第二十九話 伝家の宝刀
ゴールデンウィーク2日目。同人ゲーム〈ソーサリースフィア〉内では告知が有った。
冥界迷宮探索の、ランキング付けが開始され、それに伴い。現時点での順位にも報酬のアイテム、スキルが、プレイヤー各自に付いている迷宮妖精から、ランキング10位以内に入った者に授与された。
「冥界神メティス様からの、ご褒美ですよ〜。おめでとうです♪」
進出階層、順位、受け取った報酬は全てのプレイヤーの知る所となった。
今、もっとも下層に進出しているプレイヤーは〈グレース〉、〈ストレイシープ〉、〈アシェラ〉で、共に地下78階層。
同率首位。
この3人には同時に、多方向から来る攻撃も12撃迄、完全自動防御してくれる〈イージスの盾〉と、それぞれに新たな武器が付与された。
次いで〈結花〉、〈ロザリンド〉、〈幸村〉、〈聖〉の地下69階層。同率4位の4人には、魔力と力を倍増する〈栄光の指輪〉が。
〈黒武〉、〈勇輝〉、〈マアヤ〉、〈美夜〉、〈晴明〉の同率8位の5人。地下63階層。それぞれ傷を時間経過と共に自動で癒してくれる〈ナイチンゲール〉と言うスキルを得た。
残るプレイヤーは、13位以降になってしまい、トップ10のランカーを羨んだ。
「僕達は、地下58階層で13位でしたね」
「惜しかった」
と空、ケルベロスちゃん。甲斐家での事。
ファウナ、真白、桜が微笑む。そして、新たに空に師事し、加わりたいと言う詩歌。
学生が、勉学、家の手伝い等も熟しながらだから、かなり頑張った順位。
逆に、トップ10のプレイヤーが、異常な進出をしている気がする。
2台のパソコンを交代で使うしか無かったのだが、空の父、甲斐 秋一がこの度、人数分のノート型パソコンを用意してくれた。
過分な、好意に子供達は驚く。
午前中、空は全てのパソコンのセッティングで、大忙し。
お昼は真白の主導で、わいわいと分担して、子供達で料理を作る事になった。
空の父母。秋一と、蛍に何か喜んで貰える事が出来ないかと。話し合い、お小遣いで食材を買ってお料理を作ろうという事になった。
JAZZ喫茶が忙しい父母に代わって、簡単な料理を作る事が有るのは真白。
責任重大と緊張しながら、指示を出す。
お湯に玉子を入れ、温泉たまごを先ず作る。
(ファウナ担当)
包丁で、ジャガイモ、人参、玉ねぎを一口大に切って。
(真白、ケルベロスちゃん担当)
「やっぱり、玉ねぎは目に沁みるね〜」
「本当」
皆んなで涙目になって逃げ出したり。戻って来たり。
海老の殻を剥いて、背わたを爪楊枝で抜く。器に入れ、塩水で軽く洗って、片栗粉を塗す。
(真白、桜担当)
「海老の器は、ラップをして1度、冷蔵庫に入れて置こうかな」
「うん」
お湯を沸かし、コンソメを適量溶かし入れたお鍋に、まず人参と玉ねぎ、しめじを投入し火にかけタイマーで20分強計る。
(タイマーは、詩歌担当)
途中で、ソーセージを入れる。この辺はアバウトだ。
タイマーが鳴ったら、ジャガイモを投入。
火をかけたまま、再び7分計り、時間が来たら、海老と、缶詰めのスライスマッシュルーム、温泉たまごを投入。
火は止めず、そこから3分計り、黒胡椒で味を整え、時間が来たら火を止め完成。
丁度、部活の朝練指導を終えた秋一が帰宅。玄関から、リビングにやって来る。
「ただいま」
「お帰りなさい。秋一さん♪ お疲れ様です」
「お帰りなさい。父さん」
「「「お邪魔してます。おじ様」」」
「いらっしゃい。皆んな。今日はありがとう。お昼、楽しみに帰りました」
「はい♪ 今、出来ました。ご用意しますね」
「ありがとう。手を洗って来るね」
真白が、皆んなの分をお皿に盛り付ける。
子供達も、人数分のお水を用意。炊いておいたご飯をお皿に盛って、席に着く。
リビングテーブルは大きい。
でも、8人も居ると流石に手狭。6人なら、無理に座れなくも無いが。空、ケルベロスちゃん、ファウナ、桜は、キッチンカウンターの椅子に座った。
「おじ様、おば様。どうでしょうか?」
子供達が、期待して秋一、蛍を見詰める。
「ポトフなのね! いい香り。海老と、マッシュルームも入ってるわ。具沢山で、美味しそう♪」
「ポトフか。本当だ。これ、凄いな」
子供達で作ったポトフは。
「「美味しい!」」
人数分の声。
「皆んなで作ったからです♪ 藤林家では、ソーセージはポトフで食べるのが大好きで。私のお料理は、簡単な物ばかりで、レシピも割と適当なんですが」
「その年でお料理もしているのね。こんなに作れるのは凄いわ。皆んなも、ありがとう♪ 空君は幸せ者ね。こんなに可愛い子達と将来を約束して」
「だね」
「はい!」
蛍、秋一、空の言葉に、皆んなで、ほんわかとはにかむ。
甲斐家では、子供達の仲は公認になった。
食後。食休みを挟んで。
「真白さん。霧谷 詩歌ちゃん」
「「はい?」」
「僕は、立帝中学校で歴史を。中学校と高校で、剣道を教える先生なんだ」
「え!? 立帝中学校の、甲斐先生なんですか!? 剣道部の顧問の、お兄ちゃんのいつも話してくれる日本一の先生!」
「士涼君の!? おじ様が剣道を!」
「うん。僕も、先日、記憶乙女に記憶を見せて貰って、こんな偶然が有るんだね。2人には、話して置かなきゃと思ったんだ」
「偶然じゃ無いんです。お兄ちゃんが、立帝を選んだのは、甲斐先生が、日本一の剣道の先生がいるからだったんです」
瞳を輝かせる詩歌。
秋一が微笑む。
「じゃあ、空君も剣道を習っているんですか?」
ワクワクと、嬉しそうに聞く藤林 桜。
「いや、まだ教えて無いんだ。でも空は、何か闘う術を会得していただろう?」
「「?!」」
「お父さん。気付いていたんですか」
「うん。空と、ケルベロスちゃん。2人の纏う空気には、畏敬の念を感じるんだ。戦わずに勝つ。達人の境地とは、こういう事かと思ったよ」
「凄い!」
ケルベロスちゃんが、秋一の観察眼に驚く。
「ところで、機械神デウス・エクス・マキナは、この地球にやって来ると思うかい?」
「あちらで、神々はソーサリースフィアの損害を恐れて、機械神、魔族との全面戦争に踏み切れていない。人間の騎士アドニスに、四大精霊の力を宿す聖剣を託した様ですが、人類だけで、対処出来るとは思えません」
「うん。あちらからやって来るか、空自身、あちらに戻るつもりなんだね」
「はい」
「僕は、空の力になれそうかい?」
「はい。この上無い力です」
「そうか。教え子の、霧谷 士涼が、ここの所、急激に力を付けたのだけど」
ゲーム版ソーサリースフィアのフィードバックだ。
「僕も、そのゲームに挑みたい」
「はい。お願いします」
「私も!」
蛍が名乗り出る。空は戸惑ったが、これは秋一の予想通りだ。
ノート型パソコンは、人数分用意して有った。
スタート。オープニングアニメは、スキップする。
キャラクター作成。
容姿:
種族:人間
名前:
性別:
年齢:
職業:
容姿の所に、秋一の優しげな顔が入った。
「このゲームのシステム。パソコンのカメラを利用して、製作者本人の姿を映してキャラクターを作れます。ゲーム内では、〈魂映し〉と呼んでいます。」
「でも、これって」
「はい。本当に魂、身体をゲーム内に投影し、鍛える事が出来る魔法のゲームです」
「種族人間。名前、秋一。性別、男性。歳。」
「歳は選べるの?」
「最初だけ、若くも年老いる事も出来ます」
「え!? そうだったの?!」
実年齢を選んでいた子供達が驚く。
「職業は」
選択肢に有るのは。
剣士、戦士、双剣士、魔剣士、侍、槍使い、弓使い、忍者、武闘家、ガンナー、盗賊、学者、僧侶、巫女、モンク、魔法使い、召喚士、精霊使い、魔物使い、死霊使い、軍師。
「侍。かな」
「あ、でも侍の初期ボーナス武器は、もうお兄ちゃんが貰っちゃいましたけど・・・・・・」
「あっ」
そうだ。銘刀〈千代童子〉は、霧谷 士涼が所有している。侍大将にジョブチェンジするきっかけだった。
「このゲームで手に入った装備は、実際に現れる。という事は。・・・・・・持ち込みも可能では?」
「ああ♪」
蛍が何か意味深な声を。
「はい。持ち込みは可能です。でも、このゲームで与えられる武器は、国宝級を超えるかも知れません」
それに、頷き答える秋一は。
「持って来る」
と、リビングを離れた。そして、さほど掛からず戻る。
その手に、西陣織の煌びやかな刀袋を握って。
「父さん? !?」
(今迄、気付かなかったなんて!)
「「「神剣?!」」」
ケルベロスちゃんと、ファウナも気付いた。
「これは、甲斐家に先祖代々伝わる大刀〈ソハヤノツルギ〉だよ」
刀袋から出し、黒漆塗鞘から抜いた刀は、美しい鋼の輝き。
「! 征夷大将軍 坂上田村麻呂の佩刀?」
「うん。本物かは分からないけど、武田家滅亡前、甲斐家に下賜された。そう伝えられているよ。僕はこの大刀に、空とケルベロスちゃんに感じる様、畏敬の念を感じるんだ。・・・・・・つまり?」
「真作です」
真作とは、本物の事。父と子が頷く。
ゲーム画面。
〈ソハヤノツルギの所持により、スキル 鳴神、スキル 随神、スキル 剣禅一如を習得した〉
職業が〈剣聖〉になった。種族が〈亜神〉になった。
と、続けて表示された。
ゲームに投影される秋一の能力は、現時点、〈最強〉だった。そして、この能力は実際にフィードバックされるのだ。
亜神。新たな神の誕生に、皆、秋一本人ですら驚きに包まれ、興奮冷めやらぬ内に、蛍の番になった。




