第三十二話 天使【挿絵有り】
この回は、挿絵が有ります。
読書様の想像と違ってしまうかもしれません。表示非表示は、選べる様ですので。
挿絵は、みてみん から、輝(僕、立花耀市のイラストを描く時のペンネームです)。
「ここですね」
3人+(?)の少女が、JAZZ喫茶トゥー・シスターズの、ウッディ調な外観に見入っていた。
閑静な住宅街の中程に在る2階建て。1階部分が喫茶店になっている。
通行人の男子学生が、驚きの眼差しで少女達を見て。後ろ髪引かれながら通り過ぎて行った。
少女達は、美しい。それぞれ、セミロングの菫色の髪、ツインテールの白い髪、赤く長い髪の少女。
それに、異国風の衣装が合わさり、完成度が異常に高い美少女コスプレイヤーさんの様。
「? ここは?」
「ここは、お茶とお食事をいただく所です」
「良い♪ 喉渇いたよ。お腹も空いたね。でも、私達、こっちのお金持って無いよね?」
「お茶をしに来た訳では無いのです。会わなければいけない方が、ここに・・・」
「その前に、この服装は目立ってしまってますね。こちらの世界の服装に」
「うん」
女子大生風の、グループが歩いているのが見えた。
「あの人達の服装、シンプルで良いね」
頷き、何かを唱えると、3人の服は姿を変えた。
◆
「ただいま〜」
喫茶店、入口のドアを開けると、ドアベルがカランカランと鳴る。同時に寒気に襲われた。
「!?」
気配を殺しているが、これは。
落ち着いた照明の店内を、慌てて見回す。
(パパ、ママは大丈夫。いる。お姉ちゃんは、まだ帰っていない?)
ソファー席に座っている3人組(?)の、女性客。その1人、シンプルな長袖Tシャツとジーンズ姿の菫色の髪、美しい少女と目が合った。
「!」
「あ、桜。おかえ・・・・・・」
私に気付いたママの言葉は、途中で止まる。
私の目は、金色に輝いているだろう。流れていた音楽も、人々の声も動きも、時間が止まった。
人々が、静止するその中で。
「竜眼。エイダ様ですね?」
私の息は、まるで戦闘態勢の獣のように荒くなって。
(メティス様の敵では無い。でも彼女は、この天使は私を、エイダを殺している!)
「私は、藤林 桜。エイダと1つになった竜人です。守護天使長クリム、何故、貴女が地球に。パパとママのお店にいるんですか!」
「エイダ様が竜人に! 人と融合を!?」
驚きの声を上げたのは、クリムの側にいた2人の内の1人。ネイティブ柄の上着を白シャツの上に羽織り、ショートパンツ。白髪ツインテールの。
「シャル・・・・・・ロット・スィー?」
「はい! やっぱり、エイダ様なんだ。お久しぶりです。凄〜い。可愛くなった♪」
ホッとする。エイダの記憶によれば、シャルロットは冥界神メティスの眷属である月の女神アスタルテに仕える月天使の長。
冥界神殿にも度々訪れた旧知だ。
この3人。翼は見えなくしているけど、天使長級。
脅威的。完全に敵では無いシャルロットが1人いるのは救いだ。
黒いハイネックのシャツに、アースカラーの膝下丈のスカート姿。赤髪の天使は、クリムを見やる。
クリムは。
頭を深く私に下げた。
「エイダ様。藤林 桜様。此処へは・・・・・・謝罪する為に訪れました」
(!)
咄嗟に、言葉に詰まる。
クリムは、今にも泣き出しそうな顔。
私は、深呼吸した。
「・・・・・・エイダを殺して、生き返ったのは奇跡です」
「はい」
「メティス様も、ケルベロスちゃんも、悲しみました。貴女と、ライオスには私とメティス様が殺された後、双子の兄妹が産まれたそうですね」
「!」
クリムは、目をぎゅっと閉じた。
あの時は、もうお腹にいたのだ。
「本当に、ごめんなさい」
シャルロットと、赤髪の天使は、私とクリムを不安気に見守る。
私は、しょんぼりと落ち込んだ。
でも、本当に悔しくて。機械神に騙されたライオスと、それを止められず、エイダを殺す時は魔法で手を貸したクリム。
ソーサリースフィア世界は、2柱の神と、竜王を失い。大魔王を解き放つという大惨劇。
どれだけの人が死んだのか?
その中、このクリムとライオスには子供が産まれた。
人間が子供を産む過程が、エイダの知識の中に有って、記憶として、私に与えられた。
(!?)
その生々しいシーンは、私が見るには早すぎる。顔が真っ赤になってしまう。
それをどう受け取ったのか。
「私が死んだら・・・・・・赦して貰えますか?」
クリムが言った。その時、私は?
それまで何処にいたのか、ソファーの後ろから羽の生えた小さな2人の天使の子供? が。
「クリム様! 死んじゃ嫌です!」
「嫌・・・・・・だぁっ! クリム様ぁっ!」
それは、4枚羽の女の子だった。
「? 私が時間停止したこの中で、こんな子達が動けるの? 誰の子供ですか?」
首を横に振り、否定するクリムに。シャルロットが続ける。
「違うよ。元は、悪魔王に殺されて・・・・・・魔女にされた指揮官級の優秀な天使なんだよ。悪魔王が消滅したから、天使に戻る事が出来たのだけど、何故か子供の頃の姿になっちゃったの」
その子達は、実際には子供では無い。クリムを責める私に、懇願し出した。
「「エイダ様!」」
金髪碧眼。幼い天使の女の子達。涙目で見上げてくる。可愛さは驚異的だった。
「か、可愛い♪」
「!」
その時、赤髪の天使? が閃いた! という顔をした。そして。
「桜様。私は、ソフィア・ローツェと申します。クリムさん、シャルロットさんと同格の守護天使長です」
エイダでは無く桜と、私を呼んでくれた。
「ご相談が有るのですが」
何か?
「クリムさんを赦していただけるなら、この可愛い天使の子達は・・・・・・貴女に差し上げます」
え?
ソフィアの発言に、クリムとシャルロットが、何言ってるんだろうこの人という顔をしている。
子供達も、キョトンとしている。
ニヤリと、自信に満ちた赤髪天使。
私は、動揺した。この子達が、私のモノって。
見れば見るほど可愛い♪
でも、それじゃあ人身売買の様。ペットでは無いんだから。何を言ってるんだろう。
ソフィアは、子供達に。
「エヴェリン。ラウラ。貴女達は、桜様に仕える意志は有りますか?」
ソフィアから、不安そうな視線を桜に向ける。
何て無垢な。保護してあげたくなる。そんな感情が、私の顔に出てしまう。
それは、私と混ざったエイダも同じ気持ちでいる。
子供達は、私を見詰めて何かに気付いた。表情が、明るくなる。
「桜様。クリム様を赦して下さるなら、私、エヴェリンは忠誠を誓います」
「私も! ラウラも誓うっ!」
私は、小さな子達に何を言わせているんだ。
怯む心に、天使? が囁いた。
「戸惑われていますね? でも、この子達は天使です。実際、エイダ様程では無くても、桜様より遥かに長く生きています。こんな見た目でも、成人なんです」
私、クリム、シャルロット、子供達の視線を集めて。
「成人が、自分の意思で主を選んだのです。後は、貴女が受け入れるか拒絶するか?」
確かに、この2人の子は私より生きているのだ。
でもこの、何処かのお嬢様の様な、高貴さを感じる赤髪の天使さん。言っている事が何か、いけない事の様な?!
私の答えは。
◆
「桜。お帰り♪ 凄く綺麗な、外国? のお友達が来てるわよ♪」
「え、う、うん」
竜眼の効果を解いたのだ。
相席する。
天使達は、戦いの連続で、こちらに来てからはまだ、食事をしていないと言う。
料理を注文した。
子供天使達は、羽を隠した。
料理を待つ間。私と頬がくっ付く程近づいて。今まで楽しかった事や、仲間や、神様との思い出を、嬉しそうに語ってくれている。
私は、その姿にもうメロメロ。
「桜様。本当にすいませんでした」
「桜様っ♪ クリムを赦してくれて、ありがとう♪」
「クリムさん。良かった。桜様、ありがとうございます♪」
過去の事は、これから子供天使達に癒やして貰おう。
これからは、ずーっと一緒なのだから。
まずドリンクが運ばれて来た。
アイスレモンティーのコップに視線を落とすクリムを見つめる。とても綺麗だった。
明るいシャルロット。物腰の落ち着いたソフィア。私と、子供天使達。
この時。私達は、周囲のお客さんの注目を集めている。
「この喫茶店、凄いね?! あんな可愛い子達が来るんだ! 凄い!」
「また来たら会えるのかな?! また来よう!」
「尊いね!」
時刻は15時30分。続いてお料理も運ばれて来た。私も運ぶのを手伝う。
クリムは、アイスレモンティーと、サンドイッチ。
シャルロットは、鶏肉のスープカレーと、マンゴージュース。
ソフィアは、サンドイッチと、ミルクティーを。
子供天使達は、揃ってチーズケーキと紅茶。
食事に瞳を輝かせて。美味しい! と食べ始めた。
「桜様」
「様はもう良いです」
「桜・・・・・・さん。私達が此処に来たのは、機械神デウス・エクス・マキナを追ってきたからです」
「えっ!?」
「地球に来てるんですか?! そんな! 早く空君達に伝えないと!」
天使達は頷いた。
「ですが? もしかして、此処は」
「「?」」
クリムが、何を考えているか誰も分からない。でも、今は。
「貴女達の知るメティス様の生まれ変わり甲斐 空君と、ケルベロスちゃんの元に案内します。行きましょう」
「はい。あの、それで・・・・・・」
「・・・・・・」
「はい」
「・・・・・・で」
「分かりました。あちらのお金は、有るんですか?」
「有るよ♪ 月金貨で良いかな?」
「! 月金貨じゃ多過ぎです」
「星銀貨も有りますが」
「それでも多いなぁ」
月金貨と言うのは、日本の価値で言えば10万円くらい。星銀貨も1万円はすると思う。
「桜さんの、お母様に聞いてみましょう」
「お母様。美味しかったです。ご馳走様でした」
「ありがとうございました♪ もう行っちゃうの? 桜、2階に上がって貰う?」
「今日はこの後、予定が有って」
「お会計なのですけど。すいません。私達、国のお金しか持って無くて。これ、銀貨なのですが」
クリムの出した銀貨は、不思議な淡い輝きを放っている。
「まあ! 綺麗・・・・・・」
偉人だろう女性の肖像をデザインし、数字と、見た事の無い文字が刻まれている。
「これで払えますか?」
一目見て、価値の有るコインと分かる。
「多過ぎると思うわ。価値が分からないから、どれだけお釣りを出したら良いか?」
「お釣りは要らないです。とても美味しかったです。音楽も素敵でした。良いお店ですね」
「ありがとう♪ でも、そういう訳には?」
「・・・・・・クリム・・・・・・さん。本当は、良い人ですね。ここは、私が。後で返してくれれば良いです。ママ。後で返して貰えるから、私が代わりに払うね。それと、私、空君の所にお友達を案内しなきゃいけないの」
「分かったわ♪ お小遣い足りるの? 車に気を付けて行くのよ♪」
「うん。ママ、ありがとう」
「皆さん。またいらしてね♪」
他のお客さんの視線を集めていた私達。お店を出て、再び竜眼で時を止めた。
私と天使は、翼を出し空を翔んだ。




