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第二十話 悪魔

 記憶乙女アーカーシャは、全ての出来事を覚えている。


 宇宙を記憶し続ける。


 全てが私の記憶。


 今までも、これからも。


 神姫と呼ばれた、優しく愛らしい女神と、その補佐を任された、才能に満ちた天使長ナリーンの物語も。


 この世界で、悪魔は、まだ悪魔と呼ばれる前、神々が生み出した生物の、異形や、異能の失敗作。


 神に放棄された作品。


 そんな、彼らすら哀れではと、慈しみ、保護したのが神姫ジークリンデだった。


 世界創世の七神の一柱でも有り、慈悲深く華奢だが、神々の中でも10指に満たない、最強位、SSR級の強さを誇る。


 このか弱そうな少女は、ランスの使い手の戦姫でもある。


 そんな一面も持ち、仲間の神々からも、天使からも信頼されていた。


 麾下の天使と共に、彼ら悪魔達を育て、自立出来る様にと力を与え、自ら彼らを良くしようと研究し、より強靭な身体、力を持つ悪魔を創造してみたりした。


 彼らも、そんな神姫に甘え、神姫は性体験も無い処女だが、我が子が出来た様に愛を注いだ。


 球状魔法世界ソーサリースフィアを巡る2つの月の1つ。銀色の月〈ソフィア〉に在る美しい白亜の城。そこが彼女の城。


 天空神クラトスは、よく彼女の城を訪れ、悪魔達に渋い表情をした。


「お父様、この子達をそんな顔で見ないであげて」


「この子達か。可愛がっているんだな」


「創造は、失敗から成功が生まれる事も有ります♪」


 ジークリンデが言い。


「優しいお父様は、凄いです。私を創って下さいました。私も、褒めて貰える様な事をしたいです」


「そうか」


 クラトスは、悪魔達の本質が、獣染けものじみた物、或いは何か、暗い何か。


「ナリーン」


 12人の天使長の1人で、神姫に仕える天使長ナリーンは、クラトスに仕える天使長クリムと並び、優秀と話題の人だった。


「クラトス様」


「従神ルシファーを、君に授ける。いつも娘を守ってくれてありがとう」


 優しい微笑み。


「従神を! ありがとうございます! 必ず神姫ジークリンデ様をお守りします」


 白い三対の翼を羽をピンと伸ばし、艶めく金の髪、蒼い瞳、白い肌の美青年。


 それが、ナリーンだった。


 悪魔達が大きく育ったある日。平和な日常は、悪夢に変わった。


 大魔王バフォメットは、微笑みかける創造主である神姫ジークリンデを、何の躊躇いも無く大鎌で首を跳ね殺害した。


 微笑んだ表情のまま、首がボトリと落ち、転がる。


 側にいた天使長ナリーンは、あまりの非現実感に驚き、自失、そして理解し、怒りにバフォメットを殺そうと抜剣。飛びかかった。


 山羊の頭に角、人の胴体4本の腕、黒い毛むくじゃらの巨躯。それがバフォメット。


 神姫がモフモフする♪ と言って可愛がっていた動物。


 大鎌と剣の激突。


 が、アスモデウス、タナトスもナリーンに立ち塞がる。


 苛立ちは、ナリーンの怒りは凄まじく、後に大魔王と言われた彼ら3人掛かりすら圧倒しようと覚醒する。


 その三対の羽根は、玉虫色に、光り輝いた。


 神々のレベルに進化。


 剣技、神聖力、その時それは、SSR級の力を持っていた主、神姫ジークリンデの力さえ超えた。


 止まらない。怒りが止まらない。斬撃の嵐。


 後の大魔王が、3人掛かりなのに、ナリーンが圧倒的に強い。3人は、身体に傷を刻まれ始めた。


 ナリーンは、まだ従神ルシファーすら出していないのに。


 だが。


 バフォメットは動じない。


 逆にバフォメットの山羊頭が笑った。


 突然、首の無くなった神姫の身体と首を、黒い炎が燃え包む。


 その黒い炎の中から、殺害した神姫を、その魂を呪いで汚染し、魔月、魔王銀と呼ばれる事になるこの地、ソーサリースフィアを周る衛星ソフィアにて、悪魔に隷属する者。〈魔女〉として蘇らせた。


 ナリーンを慕うジークリンデの声。


 ナリーンが止まる。事態が飲み込めないが、主人がいた。


 神姫に忠実なナリーンを闇堕ちさせるのに、神姫殺しはちょうど良い。


 神姫の美しかった長い青髪は、白髪と化したが、艶は失わず。その絶世の美貌はそのまま。神としての力を失った。バフォメットに生殺与奪を握られる力無い存在となっていた。


 それを語った神姫が、バフォメットに跪き、震え、その足に泣きながら、嗚咽しながら口付けさせられた事で、理解させられた。


「ふ! 闇に染まっても美しい小娘よ! バフォメットよ、神姫を私の妻にくれまいか! 前から犯して啼かせてみたかったのだ! その柔肌を存分に、蹂躙させてくれ!」


 アスモデウスの申し出に、バフォメットは鎌を消し、腕を組み、考える素振りをする。


 ナリーンが動揺する。


「貴様」


 殺気が溢れる。


 タナトスが、それを無視し。


「美しいが、そんな女の抜け殻。余なら、生身のハイエルフの娘が良い」


 バフォメットは笑った。アスモデウスは舌舐めずりした。タナトスは侮蔑した。


 ナリーンの視界が、充血し、三人の魔王への怒りで、回り始める。


 怒りの感情に、心の隙間に付け込む悪魔達の奸計。


 ジークリンデと、ナリーンは互いに恋しい、好ましい存在だったのだ。


 微笑み合い、共に強力し、仕事をする穏やかだった日々。


 互いに、気にかけていた。深い仲にはなっていなかったが、相思相愛。


 世界を良くしようと、共に努力して来た日々を。


めろ。めてくれ。神姫を・・・・・・ジークリンデ様を・・・・・・私に下さい。そうしてくれるなら、何でもします」


 屈服した。大魔王達は、そんなナリーンに呪いにより契約を結ばせる。


 羊皮紙で出来た巻物スクロールに、凶々しく字が舞い踊り、そこに、血判を押させられた。


 呪い。悪魔達と心が混ざり合う様な。嫌悪感を覚える。だが、深く繋がった。


 すると。バフォメット、アスモデウス、タナトスがナリーンにひざまずいた。何と、ナリーンを彼らの首領に据えたのだ。


 彼らの、悪しき感情が、流れ込む。


 理解した。力が有れば、付き従う。悪魔達はそんな存在だったのだ。


 ジークリンデは優しかった。力を示さなかった。侮られたのだ。


 魔天使王ナリーンの誕生。玉虫色に輝いていた三対の翼が呪いにより闇色に染まる。


 金の髪、蒼い瞳も、黒になった。


 のち、ジークリンデ麾下にあった天使の一軍も、主人と、ナリーンに従い闇に落ち。


 黒翼の天使、魔天使となった。


 バフォメット、アスモデウス、タナトスを筆頭に据えた生物は、悪魔、魔族と呼ばれる。


 創世の七神は、ここに一柱欠け落ち。最初の神々と魔族の戦いへと発展していく。その悲しい記憶の始まり。



 かつて、クラトスには見せた想いの記憶。


 神々の主神、天空神クラトスは、神姫を創造した父の様な存在。


 記憶乙女は思う。あの記憶を見せて以来、クラトスは私を呼ばなくなっていたのに。


 今日は、クラトスと会って、色々な記憶を見せた。


 エルフの少女は、私と友達になりたいと心の中で考えてくれていた。


 微笑む。


(私の記憶は、心も記録するんだから♪)


「ディアナ。次に会えたら、何を言ってくれる? 思ってくれるの?」


 少女の形をした幻霊。薄紫と緋色のグラデーションの、透き通る様な艶めく長い髪。闇と光を纏う様な不思議な装束の、神秘的な幼い少女は、宇宙に溶け込みもの思う。


 エルフと、記憶乙女の出会いは何かを生む事となるだろうか。未来記憶へのルートは、分岐し、選択肢は無数に有る。


(私は記憶。知識。誰かが望んだ進化の形。でも・・・・・・私はハッピーエンドが好きだよ)

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