第十三話 ソーサリースフィア
甲斐君。カッコ良い苗字。空君。呼ぶと暖かくなる。
好きなんだ・・・。空君が。
こんなに男の子の事ばかり考えてる。明日、その空君のお家へ行く。
お姉ちゃんが一緒で良かった。
「真白お姉ちゃん」
「うん?」
常夜灯のみで、寝ようとしていた。
二段ベッドの下が、私。上の段が真白お姉ちゃん。
「明日、空君のお家に行くんだね」
「だね〜。どんなお家かな。楽しみ楽しみ」
「私、ドキドキして眠れない」
お姉ちゃんが、微笑んでいるのが感じられる。
「桜ちゃんの初恋だね」
「・・・うん」
「お姉ちゃんは? 初恋っていつ?」
「小学生の時に、クラスメートだった子だよ」
「どうなったの?」
「仲良くなって、お家に遊びに行った」
「え! 凄い!」
「その子、剣道の道場に通っている子で、凄く強かったの。誘ってくれて、試合を見に行ったり。カッコ良かったよ」
「で、で?」
「クラスの他の男子達にからかわれてね。その子、恥ずかしがって。それっきり」
「そんな・・・」
「うん」
「空君は、どんな子?」
「空君は、可愛くて、優しくて・・・勉強も、スポーツも何でも出来て。絵も、あんなに上手で。人気者なの。・・・私何て」
真白お姉ちゃんが、ベッドを降りて来た。
私のベッドに入って来る。
「桜ちゃんは可愛いよ。自信を持って良い」
「真白お姉ちゃん」
目頭が熱くなる。
「今日は一緒に寝よう」
「・・・うん」
◆
・・・夢を見た。青い地球の様な世界を、外側から穏やかに、慈しみ眺める7人の青年少女達の夢。
その中の一人。貴族風の黒づくめの衣装にマントの青年。顔貌は違うのに、何故か、空君に雰囲気が似ている。
翌日。空君のお家に行くのに、パパがお土産に、喫茶店で出しているガトーショコラを持たせてくれた。
私は、ネイビーのデニムシャツワンピに、グレーのコーディガンを重ね着。
真白お姉ちゃんは、茶のタートルネックに、ベージュのパンツ。オイルドジャケットを羽織り、ツイード のキャスケット帽と、ハンサムな装い。
私もお姉ちゃんも、流行はよく分からないけど、共に精一杯お気に入りのコーデ。
「戦闘態勢OKだね。桜ちゃん!」
「う、うん!」
緊張していても、空君が描いてくれた地図は分かりやすく、歩いて行くと、昼前には着いてしまった。
住宅街は、背の高い建物はあまり無く、甲斐君のお家も2階建。北欧風?のオシャレな一軒家だった。
「桜さん、真白お姉さん!」
「「空君!」」
「「「こんにちは!」」」
空君は、お家の前で待っていてくれた。
玄関を上がり、スリッパを勧めらる。
入ってすぐ、手入れされた観葉植物が、綺麗に並び、居住スペースは、かなり広そう。
今日は、日曜日。お家には、空君パパ、ママがリビングにいらした。
「いらっしゃい。よく来てくれたね!」
「いらっしゃい。桜ちゃん、真白ちゃん♪」
「おじ様、おば様、お邪魔します!」
「今日は、妹だけで無く、私までお招きいただき、ありがとうございます♪」
「いえいえ。昨日は、空がご馳走になって、ありがとうね」
「とっても美味しかったって、空、感激して。今度、私達も喫茶店、是非お伺いしたいです♪」
「是非いらして下さい!」
昨日のうちに、空君のご両親から、パパとママにお礼の電話も頂いている。
「ありがとうございます。両親も喜びます」
「これ、うちの両親から、お土産です。皆さんで、召し上がって下さい♪」
ケーキの入った箱を、お姉ちゃんがお渡しする。
「これは、ありがとう!よろしくお伝え下さい」
「まあ、とっても美味しそう。ちょうど5個。気を使っていただいて。後でみんなでいただきましょう♪」
「パパの手作りのガトーショコラなんです♪」
「楽しみ! 素敵なお父様ね」
「「はい!」」
今日は、お昼を空君のママが作ってくれていた。
「パエリアと、ローストビーフを作ってみたんです。お口に合うと良いのだけれど」
テーブルには、お料理と、食器類が並んでいる。
お料理は、海鮮の具材と、サフランライスが色鮮やかなパエリアと、ハーブで飾られたローストビーフ。サラダも有る。
「凄い!」
「綺麗! 美味しそうです!」
「お母さん、朝から桜さんと、真白お姉さんをおもてなしするんだ〜って」
「ふふふっ♪」
「ありがとうございます!」
「凄く嬉しいです!」
私とお姉ちゃんは、感動だ。お料理は、どれも、私達を喜ばせてくれようと、手間のかかった物。素晴らしく美味しかった。
(空君のママ、お料理凄い上手!)
(こんな料理の上手なお母さんがいたら、空君は、きっとグルメっ子だね)
私とお姉ちゃんは、小声で話したが、聴こえてしまった様で、空君達は満面の笑顔。
私も、パパにお料理習おう。
食後のお茶に、コーヒーとガトーショコラをいただき、みんなで舌鼓。
空君ママと、子供組は、コーヒーにミルクとお砂糖を。空君パパは、ブラックで。
大人の味覚。チョコレートには、ブラックコーヒーが合うらしい。
ガトーショコラは、大人気。パパ、ありがとう。
◆
子供組(私、お姉ちゃん、空君)は、2階に上がり、空君の部屋で、遊ぶことになった。
扉には、なぜか《営業中》の札がかかっているけど?お店?
空君は照れて、
「こういうアイテム、お店屋さんみたいで、面白かったから」
「うん。面白いね」
「空君、桜ちゃん、可愛い〜♪」
お姉ちゃんは、私と空君を一緒に抱きしめた。
「「え?!」」
ま?! 真白お姉ちゃん?!
空君と私、お姉ちゃんがギューっと密着。
お姉ちゃんから解放された時、私は真っ赤に赤面。空君も真っ赤。
「ご、ごめん。二人が可愛くて」
「は、はい。ど、どうぞ、僕の部屋へ』
「う、うん」
恥ずかしい! 〜〜〜空君何か嬉しそう?!
早い鼓動のまま、部屋を見る。私達の二人部屋と同じくらいの広さ。
濃淡チェス盤のように敷き詰められた、茶系のタイルカーペット。同色のカーテン。白い壁紙。
大きな本棚付きデスクには、ノートパソコンが置かれ。システムチェア。ベッド。テレビは、レンガ調の台に乗っている。
壁には、観葉植物がプラントハンガーで下がっていて、綺麗にまとまった部屋。
「オシャレ!」
コクコクと、お姉ちゃんに同意して頷く。
「ありがとうございます」
「趣味も良しだね♪」
うん。うん。
クッションを敷いて向かい合う。
「何して遊ぼうか? 空君」
「オススメが有るんです」
「何、何?」
空君は、テレビ台から、箱を取り出し見せてくれた。パッケージに、美麗なファンタジー風イラストが描かれている。タイトルは・・・。
「ソーサリースフィア? これはゲーム?」
「綺麗なイラストだね」
「「あれ?」」
真白お姉ちゃんと私は、ハモった。
地球の様な青い星を、黒マントに、黒い衣装の青年と、金糸で飾られた純白のドレスを纏う、腰までの美しい黒髪の少女が外側から憂いを込めて見つめている。
「この二人、今朝、夢で見た・・・」
「え?桜ちゃんも見たの?」
「お姉ちゃん? ・・・同じ夢を見たの?」
なんだろう? これ。不思議なんだけど。
「空君、私、このゲームの風景を、夢で見たかも。初めてのゲームのはずなのに。有名なゲームなの?」
「いえ、実はこのゲーム、僕が作った同人ゲームなんです」
「空君が作った!? 凄い! 本当に? 売り物みたいだよ?!」
「同人ゲームって何? 空君?」
「同志と趣味で作って、販売するゲームの事です」
「凄いね!」
「うん! 凄い!」
お姉ちゃんと私のテンションが高まる。
「あはは、ありがとうございます♪ 良かったら、やってみませんか? 感想貰えると参考になります」
「やりたい!」
「やります!」
ノートパソコンを持って来て、ゲームを入れる。起動。
OPアニメーション映像が、優しい美しいメロディと共に流れる。
え〜〜!?
ソーサリースフィア。
美しい空、海、大地を7人の青年少女が力を結集し生み出す天地創造。
生み出された球状惑星と2つの月の世界。
生物が生まれた。魔物や、悪魔の様な生物も生まれる。
場面が変わり、大きな戦いのシーン。
黒マントの青年、神父服の青年、戦士風の青年、2人の乙女が、5機のロボット?と、天使達を率いる。
魔物や悪魔を倒し、大きな扉に封印した。
その扉は、地底に封じられる。黒マントの青年が、その上に迷宮を作り。黒髪の美しい少女と、穏やかに日々を過ごす。
ある日、そこに英雄一行がやって来た。
惨劇。黒マントの青年と、黒髪少女が光に包まれて消失。開かれた封印の扉。
そこでOPアニメーションが終わった。
言葉を失う。
何これ!? 凄いクオリティ! 私がいつも見てるアニメとは、全然違う!
お姉ちゃんを見ると、お姉ちゃん?
「これ凄い。こんな凄いアニメーション、いや、これ。え? まだ、ゲームのOPなんだよね?!」
「頑張りました。プログラムから、アニメーション、CG、音楽まで一人で作ったから、全体の製作に2年半もかかっちゃって」
「こんな凄い才能を持った人、私、初めて・・・」
何か、お姉ちゃんがうっとりしてる!? でも、凄いよ、空君!
「嬉しいです。ありがとうございます! 次に、キャラクター作成してみて下さい」
「「!」」
スタート。
キャラクター作成。
容姿:
種族:人間
名前:
性別:
年齢:
職業:
「わ! 容姿の所に私の顔が入ってる?!」
「このゲームのシステムなんです。パソコンのカメラを利用して、製作者本人の姿を映してキャラクターを作れます。ゲーム内では、〈魂映し〉と呼んでいます」
「なるほど。種族は人間しか選べないのかな。じゃあ名前は、真白で。性別、女性。13歳」
「職業は選べるんだね。どれどれ?」
剣士、戦士、双剣士、魔剣士、侍、槍使い、弓使い、忍者、武闘家、ガンナー、盗賊、学者、僧侶、巫女、モンク、魔法使い、召喚士、精霊使い、魔物使い、死霊使い、軍師。
「色々有るね。お姉ちゃん」
「うん。騎士とかは無いのかな?」
「騎士は、上級職なので、剣士や戦士のレベルを上げていくと、ジョブチェンジ出来る様にして有ります。他にも称号を得て、職業が変わる時も有ります」
「そっか。私、ファンタジーRPGだと、ファンタジックドラグーンなら、やった事有るから、何となく分かった。・・・じゃあ、弓使いにするね」
「お姉ちゃんそのまんまだね」
「アハハッ」
お姉ちゃんは、中学校で、弓道部だもんね。
「決定!」
キャラクター作成が完成した。すると、〈弓使いの初期ボーナスが、お受け取りになれます〉と表示された。
「なんだろう。〈受け取る〉し」
ボックスを開けると、ピコーンと効果音が鳴り、〈神弓 雷上動を入手した〉〈スキル 水破、スキル 兵破を覚えた〉
職業:弓使いが、職業:神弓兵になった。
「んんん〜〜?!」
「な、何か凄い事に!?」
お姉ちゃんも私も、驚いてばかりだ。
「おめでとうございます! 真白お姉さんが、このゲームのオンライン上で、初めての弓使いだったので、初期ボーナスを獲得したんです!」
「そうなの?! 因みに、このゲームって今、何人くらいの人がやっているの?」
「同人即売会で売った20本と、後は、5本ですね」
「そうなんだね。じゃあ、次、桜ちゃんも」
「う、うん。やってみる」
次のキャラクターの作成。
容姿:
パソコンの前に座り、操作を始めると、私の顔が表示された。
おお〜。
桜、女性、10歳。職業。
「召喚士にしてみようかな? えい」
作成を完成。すると、また〈召喚士の初期ボーナスが、お受け取りになれます〉と出た。
「やった♪ 受け取りま〜す」
マウスで操作。クリックする。ピコーンと効果音。〈竜宝珠 エイダの心を入手した〉〈スキル:竜召喚を覚えた〉
職業:召喚士が、職業:ドラゴンマスターになった。
「え?!」
驚きの声は、意外にも空君だった。