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第二十四話 聖杖アヴィリオス

 稀少な冥界神の宝の中でも、かつて古代国家群滅亡と、同時期。ハイエルフ族の女王が所持した秘宝。


 女王の死と、その王国滅亡後。冥界神が預かっていた。


 力を引き出した持ち主に、あらゆる知識を授けると謳われた聖杖アヴィリオス。


 マホガニー材に良く似た、そしてさらに格調高い、美しい縞木目を持つ世界樹材の


 ルビーよりも鮮やかに赤く、そして暖かな魔力を宿す聖宝玉カーバンクルと、それを包む様なオリハルコンの天冠が杖の先。


 僅か中空に浮き、付随する7種、それぞれ色の違う煌めく宝石が、星の様に天冠の周りを円状に漂う。


 霧谷きりや 詩歌しいかが、賢者になったのは、オンライン上、魔法使いになったのが最初だったからだと思われた。


 宝物殿から、旅立った杖は彼女に寄り添ったから。


 初期ボーナスとして与えられた、聖杖アヴィリオスの特典職業。それが賢者だと。


 サークル カイの同人ゲーム〈ソーサリースフィア〉を手に取ったのは()()


 甲斐 空と、生活圏が近かった事と、ファンタジー好きの詩歌だった事。偶々、同人即売会での出会い。


 ゲームを、嬉しそうに手に取った詩歌。隣で、そんな妹を微笑ましく思い、お金を払った士涼。


 売ったのは、手渡したのは甲斐 空だったかも知れない。


 でも。


 神の転生とは言え、全てを把握は出来ない。記憶は曖昧あいまい


 藤林 桜。


 空の友、竜王エイダと融合し、竜人ドラゴニュートとなってしまった。同級生の今年、小学6年生。彼女を、空は変わらず好ましく思う。愛おしい。


 ケルベロスちゃんと、彼女。2人との将来を本気で考えている。


 藤林 真白は、そんな桜のお姉さん。


 明るく、優しく、妹思いで、周りを和ませてくれる。桜にとっても、空にとっても、とても大事な。癒し。彼女もまだ、可愛らしい中学生。


(御守り好きの真白お姉さんには。僕と、加護の女神ケルベロスちゃんの。神威ちからを付与した幸運を招く御守り(アミュレット)と、御朱印《神紋》を授けている。なのでこれは、この、詩歌ちゃんとの出会いは)


(悪い出会いでは無いはず・・・・・・?)


 空は、詩歌のテレポートでの登場に、驚いていた。


 詩歌に与えられた聖杖。賢者の職業。それは強力だが、偶然の筈。


 だけど。


(何故、この子はここにいる? 霧谷きりや 詩歌しいかちゃん)


 この甲斐家、お隣の阿刀羅家。そして、空とケルベロスちゃんという2柱の神のいるこの部屋は、聖域。厳重に神聖結界を張っている。


(・・・・・・この子は、容易く飛んで来た。才能だけで? 賢者、危険な存在?)


 部屋に走る緊張を拭う。


「真白ちゃん・・・・・・」


 泣きながら声を掛ける詩歌の声に。


 真白は、それまで哀しみに顔を伏せていたセーラー服の少女は。


 その声に、顔を上げた。


 真白を守る様に、周囲にいる親しい人達。


 その先。


 立派な杖を手に。紺色のローブ。おさげ髪の、まだ小学1年生の女の子。普段、利発そうな顔を涙で濡らし。


 そこにいた。


 それは、先程まで、ゲームの画面上にいた賢者の姿。その彼女が、泣きながらこの部屋に。


「会えた」


「詩歌、ちゃん・・・・・・なっ?」


 考える。


(・・・・・・何で? ここに詩歌ちゃんが?)


 考える。


(・・・・・・始めから近くにいた? まさか!)


(士涼君もいるの?!)


 真白は、その考えに後退った。周りの人達を見る。その目は、怯え、戸惑い。


 真白は、士涼に拒絶された記憶に、かつて心に深く傷を負っている。


「真白さん。違います」


 ファウナが、神に仕える姫巫女が、首を横に振り言う。


「貴方は、哀しみに顔を伏せていたから。彼女が空間跳躍(テレポート)して来たのを見ていませんでした」


 空間跳躍。不思議な単語。その単語の余韻。


「ぁ・・・・・・れ?」


 その不思議な言葉に、疑問を覚えているのは、この場で・・・・・・


 皆、心配顔で、真白を気遣っているが、ファウナの言葉に特に驚かない。


「・・・・・・?」


 真白の感じていた不思議な事。それは連鎖している。


 コレクションの、御守りと、御朱印が。見た事も無い物が、1つずつ増えていた事。


 不思議だった。


 弓道部では、まるでゲーム〈ソーサリースフィア〉の中の自分のキャラクター、神弓兵の真白の様に。対象を。霞的かすみまと中心ほしを外さなくなった事。


 今、詩歌ちゃんが突然現れた事。


 テレポート?


 真白は、この面子めんつとしか仲間(パーティー)を組んだ事が無い。


 オンライン上の、他のプレイヤー達が、ゲーム中の武器や、能力が現実に現れると、混乱しているチャットを知らない。


 だけど直感した。


 そこに行き着く。


(空君と会ってからだよ?)


 不思議な、何かへの答え。それが空君。


 そっと手に触れられた。


「真白ちゃん? 真白ちゃん・・・・・・私、小学生になったの。魔法を使える様になったの。テレポートして来たんだよ」


「真白ちゃんが、泣いているって知って。会いたかった。お兄ちゃんのした事、ちゃんと、謝りたかった」


 数年ぶりに会う少女。泣き顔。


 可愛い泣き顔。幼稚園児だった彼女は、小学生になった。


 それでも、真白を覚えていて。


 ゲームの賢者。そのままの。コスプレでは無い。現実とゲームの境界が欠壊するその姿。


「私の武器は、聖杖アヴィリオス。真白ちゃん。空さん。桜さん。皆さんの・・・・・・武器は何ですか?」


 心は揺れる。だけど、目線で、真白を除いた皆は頷き合う。


「・・・・・・神剣カルディナリオス」


 甲斐 空の手に、つばと護拳に守られたグリップを掴み、鞘に納められた神の剣。カルディナリオスが何処からともなく取り出された。


 その形状は、ブロードソードに分類される。こしらえは精巧。その力は。


(抜いていなくても分かる。私の杖以上に、力が宿っている)


 空の服は、それまでのボーダーシャツと、ジーンズの姿から、貴族風の細身で、黒尽くめの装束と黒マントに。


「僕、そらの、冥界神メティスの剣だよ」


(冥界神メティス)


「・・・・・・私のは、神造機械化兵〈冥従神ハーデス〉。人狼型の冥界の番人」


 ケルベロスちゃんの、瞳と髪の色が、黒色から、仄青く灯る。彼女の姿が、犬型の猛獣の様なオーラに包まれかける。


「私はその操者。大きいから、ここでは出さないけどね」


 その服装も、ラフなミリタリー 調のシャツと、カーキ色のスカートから、金糸で文様をあしらった白いドレスに変わった。


 その冥従神(ハーデス)が、どんな物か分からない。でも、空気から威圧感を発している。


 真白は、驚き、空とケルベロスちゃんの変化を見る。


 詩歌は、困惑する真白の横に立つ事を許され、残る桜とファウナに注目していた。


 ファウナが桜を見る。そして。


「では、私が。コルヌコピア、プロセフスィー。顕現けんげん


 ファウナの衣装も、パーカーとスカートから、白い清潔な巫女服。貫頭衣に変わった。


 その手には、何かの動物の角と、水仙の花をあしらったシンボルが握られていた。


 桜を除いて、皆が変化した。


 ゲームと現実が、混沌と混ざり合う。


 妹、桜が残った。目が離せない。


(桜ちゃんも、なの? 何が起きたの? 桜ちゃんの武器は、確か・・・・・・竜宝珠 エイダの心? ドラゴンマスター)


(竜?)


 その桜の表情は、恐れに固まっていた。


 空が、ケルベロスちゃんが、ファウナが、見守る。


 詩歌は待っている。


 真白は。


「桜ちゃんもなの?」


 聞いてしまった。


 桜の態度から、聞いてはいけない気がしたが、()()()()()()()


 桜が、諦める様に。真白に笑いかけ。


「エイダ・・・・・・」


 桜のその言葉で、小学6年生の11才の彼女の、身体が、その瞳が、金色に輝いた。


 巨大な、何か途方もなく大きな。畏れに包まれた。


「嘘」


 幼い頃、動物園のライオンの檻を前に、暗がりに潜む姿の見えないライオンの、吠え声だけで泣いてしまった。記憶が思い出される。


 生存本能が、警鐘を鳴らす。


 この子は、私の知っている桜ちゃんなのだろうか?


 畏怖。


 葛藤。


 逡巡。


 記憶。


 優しく、絵が大好きで、上手で、誰よりも可愛い。


 父母と共に、JAZZ喫茶トゥー・シスターズと共に過ごした。


 笑い、照れ、些細な喧嘩もし、泣いて、恋バナもした。妹との日々が。記憶が、絆が。


「桜ちゃん」


 呟き。


「桜ちゃん!」


 何か違う物にも見える。でも。


(桜ちゃんだ。この子は、私の大好きな、桜ちゃん!)


 確かに感じられた。


 近づいて行く。金色の瞳で、泣きそうな顔で、桜は真白に微笑みかけていた。


 真白が桜の手を取って。


「桜ちゃん」


「お姉ちゃん」


 絆。


「・・・・・・空君、阿刀羅さん、詩歌ちゃん」


 視線が、揺れ動き。そして。


 呼んだ。来る気がした。


雷上動らいしょうどう


 少女の手には。その右手には、神聖な空気を纏って、神の弓〈雷上動〉が。


 長さ7尺3寸(221cm)のその大弓おおゆみが、握られていた。


 ゲーム中の神弓兵の自分を、思い浮かべた。


 セーラー服が、その衣装は、儚い光を発し、洗練された白い戦装束いくさしょうぞくに変わった。


 弓、そして自らを、見つめる。


 不思議への解答。


「空君なんでしょう?」


 言葉が、自然と出た。


 詩歌も、確信する様に。杖を支えに、真っ直ぐ甲斐 空を見ていた。


 ゲーム〈ソーサリースフィア〉で、手にした力が、武器が、この現実に現れる。何故か?


 このゲームを創ったのは、サークル カイ。それは、甲斐 空の事を指す。彼が創ったと、真白は本人から聞いている。


 そして、ゲームのオープニング アニメーション。光に包まれた冥界神と眷属神。


 眷属神そのままのケルベロスの姿。


 妖精さんの言う冥界神メティスに選ばれたと、プレイヤー達が聞く言葉。


 ゲーム内で、


『種族:現人神 職業:冥界神』


 そのプレイヤー。恐らくそれは1人だけ。


「空さん」


 続く賢者の言葉に、甲斐 空は頷き応えた。


「うん。僕は、冥界神にして、財宝神。地球を離れた神々が創った新たな世界〈ソーサリースフィア〉の七柱の創造神の一柱。・・・・・・だった者」


 真白に、詩歌に。ゆっくりと、聞こえる様に語った。


 仲間は、それを見守る。


「機械神デウス・エクス・マキナの反乱で、世界が終わらない様に。日々、思い悩む。そして、絶対に駄目なんだけど」


「大事な人達と、このまま日本ここで、暮らせたら。そう、夢見てしまう」


「そんな、心の弱い、ただの幼い・・・・・・転生者です」


 空の声は、態度は、語るのは。女の子の様に可愛らしい。しょんぼりと、疲れた、弱々しい少年だった。


 ケルベロスちゃんが、桜ちゃんが、ファウナちゃんが、そんな空を、労り、包む。そっと抱きしめ合って。


(空君が、神様。神・・・・・・このゲームには、本当が混ざっている)


 自然と。


 真白は、空を抱きしめ合う輪に近づいていた。


(愛おしいな)


 涙はもう、悲し涙では無かった。


 抱きしめる。


「好き・・・・・・」


 賢者は、詩歌は、それを記憶に焼き付けて。


(尊い。お兄ちゃんの初恋は。やはり終わっていた・・・・・・ヘタレなお兄ちゃんが悪いんだよ)


(空さんの言う言葉の意味は、まだ・・・・・・分からない。でも、教えてくれる筈)


 抱き合う真白達を見守る。


(これから私は、真白ちゃんの味方だよ)


 心を少女が定めた。その時。


『・・・・・・虚空よ。記憶乙女アーカーシャよ。世界のことわりを知る幻霊よ。聖杖アヴィリオスに宿やどりし分体に応えよ!』


 唐突に。杖から声が、呪文を唱える女性の声が発せられた。


 空は納得した。


 あらゆる知識を授ける杖。それが、伝え聞く聖杖アヴィリオスの伝承。


 ハイエルフの女王の死後、彼女の後継足り得る者にと冥界神に託された。


 それは、全てを知る者、記憶乙女(アーカーシャ)の一部を宿す物だったのか。


 詩歌は、戸惑っていた。


「杖、喋ってる!」


 霧谷きりや 詩歌しいか。後に、大賢者と讃えられし者。その覚醒が始まった。


 幻霊が現れた。少女の形をした幻霊。薄紫と緋色のグラデーションの、透き通る様な艶めく長い髪。闇と光を纏う様な不思議な装束の、神秘的な幼い少女が。


「はい♪ ここにいますよ。何処にでもいますよ♪」

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