第一話 冥界神殿
主神クラトスの失踪から約40年後。
冥界。地獄、あの世、魔界なんて呼ばれる事もある僕の住む処。
そこは、迷宮地下でありながら、高く、青く、深い空色に輝く空と、陽の光が有る。
澄んだ空気。清浄な異空間。神域。
雲は一つも無い。
ゴシック、ロマネスク、色々な様式に似た建造物が複合して建てられた、白く巨大な神殿は、島の丘を利用して城の如く聳える。
僕の家。
淡水魚が泳ぐ、透明な水面を湛えた広大な人工湖に浮かぶ島上。自慢の神殿だ。
出来上がった時は、ケルベロスちゃんと、本当に喜んだ。
そして・・・水平線上に霞んで見えるのに、異様な大きな黄金の扉も、湖の中に聳えている。
見る者を畏怖させる。特別な圧力を放つ神殿と黄金扉は、直線上に配置。
石畳みで整地された島東端の広場には、神聖魔法陣が。先程、魔法を発動させた。
この神秘的な地底世界が普段、僕と忠実なるケルベロスちゃんが、2人きりで守護する冥界の入口だ。
黄金の扉程では無いが、神殿の神門も魔力を秘めている。
神門を抜け修道院の回廊、ゴシック様式の大聖堂、列神廊と続く。
七体の神像が左右列を成す。
それは、美しく、仄かに魔力の光を発する4柱の男神と三柱の女神の像。
大砲が並ぶ堅牢な軍事施設部と、騎士の間。その任に着く者達は、有事の際、天国から送られてくる事になっている。
居住部分、扇状の、優雅なサーキュラー階段を登って、2階。
廊下には、いくつもの扉が並ぶ。
その一つを開けると、暖炉の有る広々としたダイニングルーム。
大貴族の宮殿にしか無いだろう、贅を凝らしたその部屋に、今日は、招いてはいないが来客中。
ピンク色と白を基調にした部屋。ケルベロスちゃんの好みに合わせて作った。
壁に、それぞれ、天国、海、森林、街並みを描いた、色鮮やかで、緻密に織られた4つのタペストリー。
それは見目麗しい、天使、人魚、妖精、精霊、人。
そして、ドラゴンやユニコーン、幻獣、聖獣が描かれている一流の芸術作品。
棚には、色々な地方の人形が並ぶ。
神木造りの優雅なテーブルと椅子。ピンクのテーブルクロスに、銀食器、白磁のティーカップ&ソーサー、お皿。
皆が席に着き、紅茶と、マドレーヌ等茶菓を勧めてみたのだが。
男達に勧めるのは、アルコール類の方が良かったのだろうか? ワインとか?
因みに、僕は赤と白なら、赤ワインの方が好きだ。
「こらこら、ケルベロスちゃん。いい娘にしてなさい。その方々、一応お客様だから」
(気持ちは分かるけど)
黒マントから片手を伸ばし、制止する。
貴族風の細見の装束も黒尽くめ。スラリとした優男といった印象を僕は持たれる。
年は永遠の20歳。
神である僕は、身体の成長を止めたから。
紅茶にミルクとお砂糖を1つ入れる。ケルベロスちゃんにも入れてあげる。
「ね」
ケルベロスちゃんは艶のある黒髪を腰まで伸ばした、白い肌と、美しい容姿を備えた美少女だ。
金糸で紋様をあしらった白いドレスが良く似合う。
彼女は戸惑いといら立ちに、眉をやや逆立てている。
僕も、突然の来客に少々困惑している。監視は出来ていたが、まさかこの神域に辿り着くとは。
相手は、英雄ご一行様。皆、一見若年に見える。
1人は年齢とか不詳だが。男性2名に、女性1名、性別不明な者1体。
アストレア大陸に在る地上国家の1つ「ガンマール国」。
その北東地下深くに広がる多層型地下迷宮にして、神代より存在する「冥界迷宮」。
入り口の氷穴から入って行くと、僕の手によって整備されたダンジョンになる。
地下1階層から地下108階層を誇るこの広大な迷宮では、侵入する者への警告、そして、いまだかつて無いが、逃亡しようとする者たちへの監視と抑止を込めて魔物を放し飼いにしている。
下に行くほど魔物は強い。なので神でも無ければ、招かれない限り、生きたままここに来る事は不可能と思っていた。
(だって下の方には、偉大な幻獣、魔獣、神獣が守護者としているんだよ? この迷宮)
彼らは上の階から段々と降りて来て、最初のうちはスライムとか、ゴブリンとか、巨大グモや、巨大蟻とかを倒し、破竹の進撃を続け、どんどん下層、魔獣、幻獣の領域に降り、次々とそれらも討ち取った。
そして、まさかの竜王殺しだ。
(っ・・・)
黄金に輝く艶のある鱗を持った幻獣の中の幻獣。竜王。
彼等は、死闘を繰り広げこれを殺し、地下108階層の神聖魔法陣を起動させた。
(これも普通なら、起動させられっこ無いんだけどな~。天使長がいたからな~)
そこから転移した隠された場所。僕の権能で創った異空間。神殿と黄金の扉、人工湖の在る冥界の入口に辿り着いた。
黄金の扉は、冥界の門と言い、天国に在る天国の門と対になる死後の世界のもう一方の入り口となる。
この門が開くのは、だが、凄く稀なのだ。ここ300年は閉じたまま。
第一話 良くしたいと加筆しました。
長くなり過ぎたので、第ニ話、第三話と、3つに分割、差込投稿しております。