第三十一話 従神VS
地球で甲斐 空が、父母を入れた8人組パーティーを作った頃。
異世界ソーサリースフィアでは、決戦が起ころうとしていた。
各地を転戦し、魔王軍と戦っていたアストレア王国騎士アドニスは、神のクエストを受けた。
聖剣を授けられ、戦場に急ぐアドニス。
魔王軍の侵攻で、魔導王国ガンマールと、大陸最大の大国パラミス王国は滅亡している。
魔族と死者の軍勢。
(これ以上の被害は)
正義を国の方針とするアストレアと、エルフの国ミセリコルデの連合軍が、女大臣パルム・ドゥーイーと、エルフ王アムン・レークスとで、国と人類の存亡をかけた大編成を行う。
神託により、魔王軍との決戦に臨むのだ。
東から西へ。陸路ガンマールを目指した。
2方面からの侵攻。天使も魔軍との交戦を始める。こちらは、旧パラミス領に進む。
聖従神ブリジット、炎従神レーヴァテイン、雷従神レウコテア。この、20メートル級。洗練された甲冑を纏う、騎士の様な機械化巨兵が3機。破邪の力を振るう。
軍同士の最初のぶつかりは、地形を抉った。
先制。
聖従神が両腕を天に向けると、空気が澄んだ。
「天国光〈パラディソスフォース〉」
クリムの声が呼んだ、高出力の浄化の光が視界を白で埋め尽くす。一瞬で、地形ごと魔軍の先鋒5千人強を塵に変えた。
抵抗した魔軍の将がいる。黒く巨大なコウモリの様な羽に、人の身体、頭には歪な2本角。黒髪の妖艶な女性。
大魔王に次ぐ魔王級だ。大きなダメージを負いながら、呪文を唱えている。
「回復魔法を唱えてます?」
炎従神のソフィアが続く。左右のそれぞれの掌を相手に向ける。
「神炎〈アリシアフレイム〉!」
そこから、赫く透き通り、煌めく大神炎を放射。業火が爆発し震動。魔王級を包む。
(それを耐える?)
地面はマグマの様に沸騰灼熱して。女は、大火傷で苦鳴の声を上げのたうつ。
「まさか、魔王竜?」
「ええ。魔人の姿だけど、正体は竜ですね。」
クリム、ソフィアが語る。
「先制出来たのは良かったよ。アスモデウスの騎竜だね」
雷従神のシャルロットが言い。
「星雷〈アステールローア〉!」
轟雷の嵐が狂う。
その中で、女は従神にも匹敵する巨大な黒い竜の全貌を現す。
「やっぱりだよ」
そのシャルロットの声も、痙攣し、弱々しく鳴く魔王竜の声も掻き消して。
従神達が止めを刺す。
一気にこの一帯の魔軍を蹴散らして行く。
天使軍の被害はまだ軽微。神に匹敵する戦力。従神が止まらない。
◆
同時刻。神々の主神クラトスは、月の女神アスタルテの助力を得て、エルフ乙女ディアナと隠密行動をしている。
そこは。
月白の聖月と、禍々しい力を秘めた暗い燻銀色の魔月〈魔王銀〉。巨大な2つの月が、触れ合う程近付いている。
聖月が大きく軌道を変え、移動したのだ。
それは、誰にも気付かれず行われた。
クラトス、ディアナと、女神アスタルテ、白い髪を持つ月天使の少女達が、魔王銀に上陸。
城から迎撃に出たのは、背中に黒い翼、頭上に黒い光輪を持つ魔天使軍。
かつての神姫の配下が堕天した姿だ。
高速で、呪文を唱える男性と女性の声。
魔法の完成。
巨大な魔月全体に、それを覆う大結界を張るのはクラトスと、白銀の髪と、蒼く透き通る瞳の美少女。月の女神アスタルテだ。
魔月の禍々しい気配が消えた。目に見えない結界。
ディアナが、瞳を輝かせ、その一挙手一投足を記憶に焼き付ける。彼女の、エルフの魔力を感知する目にも、魔王銀は僅かな気配しか感じられない。
(感知と魔力を遮断した。これが師匠と月の女神様の魔法)
「娘を、神姫を救う!」
◆
曇天の下。旧パラミス王国に広がる大平野で、大魔王、機械神と天使長が対峙した。
機械神は、機械の駆動する音を立てクリスタルの目で見つめる。
怒り狂った様に振われたアスモデウスの魔王剣デスシャウラで、天使軍に大被害が出た。炎従神の奥義に匹敵する爆炎。
悪魔王バフォメットの大鎌が、2人、4枚羽の有能な指揮官級の少女天使、その首を次々に刎ねる。
首と身体を、黒い炎が包み、その中から魔女として復活する。
笑うバフォメット。山羊の頭に角、人の胴体4本の腕、黒い毛むくじゃらの巨躯。
「己!」
従神の怒りの攻撃は、魔王軍の内数千を消滅させる。この地に残ったのは、共に約5万の魔王軍、天使軍。
交戦しながら急速に離脱して行く両軍。
大魔王と従神が戦えば、巻き込まれてしまう。
天使達は、怯まない。仲間が討たれても、傷付いても力を合わせ戦った。
5人ずつ集団をくんで、大きな破邪の星形、五芒星の魔法陣を空に描き、聖光を放つ。
その集団が、複数集まり一点に集中砲火すれば、大魔王は無理だが、魔王級とも戦える。
ジークリンデが殺され、メティスが討たれ、ケルベロスちゃんと異世界へ消えて。
天使の怒りは、そのやり場をここに得た。
◆
軍が遠く離れた。
隙を探り合う大魔王と従神、ライオスもクリムを守る為にここにいる。
(大魔王タナトスがいない)
双方中々動かない。
その時。
魔天使王ナリーンは、何かに気付き。天を見上げ。
天使長達は頷いた。
ブリジットのクリム。レーヴァテインの赤髪ロング少女ソフィア。レウコテアの白髪ツインテール少女シャルロット。
少女天使長達は、悪魔王バフォメットを狙って集中攻撃を開始した。
大魔王は、神に匹敵する脅威。
だけど、この3人の天使長も、従神に乗れば個々で、最上位のSSR級の神に匹敵する。
3対1なら。
アスモデウスは、拮抗した実力者ライオスに阻まれ、バフォメットに加勢する事が出来ない。
ライオスの、クラトスから与えられたその剣は、アスモデウスのダマスカスソードと火花を散らし戦えている。
ナリーンは沈黙。タナトスは姿を見せなかった。
「何故、手を貸さないナリーン!? 神姫がどうなっても・・・・・・!」
そこ迄言って、異変に気付く。
魔月〈魔王銀〉とのアクセスが消えている。
「亜神殿!」
アスモデウスの訴え。
機械神は、まだ事態が分からない。魔天使王ナリーンと、その腰の剣を不思議そうに見つめた。真意が分からない。
(大魔王達の加勢に入って・・・・・・後ろからナリーンに斬られる事も有り得るのか? 何故?)
大鎌を振るい、従神に対する。バフォメットは、山羊の頭で吠える。
先程首を刎ねられ、魔女として復活した2天使が加わり、バフォメットと共に攻撃して来る。
だが、神聖結界が聖従神により増幅されている。
魔弾は爆音と粉塵を立てるだけで、全て掻き消えた。
神速の余り、雷鳴と、白い軌跡を残し移動するシャルロットの雷従神がカウンターアタック。
雷を纏い2魔女に触れ、無力化した。
背後からの悪魔王の鎌と、レウコテアが振り向きざま右手で放った雷が激しく撃ち合う。
「あなたは許されない。今度こそ滅却します!」
クリムが宣言。
「はい!」
「うん!」
雷従神が押し勝つ。態勢を崩した隙を3つの奥義が。
聖従神の魔を祓う神光。
「天国光〈パラディソスフォース〉!」
それは収斂された光閃となって顕れた。
炎従神の浄化の炎も。
「神炎〈アリシアフレイム〉!」
輝く赫い業火が、魔王を包む。
続けて、雷従神が、魔女にされた2人の天使を内部へと保護しつつ。破壊の神雷を。
「星雷〈アステールローア〉!」
大魔王を中心に、轟雷が荒れ狂う。
3種類の奥義の同時炸裂。
「「「神技〈セオスティモリア〉!」」」
力が乗算された。白、赤、青。光が眩く色を変え。悪魔王バフォメットがゾッと怖気を刻む断末魔を上げ、何も残さず消えた。
死後、冥界にも天国にも行く事は無い。肉体、魂、存在を消却した。
その攻撃をライオスは、回避しながら神札と剣で結界を張り耐えた。巻き込まれてはいない。
仲間の死に様に、アスモデウスは寒気を覚える。
悪魔は、より力が有るものに付き従う。
その力を見て、離脱に走る。
それを。
背中からライオスが斬った。
大魔王をあっさりと。
魔天使ナリーンが笑い出す。
「殺してくれた。悪魔共を」
天使長達に、
「もう、戦う意味は無い」
と伝えた。
機械神も笑う。
「どういう事か分からないが・・・・・・ならば」
攻撃態勢に入った。機械の駆動する音。次から次と、身体から神槍を生み出し、それが物凄い勢いでその場にいた全員に襲い掛かる。
ナリーンにもだ。
冥界神メティスを殺した神槍の攻撃。神の防御結界すら貫く。
でも、対処法は検証済み。
「「「キュクロスシールド」」」
天使長達は、クラトスが新たに教えた防御結界を張る。円形の光の盾が無数に顕て神槍を弾く。
「! 我が槍を」
ライオスが、機械神に向かい。
「神聖爪!」
剣が光輝き、目にも留まらない速度の大技を放った。その攻撃は、3連。斬り裂く衝撃波。大斬撃となる。
袈裟がけ、横薙ぎ、唐竹割りに前方向の全ての槍が吹き飛ぶ。機械神の巨大障壁とぶつかり、防御を貫通する。
障壁が貫通される前に、空に飛んだ機械神デウス・エクス・マキナ。
「凄いね!」
その隙を狙う。雷従神の神雷攻撃。
「シャルロット。速いな・・・・・・」
神槍が飛び来て、追撃を遮る。
そんな中、ナリーンはその攻撃を意に介さず機械神の槍を黙々と叩き斬る。その手にした妖しい魔剣で。
羽ばたき、悠々近付くナリーンに機械神が間を取る。
(ナリーンの力は・・・・・・どれ程。あの剣は)
神槍の攻撃が激しくなる。複雑な軌道。全方位から伸びてくる。
一時的に光の円盾結界が破れる。回避運動。迎撃。
ライオスとブリジットが互いの背中を守る。
ナリーンは無数の槍を躱す。斬る。弾く。それを、姿を止めず、高速で。
雷従神も攻撃を、高速移動で回避出来る。
神雷も放つが、魔力の大障壁に阻まれる。
聖従神は、盾を構える。
炎従神は、爆炎で槍を吹き飛ばし。
機械神の攻撃が途切れない。
(クリムは、ライオスを庇いながらでは危ないかも知れない)
「彼女達には恩義が有る・・・・・・恐らく、あの方は」
魔天使王ナリーン。
その身体が、2対の角を持つ黒い光の巨人のオーラに包まれる。全長20メートル級。
それは。
「「「魔従神ルシファー!」」」
「・・・・・・不滅球〈アサナトスフィア〉」
黒い球体がルシファーから、生まれ、機械神の全ての神槍攻撃を飲み込んで無効化した。
「!」
更に3つの球体が顕て飛翔。機械神を、その障壁ごと飲み込もうと。
機械神のクリスタルの目が、妖しい輝きを放つ。
クリムが叫ぶ。
「ナリーン! その従神は駄目なんです!」
「シークレットコマンド入力。緊急停止。攻撃無効。防御無効」
機械音声が高速で唱える。
魔従神が動きを止め、機体にナリーンを繋ぎ止める。魔法の球体が消えた。
咄嗟に拘束に抗うが、神槍がルシファーの胸、腹、四肢を貫通。中のナリーンは血を吐き、仰反る。
天使長達の従神は、機械神の仕掛けたコマンドを解除済みだったが、魔従神だけは。
「契約者書き換え・・・・・・」
今にも事切れそうなナリーンを残して、魔従神が消えた。
(こんな事も出来たなんて。ケルベロスちゃんの時は、メティス様に隙を作る為にここまでしなかったのか。ナリーン・・・・・・!)
かつての天使長仲間の無事を願うクリム。
「・・・・・・これでメティスを。ルシファー〈航路開示〉地球」
魔従神からデータが、機械神に転送された。
「航路確認。地球か。フフ」
面白がり、両手で印を組む。すると、7色の光が機械神を包む。
「異世界転移だよ!」
シャルロットが雷従神から叫ぶ。この中で、最も早いそのスピード。神雷を纏い突撃する。
咄嗟で最大威力では無い。だけど。
((障壁が無い。今度は当たる))
その前に、傷付きヒビだらけの魔従神が出現。黒い球体が顕て。
「ルシファー! 不滅球〈アサナトスフィア〉!?」
(飲み込まれ!?)
絶望した瞬間。雷従神は、全力で後退した。
「?!」
(躱せた? どうして?)
「やるな・・・・・・シャルロット。見縊っていたか」
薄氷を踏む思いで戦う。
「タナトス・・・・・・こちらは任せる」
「?!」
最後の4大魔王タナトスの名に、動揺が走った次の瞬間、機械神と七色光は消えた。
「! メティス様が・・・・・・このまま機械神を行かす訳には」
天使長の思いは1つ。
「クリムさん。今度こそお救いしましょう」
「そう。アスタルテ様の為にもだよ」
頷き。
魔王軍は、未だ残っている。この地の帰趨もまだ分からない。
(それでも!)
「・・・・・・貴方。ウルとエリスを頼みます」
「クリム」
ライオスも頷いた。
座標を確認。地球へ。機械神を追う。
再び7色の光が現れ、それが消えた時。
脱力し、立ち尽くす。
(俺を・・・・・・息子と、娘を残して行ってしまった)
ライオスは気持ちを繋ぎ止めた。ゆっくりと、ナリーンに近付く。彼の傷は致命的なのではないか。
「ジークリンデ・・・・・・様」
呟きが聞こえる。何か出来る事は。
ナリーンは、達観した様に薄く微笑んでいた。
「ナリーン」
傷を見るその目に。
「?!」
ナリーンが手にする素晴らしい魔剣が、ライオスを誘っている。
その視線に気付き、ナリーンが弱々しく。
「止めろっ、この剣・・・・・・は、魔・・・・・・なとす・・・・・・危険」
そのまま意識を失った。
剣の妖しい輝きに、ライオスは。
慣れないバトルシーンを書いてみたのですが、どうだったでしょうか。




