第二十一話 プレイヤー
球状魔法世界〈ソーサリースフィア〉で暮らす人々には、ガンマール大戦が始まる。
地球では、冥界神メティスが赤子、甲斐 空として日本に転生した。
その11年後。日本。
世界情勢は、日々動くが、テレビのニュースや、新聞、ネット記事でしか、あまり感じられない。
日本は、比較的、裕福な先進国に数えられる。平和な国となって久しい。
技術、観光産業、食、娯楽。特化した物を持っている。
ライフラインは、年々どんどん便利に洗練されて行く。
パソコンや、携帯。インターネットが普及し、世界の情報に接する事も、情報を発信する事も出来る。
多彩な自己表現。人に認めて貰いたい。何か、自分だけの才能を見つけたいと思う人々。
その中に、同人ゲーム〈ソーサリースフィア〉に出会った若者? 達がいた。
同人即売会の会場で、偶々出会ったゲーム。
〈サークル カイ〉
同人イベントのカタログの、サークルカットのクオリティの高さ。
美麗なパッケージデザインと、スペースに有った可愛らしい女の子も描かれたイラストポップ。
売り子さんが、可愛い小学生と、コスプレをした美少女というのも、ポイントだったろう。
甲斐 空と巫女ファウナ、それと、コスプレ? 白地に、金糸で紋様をあしらったドレスを纏った、アイドル以上に可愛らしい美少女。ケルベロスちゃん(阿刀羅 桜)が売ったのだ。
そのスペースには、有名サークルでは無いが、その時人集りが出来た。
パッケージは、既製品の上を行くと言って良い。ゲームシステムはイマイチ定かで無いが、同人なのに、オンラインだという。
ポップのイラストは、美しい青い星と、2つの月。そして、冥界神と加護の女神。
売り子の一人、コスプレ美少女はこの加護の女神と瓜二つ。
(面白そう)
この会場に来ているのは、ファンタジーが大好物な紳士淑女だ。
20本用意したゲームは、あっと言う間に売れた。
完売しました。
冥界神の転生者。甲斐 空が、冥従神のシステムを利用し、創り出したプレイヤー本人に能力がフィードバックする、魔法の育成ゲーム。
それは、記憶乙女の持つ宇宙の記憶と同期する事で、プレイヤーに異世界を疑似体験させた。
即売会で売れた20本と、もう5本は、知人達にプレゼントした。
25本のソフトは、プレイヤーを、そのゲームシステムの魅力にハメた。
冥界迷宮と言うダンジョンでレベルを上げ、最下層を目指すゲームだろうか?
ゲーム内には、初めに妖精さんが登場した。
『ここは、ガンマール魔導王国に在る冥界迷宮。私達は、妖精神ユリシス様と、妖精妃オフィーリア様の民『妖精』です。
その神子、冥界神メティス様にあなた達は選ばれたんだよ。お願い。力を貸してね』
(この妖精可愛いなあ。この服脱がして、触って見たい)
あるプレイヤーが、そう考えながらゲームをしていると。
それまで可愛く喋っていた妖精さんが、ジト目になり。
『・・・・・・気持ち悪い。初対面なのに、そういう目で私を見るの?』
ビクッとした。
(えっ? 何?)
『でも・・・・・・世界を救ってくれるなら、それくらい・・・・・・良いよ?』
頬を赤らめ恥じらう妖精さんに、
(?! ?!)
高鳴った。
不思議な事は、ゲーム内で色々起きた。
特に、プレイヤーに迷宮内を案内してくれる妖精さん達は、不思議な存在だった。
ゲームなのに、ゲームの内と外で、コミュニケーションが成立した。
心を読むゲーム? だが、妖精さん達との会話が楽しい。やめられない。
魔物を倒して強くなる事が、最初の目的。経験値、レベル上げ、スキル、奥義の習得。
強くなる前に、妖精さんの助言を聞かず、下層に潜り過ぎると魔物の方が強く、逃げる事になったり、殺されてしまう。
何度も死んで、セーブしていた地点から、やり直す。
死んでもペナルティは、今のところ無い。
地下50層くらいまて、プレイヤー達は到達し始めていた。
「ねえ、お兄ちゃん」
「ん? 詩歌?」
おさげの可愛い、小学一年生の妹、霧谷 詩歌と、スポーツ刈りに中々見てくれの良い、中学生の兄、士涼。
以前、甲斐 空、藤林 桜とパーティーを組んだ侍大将と、賢者のプレイヤーの兄妹だ。
「私、今朝、学校まで歩くの疲れるなぁ。テレポートとか出来たら良いのにって思ったの」
「あ〜。有る有る。俺も小学生の頃、思ってた。そっか、ゲームだとお前、テレポート出来るしなあ」
「・・・・・・出来ちゃった」
「は?」
「私、テレポート出来る様になった」
まだ、世間をそれ程知らない兄妹だが、この世界で魔法が現実的では無い事は分かる。
ゲーム内では無く、現実の妹を見つめる。
すると妹が唱えた。
「聖杖アヴィリオスよ」
妹の手元に杖が現れた。忽然と。ここは、現実世界だと言うのに。
「え!? それ?!」
「お兄ちゃんも出来るんじゃないかな?」
妹の幼い顔は、真剣だ。
(夢? いや)
気持ちが高揚する。妹を真似して右手に集中。半信半疑。
「千代童子よ」
その手には、ズシリと重量感の有る、鞘に納められた銘刀 千代童子が現れて握られた。
ゲームでの愛刀が、現実の世界に。
何も考えられていない気がするが、無意識だろうか? 鞘から抜く。
金属の輝き。存在感に圧倒された。
「! お兄ちゃん!」
惚けた顔で妹を見る。
「それ、銃刀法違反なんじゃ?」
真顔で言う妹の言葉に、慌てた。
強力な魔物に勝てなかったプレイヤーは、倒せる様、レベル上げに励み。フィールドで出会った他のプレイヤーと強力して、戦う事を覚えた。
ゲーム内でフレンド登録した他プレイヤーとは、チャット形式で話せる。
キーボード入力すれば、会話して、パーティーを組んだり、組んでいなくても、別のフィールドにいても、常時会話出来た。
ファンタジー好き同士、チャットは盛り上がり楽しい。
アニメ、映画、ライトノベル、漫画、ゲームの話。趣味の話でも盛り上がった。
(このゲームで、出来る様になった事が、現実でも出来た)
そんな会話が現れ、
(幻覚かな!?私も武器が出てきたんだけど!)
(何、言ってんの?)
否定的なコメントも出たが、
(自分の武器の名前、呼んでみて)
その後、ちょっとパニックになった。
(?! 俺も出た!)
(な〜に?!これ!)
(本当の魔法!?)
(?! ?! ?!)
(幻覚かな?)
(集団幻覚?)
(病んだか?)
(ヤバい! ヤバい! これ!)
(このゲーム創った人って、本当の神様なんじゃ?)
(冥界神メティス様?)
(本当に、選ばれた?)
(それとも、私、夢見てる?)
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