第二十二話 流鏑馬《やぶさめ》
今日は、甲斐 空君の家で、ゲーム〈ソーサリースフィア〉で遊ぶ。
電車を乗り継いでの学校帰り。藤林家と、甲斐家は最寄駅が同じ。直接、空君宅に向かう手筈。
あちらで、空君、桜ちゃん。先日知り合った阿刀羅さん姉妹と合流する事になっている。
座席に座りながら、見慣れた車窓の外の景色を見る。曇り空に、街並み。過ぎて行く。
最近、部活動での自分に、不思議な事が起きている。
弓道の的を狙い射つと、霞的の中心を、一矢も外さない様になっていた。
凄い事だ。
弓道部員の先輩も、仲間達も、指導者の先生も盛り上がって、暖かく接してくれる。
でも。これは。
(こんなの続いたら、どうしたら良いか分からない。こんな不安、あの時以来・・・・・・だよ)
藤林 真白は、女子中学生。
寺社仏閣の御守りや、御朱印を集めたり。戦国武将の逸話、三国志等を愛読する。
部活動は、弓道部に所属。
明るく可愛い外見に似合わない、色々、渋めの趣味。
その趣味には、きっかけが有った。
まだ数年前。小学生時代。
路傍に咲く花を、しゃがみ込んで摘んでいた同じクラスの同級生を見かけ、声を掛けてみた。
その少年は、恥じらいながら、母さんと、妹にあげようと思って。と言う。
(優しい子)
キュンとなった。
少年と真白は、それから仲良くなった。
2人とも、妹が居ると語らったり。互いの事を話す様になった。
運動会、遠足、学芸会、水泳、音楽鑑賞。
学校行事や、日々を過ごす。
少年は、運動神経が良い。その秘密にも触れた。
剣道道場に通って鍛えているらしい。
痩せているが、筋肉が有る。自慢らしく、力こぶを見せてくれた。
彼は、勉強はそれ程出来ず、学校帰りは道場に通う日が多い。
真白は運動も勉強も、優秀。勉強の他、案外特技も多い。林間学校で行われた、クラス全員参加の指相撲大会で優勝。
学校の授業? で、全クラスの5年生で行われたマルバツクイズでも、問題で出た〈太陽の直径〉を大まかに覚えていて、正解を一人だけ選び優勝。
じゃんけんも、ハマると異様に強いのだ。
少年は、凄い! と、我が事の様に喜んでくれた。
楽しかった。
少年の住むマンションに、お呼ばれして1人、遊びに行ったりもした。
マンションのエントランスで、部屋番号を入力すると、インターホンが繋がり。オートロックを開けてくれた。
ドキドキした。
彼のお母さんには、大歓迎された。
「うわ?! 可愛い子ね!? __君と仲良くしてね!」
「はい」
そのやり取りを聞いて、彼は、恥ずかしそうに照れていた。
彼の妹は、幼稚園児。目鼻立ちが、凄く利発そう。見上げている。
真白が、明るく笑いかけ、しゃがんで話しかけると、園児は嬉しそうに笑い、一緒に遊ぶ? 可愛いね?と懐いた。
お父さんは会社員で、同僚と、お酒を飲んで来る事も有るし、夜にならないと帰らない人らしい。
でも、
「良いお父さんなんだ」
と、少年は言っていた。
少年兄妹と、彼等の部屋へ移動。そこには、戦国武将関連の本や、三国志、時代小説が棚に並んで。
(こういう本を、読むんだね)
彼が剣道を始めたのは、カッコ良いから! だった。
祖母の影響で、時代劇が好きで、剣豪や、剣聖、武芸者に憧れているらしい。
(うん♪ うん♪)
少年は、真白にとって好印象の塊だ。
少年が出場した剣道大会に、誘って貰って応援にも行った。
彼の家族も応援に来ていた。
彼は、強かった。決勝戦でも、苛烈に、攻め、技巧派の巧みに逃げる相手を仕留めた。
カッコ良かった。
秋になると、少年に誘われて、大きな歴史ある神社に、流鏑馬も見に行った。
少年の父が信心深い人で、その神社の崇敬者(神社を崇敬する人)の1人だったから、家族で招待されたと言う。
毎年、お札を頂きに来ている。
少年の一家と共に、神社をお参り。鳥居を潜り、手水舎で手と口を濯ぎ。本宮でお祓いをしてもらう。
(家族が健康であります様)
真白も、神聖な場の空気を感じる気がした。
そうそう、舞殿で、巫女の舞と、楽人の雅楽の演奏も有った。
日本古来の風習。非日常感を感じ、感動した。
神主さんのお話を聞いて解散した後、社務所で、綺麗な御守りを買ったりもした。
小さい頃から、偶に買っていた御守り集めが本格化したのは、この頃からだったかも知れない。
天気は快晴。境内の馬場には、椅子が並べられていた。崇敬者の人達が、場所取りをし座る。
時間が来て始まった。古風な装束の騎馬武者が、まず馬場を走り抜ける。躍動。
幼い頃、乗ったポニーとは存在が違う。走る馬を、間近で見るのは初めての少女は、これから始まる事に期待が募った。
その後いよいよ、騎馬武者が馬を駆けさせながら、間隔を開けて置かれた的を狙い、走り際に撃って行く。
的は、当たると割れる。
迫力。感嘆の声がその都度、見物の人達から上がる。
真白も、口を開け見入る。感嘆の声を上げる。近くの的が、割れた時は大きく拍手。ドキドキだ。
(凄い)
騎馬武者は、一騎づつ走り、射かけ、駆け抜けた。
そして。その中には、女性もいた。
この事が、真白の記憶に強く残る。
(剣道は・・・・・・私には無理。けど、流鏑馬カッコ良いな!)
弓道に興味を持ったのは、この時だった。
2月14日。バレンタインデー。運命は、どう転がるか。
5年生の時。真白は、少年にチョコレートを送った。
パパとママに、チョコレートの作り方を教えて貰った。
パパとママは、喫茶店の閉店時間の後、真白と、妹の桜に、教えてくれた。
毎年パパにあげるチョコレートを、皆んなで一緒に作っていたから。
もちろんパパにもあげたが。この年は、いつもより多く作った。
学校の帰り道。通学路に有った公園に誘い、木陰でこっそりと。
高鳴る心臓。顔が火照る。
渡す真白も、少年も、緊張で強張り、震えながら。
少年は、チョコレートを受け取ってくれた。
想いが伝わった。
(恋人? だよ)
真白は恥じらい、この恋を、私も家族を少年に紹介する。そう思い高揚した。
JAZZ喫茶トゥー・シスターズで、パパとママを手伝って、ウエイトレスをしたり。
妹の桜との時間を楽しんだり。
そして、学校に行くと。
クラスの男子で、ませた事を良く言っている子。お父さんに、Hな本や、DVDを見せて貰ってるとよく言って、クラスで嫌らしく笑い、浮いている要注意男子が、少年と真白を指差して。
「__君と、藤林さん、付き合ってるんだろ。やらしい事は、もうした?!」
興奮して、真白の体を視線で汚し、そう言った。その要注意男子に、少数の男子が、はしゃいで迎合した。
真白には、友達が多い。友達達が、逆にその男子を非難した。
見られていた。
真白は、背筋が凍った思い。
でも、それより。
少年が、真白から距離を置いた。それまで、笑いかけてくれていた顔を強張らせて。
それから、ずっとそのまま・・・・・・終わった。
卒業して、別々の中学校に進学した2人に、接点は消えた。
もう会わないと思っていた彼に、中学生になった彼に、その日出会った。
まだ少年だけど、立派な、侍大将姿の彼と、神弓兵の、洗練された白い戦装束の私。
彼の横には、おさげで利発そうな幼い女の子が、紺色のローブを纏い杖を持っている。
彼と私、その顔は、共に心乱れ。
「え!? 真白・・・・・・ちゃん!?」
「士涼・・・・・・君」
ゲーム〈ソーサリースフィア〉の中での再会だった。
藤林 桜ちゃんのお姉ちゃん。真白ちゃんの回です♪
いかがだったでしょうか? 楽しんで貰えたら、嬉しいです。




