閑話 看板娘
JAZZは、アメリカ、ルイジアナ州ニューオリンズで誕生したとされる。
アフリカ系アメリカ人の音楽がルーツだ。
その、スイングするリズム、即興演奏。独自のスタイルに、虜になった人は多い。
JAZZ喫茶トゥー・シスターズ。
ここは、そんな人達が集う場所。
カフェランプの、抑えた照明の中。黒いエプロン姿の少女が、トレーに、料理を乗せる。
客席に、帆立のグラタンを運び、笑顔で接客。
センスを感じる照明の光が、ウッディな店内を、橙色に優しく照らす。やや仄暗い店内。
店内に有るグランドピアノは、週末不定期に開催されるミュージシャンによる生ライブの際、使われる。
年季の入ったレコードと、大きなスピーカー。
今、そのスピーカーからは、有名トランペット奏者の奏でる心踊るリズム。
音楽雑誌が置かれた机、レコードのジャケットが壁に飾られ、カウンターに、楽器を演奏をしている姿の黒人人形達。人気漫画も少し置かれている。
こんな仄暗い中で、読書って、目が悪くなりそう。あまり、本を読む人は見かけない。
老人、おじさん、おばさん、若者、家族。男女問わず、幅広い年齢層のお客さん達が、音楽を聴きながら憩って寛ぐ空間。
その、メニューは、軽食のサンドイッチや、ピザトーストの他。
帆立のグラタン、スープカレー(牛肉or豚肉or鶏肉)。数種類有るパスタと、意外に豊富。
食事とセットドリンクにすると、千円ちょっとで提供している。
ケーキセットも有る。
ヨーグルトケーキ、チーズケーキ、ガトーショコラ、パンプキンケーキ。
ケーキは、フルーツ、ミント、クリームを添えて、お洒落なプレートになる。
音楽と料理で愛されるお店。
お客さん達が、SNSにお店の料理や雰囲気を写真で上げてくれてもいる。反響もちらほら。
「帆立の解した貝柱が沢山入っていて。マカロニと、ホワイトソースにも、帆立のコクが凄いよ! 美味しい!」
「このスープカレーも美味しいよ♪」
嬉しいお客さんの声に、ウキウキと働く。
最近、通い詰めている青年。給仕に動く少女の後ろ姿。カモシカの様な美脚に、目が行ってしまう。
エプロン少女。その可愛らしさに。男性客達は、癒された。
「お姉さん、追加良いですか?」
「コーヒーのお代わり下さい!」
「はい♪ 順番にお伺いしますね♪」
少女の名は、藤林 真白。
長く美しい髪は、背中へ届き。やや光に透ける様に、茶色みを帯びた黒。
すらりと、まだ成長過程だが、均整の取れた身体。胸も、同年代の平均程は有る。
スカートから覗く脚は、男性の目を釘付けに。美しい脚線美を。
当に美少女。
そんな彼女は、喫茶トゥー・シスターズの看板娘の1人。
まだ中学生。
もう1人の看板娘。妹の桜との美人姉妹。
トゥー・シスターズとは、2人姉妹と言う意味。
土曜日の今日。桜は、朝から近くの並木道迄、スケッチに出掛けている。
(お昼だし、そろそろ戻って来るかな?)
注文が増えて、厨房でテキパキと立ち働くパパと、ママは料理を受け取り、真白と分担して運ぶ。
注文を受け、料理をテーブルに運び、空いたテーブルは消毒して拭き、コーヒーに、ミルクとシロップ、スプーンを添えて出す。レジもする。
その仕事振りは、父母を見て育ち、手慣れていた。頑張っているのが、微笑ましく映る。
そっと、紙を折り、真白に渡した青年。
何か? と見てみると。
愛の告白が綴られて、連絡を下さいと、連絡先と名前が記されている。
「・・・・・・え〜」
芸能事務所のプロデューサーです。と言うお客さんに、芸能界に興味有りませんか? と、名刺を渡された事も有る。
どちらの気持ちにも、応えられない。
(最近、こんな事が多いな?)
お店での事は、父母に報告している。
真白から、色良い返事が無くても、お客さん達は変わらずやって来る。
ちょっとだけ、気まずい。でも、いつも通り明るく接客してくれる彼女達。
このお店の雰囲気が、皆んな大好きだった。
曲が代わり、先程のトランペット奏者が、今度は魅力的なしゃがれ声で、歌う曲が始まった。
ジャズ界の巨星の1人。
(あ、私の好きな曲♪ この人のこの明るい声、好きなんだよ〜)
曲が、順にかかって行く。
中性的な歌声が素敵な、大物ヴォーカリスト。
(綺麗な声。優しい歌声が心地良い♪)
超絶技巧のジャズピアニスト。
(とってもお洒落で、旋律が素敵♪ こんな風に弾けるなんて凄すぎる)
ヨーロッパの、トランペット奏者にして、ヴォーカリストの人も好きなアーティスト。
(この歌声・・・・・・カッコ良いんだよなぁ♪ 流石、再来)
ゆったりと、音楽を聴いている時間が。目を閉じて、自然とリズムを取ってみたり。
(ストレス発散。好き)
接客の合間も、好きな音に触れられる。
物心付く前から、このJAZZ喫茶と、音楽と共に育って来た。
楽器には素養は無い。と、思う。
(歌を歌うのは好きだけど、私の歌は、ただ旋律をなぞっているだけかもしれない)
(パパ、ママ、桜ちゃんと、お風呂で良く歌ったなぁ。あの頃はまだ、パパともお風呂に入っていた)
赤面する思い。男の人の裸。
思考が横道に逸れた。
「ママ」
「ん?」
やや、一息付いた店内の様子を見て語った。
「私は、JAZZが好き。楽器が自分で演奏出来なくても。聴いているだけで幸せを感じる。往年の名プレイヤーも、新しい人の音も、探すのが好き・・・・・・」
「良いわよね〜♪ ママもパパも大好き。そんな真白も大好きよ♪」
「うん。ありがとう! 私も大好きだよ♪」
(私の好きなJAZZ)
(私には・・・・・・士涼君に刺激されて、好きになった戦国時代や、三国志の知識。弓道。寺社仏閣巡り。お守り集め、御朱印集め)
今迄。そして。
(これから。私は、どう生きて行くんだろう。これからも、趣味が増えたりするのかな? 誰かをまた、好きになったりするのかな?)
ドアベルが鳴る。
「いらっしゃいませ♪ お客様は・・・・・・2名様ですね。どうぞ、空いているお好きな席へ!」
続けて、
「ただいま! 真白お姉ちゃん。スケッチに熱中してたら、こんな時間に」
「お帰り。桜ちゃん♪ 桜ちゃんの新作だね♪ 完成した?」
「うん! 後で感想くれると嬉しい♪ パパ、ママ。ただいま♪ 直ぐに、支度するね」
揃いの黒いエプロン少女は、可愛らしい中学生と小学生。
看板娘は、今日も、明日、明後日、明明後日も・・・・・・お客さんを明るく出迎えてくれる。
大好きなJAZZを聴きながら。
差込投稿です。ほのぼの回を書きたくなり、真白のキャラクターと、JAZZ喫茶を少し掘り下げて、閑話を書いてみました。
実は、真白は作者の好きなキャラクターだったりします。




