! わ〜。私と同じ制服だよ♪」
「「魔法少女!?」」
藤林姉妹、エヴェリン、ラウラ。子供組は大興奮。
天使長も真似出来ない奇跡の再現。
「んゃ、どうでしょうか?」
皆に明るい笑顔が広がる。
「その才能・・・・・・まるで、私の妹弟子ディアナの様です」
口に手を当て驚くクリムの呟き。
天使長達も、賢者霧谷 詩歌を要人と認識した。
◆
楽しいお茶会を終えて。
変身した2人は何故かそのままで、空と仲間達は、ゲーム版ソーサリースフィアに挑んだ。
初めの頃。ゲーム内では、会話をキーボード入力していた。
今更だろう。このゲームが、超常の力を帯びる事は、プレイヤーには分かっている。
今では喋った言葉が、音声入力の様にゲーム内で会話となった。
動きも、思った通りに反映される。まるで、バーチャルゲーム内で行動している様。
タイムラグすら無い。
プレイヤー達は、提供されるその状況を楽しんだ。
「今日は、戦力が強化されたので、トッププレイヤーを追って下層を目指してみましょう」
もっとも下層に進出しているプレイヤーは〈グレース〉、〈ストレイシープ〉、〈アシェラ〉で数日前迄は、地下78階層だった。
この3人は〈イージスの盾〉と、それぞれに新たな武器を得、更なる快進撃を始めているだろう。
次いで〈結花〉、〈ロザリンド〉、〈幸村〉、〈聖〉の地下69階層。魔力と力を倍増する〈栄光の指輪〉を得ている。
〈黒武〉、〈勇輝〉、〈マアヤ〉、〈美夜〉、〈晴明〉の5人は、地下63階層。傷を時間経過と共に自動で癒してくれる〈ナイチンゲール〉と言うスキルを得た。
空と仲間達は、地下58階層を探索していた。
今日は、そこに蛍と天使達も加え、開始2時間半で、一気に地下75階層に進んだ。
その階層。幾つもの部屋が在る石造りのダンジョン。回廊最奥。
天井の高い広い部屋に着く。
暗黒の気配を纏う、巨大な水牛の頭に、筋肉の発達した人型の身体が大剣を振るっていた。
毛むくじゃら巨体の大悪魔。名前を持っていた。その名は〈ザハラ〉。
それとバトルするプレイヤー集団と遭遇。
〈結花〉、〈ロザリンド〉、〈幸村〉、〈聖〉、〈黒武〉、〈勇輝〉、〈マアヤ〉、〈美夜〉、〈晴明〉と、プレイヤー名が表示された9人。
「「・・・・・・」」
「私達が加わったら、過剰戦力ですかねー」
赤髪お嬢様天使長ソフィアが発言。
「そうね」
ケルベロスちゃんが頷く。
そう思っていた。
でも、見ていると。
大悪魔は、ダメージを負うが、プレイヤー達と一進一退のバトルをしている。自動回復能力も持っているようだ。
「ザハラ。あの悪魔は、大魔王アスモデウスの息子の1人。魔王の雛。大悪魔です。準魔王。そんな存在ですね」
空は、メティスの記憶に有る悪魔を語る。
だけど、それを聞いても仲間は動じない。ザハラを観察している。
ランキング4位と8位(パーティーとしての順位は、2位と、3位)が、特典アイテムで強化されたのに決められない。
ランキング付けの後、実は、冥界迷宮の魔物悪魔も、現実の力に応じてワンランク強化されていた。下層では魔王級が出現するのだ。
戦っていた2チームは、新たなプレイヤーが出現した事に、
「ねえ、貴方達お願い! どうやっても倒せないの! 手伝って! 貴方達のパーティー、ランキング何位!?」
黒いドレス、箒を持った少女。白い肌。黒いロングヘアの子が助力を求めて来た。
3位のパーティーに居た、美夜という名の意志の強そうな少女だった。職業は魔女。
「パーティーとしてなら、4位です」
空が答える。
「助かったぁー!」
目に見えてホッとして、言いながらも、
「幸村さん、聖さん、黒武、勇輝! 弱体化解除して貰って! 私が時間稼ぐ! 後衛、サポート頼んだ!」
周りに指示を出して、自ら魔法で、火球、火炎放射、爆破、爆撃。設置型魔法、地爆と多彩な炎攻撃を重ねる。
大悪魔が、炎を嫌い、ダメージを負って距離を取る。
その間、前衛の回復と、弱体化解除が行われた。
2位のパーティーとの合同で戦っているのに、この子がまとめ役になっていた。
(優秀な子だ)
空の仲間達は、薄々感じていた。
空を取り巻く人もだが。プレイヤー達は何か。ただ偶然、ゲームを買っただけの人では無く。運命的な、選ばれた人達なのでは無いかと。
この子も目鼻立ちの整った美人だ。
2位だったパーティーは、攻撃、防御力は優れる。
魔力と力を倍増する〈栄光の指輪〉を得ているからだ。
このパーティーは、前衛は〈幸村〉、〈聖〉。武将と聖騎士だ。
「大悪魔の大剣を捌き、懐を攻撃する武将。無駄の少ない太刀筋! 聖騎士は、騎士盾で後衛を護り、敵の攻撃を引き受けている」
後衛で〈結花〉と、〈ロザリンド〉。精霊姫と、聖女。
「精霊姫と聖女! 賢者と並んで、強力な特典職業です。レベルも高い。精霊姫は、大気の精霊エアリアルを召喚して嵐を起こし攻撃している」
空が説明する。
「聖女は、防御と回復では、トップクラス。結界で、大悪魔を弱体化もさせている」
3位は、前衛が〈黒武〉、〈勇輝〉。上忍と、双剣士。
「こちらは、上忍が、撹乱、目潰し、毒霧等、状態異常を付け? あ、双剣士と共にダメージを恐れず斬り込む。スキル〈ナイチンゲール〉の効果で、自動回復出来るからか」
中衛が、〈マアヤ〉。花の妖精。
「花の妖精?! この子、人じゃ無い?! 妖精族になってる! ステータス上昇効果の魔法!」
後衛が、〈美夜〉、〈晴明〉。魔女と、陰陽頭。
「陰陽頭は、式神で・・・・・・」
美夜は、的確に状況を話す空に、
「お兄さん! 凄い分析力だけど、それどころじゃ無いのよー!」
泣きそうだ。
延々とこのバトルを続けているが、終わらない。倒せないし、やられない。逃げられるかもしれないが、時間をかけているので、それは悔しい。
「もう、どうしたら良いか」
半泣きになる。
「分かりました。皆さん。参戦します」
「「「はい!」」」
巨大悪魔ザハラ。攻撃力が凄いのと、呪いによる弱体化を使って来る。
3人の天使長と、巫女ファウナは、多重に神聖結界を張った。
聖女の結界を、数倍にしたバリア効果。
呪いもガードしてしまう。
次いで、ケルベロスちゃんの歌に乗せた奇跡。加護で、ステータスが急速上昇する。
大人になっている甲斐 空が、神剣カルディナリオスを。鍔と護拳に守られたグリップを掴み、鞘から引き抜く。
その威圧感。
悪魔は麻痺してしまった。
「!?」
それからの戦闘は。
美夜が、どう連携したら良いか考える迄も無い。
藤林 真白の神弓で、左目を射られる悪魔。その目は、弾け飛ぶ。
「グギィヤァアアアーーーーッ!!」
苦悶。
藤林 桜が叫ぶ。
「アルティメット・ドラゴン・ブレス!」
その咆哮は、流星の様なエネルギー砲になり撃ち出された。
超高熱の指向性攻撃。接触面に凄いダメージを与えていく。
「はあ?!」
「何!? その攻撃!?」
「人が?! ドラゴンブレス撃った?!」
ダメージを受けたザハラ。暗黒の気配が高まる。生存本能から、今迄隠していた超強力な必殺、反撃の大剣を、唸りを上げ振り下ろし。
「わ!?」
いや、振り下ろせない。
予期した詩歌が杖を横に振る。消去の魔法。剣と、剣が生んだ衝撃波も、諸共消えた。
あの速度の攻撃を、あの質量の大剣を。衝撃波ごと正確に消す。
詩歌も変身して能力が跳ね上がった。
「はっ!」
空が接敵。神剣を横薙ぎに振るう。
斬る。
斬れ味は凄い。悪魔の胴体と両腕が、切断。
最初からの参戦者9人は、呆然として。
「実力が、桁外れだよ・・・・・・」
共感。
だが。
悪魔は、この倒し方では、現実世界ではいつか復活してしまうのだ。
かつて、メティスとケルベロスちゃんが護っていたのは、それを時間をかけて浄化する為の冥界だった。
その魂を滅ぼす。
仮想のゲーム空間。ここで、その訓練を積む。
その間。蛍が、
「写鏡。・・・・・・? 写鏡! う・つ・し・か・が・み!」
習得したスキル〈写鏡〉を何度か使ったが、これはどういう効果か分からない。鏡が淡く光るが効力を発揮しない。
空が神威を高める。
「ひっ?!」
超常の力の高まりに、美夜を始め、魔力感知能力の高い者達は、畏怖で震えた。
参戦者は皆、もう知っている。
このゲームで付けた能力、力、武具、アイテムは、現実世界に持ち帰れる事を。
と言う事は。この空という男の、人智を超えた力は!
空の見せ場。
でもそれは。自分も何かの役に立ちたい、蛍のもう1つのスキルで。
無くなってしまった。
「月天」
透き通った声。
蛍はもう1つのスキルを、初めて使った。
両手で持つ大振りの神鏡から、月の光の様な、青銀光が悪魔の巨体に放射され。包む。
水牛頭の大悪魔は、満月が月齢で形を変えて行く様に、徐々に消えて行った。
「「「!?」」」
ザハラが、完全に消えた。
美夜の仲間も、悪魔の気配が消えた事は分かる。
衝撃だ。
その時、参戦プレイヤーに経験値が入り、全員のレベルが幾つも上がった。
幾つかのドロップアイテムも有る。
これなら、次回は、美夜達でもあの悪魔に勝てるか。
9人のプレイヤー達が、空達に向ける眼差しは。
「・・・・・・空、・・・・・・そら♪」
魔女の美夜は、空のプレイヤー名を確認。反芻。大人の空に一目惚れしていた。
彼女は、お嬢様学校に通う女学院生。高校1年生。
聖女のロザリンドには、分かってしまった。
自分達を救った者の中に居る。
「神様・・・・・・私を導いて下さい」
花の妖精マアヤも、大気の精霊に耳打ちされた精霊姫、結花も跪く。
プレイヤー達に付いている案内の妖精さんも、空を崇め讃えた。
それにしても、大火力や、溜めが無く、光に包んだだけで魔王に準じる大悪魔を消滅させた。
日本神話の3貴神の1柱、月読命の力を得た、甲斐 蛍の職業、迦具夜。
月は魔力を持つ。地球の衛星の月は、長い時を経て膨大な魔力を宿した。
それは、ソーサリースフィアの月、聖月 アスタルテ、魔月 魔王銀以上の時を経ていて。
(今、1番強い月の女神は、母さんかもしれない)
「あれでは、退魔の技では最強技では無いかと」
ファウナの告げる言葉に、空は、びっくりしている母を見つめ、笑顔で頷いた。
蛍は、そんな息子の笑顔を見て、嬉しく。微笑んだ。