8 研修終了
約一週間におよぶダンジョン運営に関する研修が終わった。
初日こそ多少のやる気があったが、最後の方になってくると、ほとんどだらけている。
だらけているというか、結局やってみなわからんやん、みたいや気持ちになってくる。
だってホンマに聞けば聞くほどこんなの成立すんのか、と思う。
ダンジョンの運営とかしょーもな、みたいなことも思わなくもなくはない。
なので最後の方はマジではよ終わらんかな、という感じだった。
ソフィアとも時間が経つにつれ普通に話す間柄になっていった。
彼女は、これは普通のことであると思うのだが、相当元の世界に未練があるようだった。
いや、未練があるというか、今でも何とか元の世界に戻りたいと考えているといった方が正しいだろう。
そりゃそうだ。
大企業勤めで、結婚を予定していた彼氏もいる。他人の俺だって出来れば君みたいな人ははよ元の世界に戻った方がいいよ、と思う。
だが現状その方法は知らないのだ……
したがってソフィアはダンジョン運営をこのように考えているようだった。
もし成績上位者になれば、元の世界に戻してもらえる、と。
バーリーはソフィアからそんな話をきいて、申し訳ないけれども、ふーん、みたいなことを思っていた。
だってそんな約束はどこにもない。
ヤナも言ってないしレビテも言ってないはず。
それなのにソフィアは、自分がこの世界に連れてこられたことに何らかの意味を見いだそうとしている。
もしくはこの世界のルールに乗っ取った行動を取り続けていれば、いつかは元の世界に帰れる、と。
いってみれば希望である。
人は将来に対して、何らかの明るい想像力が働かなければ日々やっていけないのである。
とっても人間らしい女だな。
応援したくはなるけど、でも俺は何も約束できないし何もできることがないかも。
バーリーはこんなことを思ったのであった。
研修が終わり、部屋に戻ってくるとあたりは静まり返っている。
当たり前である。
バーリーはこの世界に連れてこられてからというもの、この部屋で一人暮らしをしているようなものなのである。
食べ物は出前で済ませ、着るものやその他日用品もすべて電話一本で済ませる。
基本的に外に出ることは出来ないのである。
じゃあ研修のときはどうしたのかって?
いつもレビテの使いが迎えに来て、そして目隠しをされてどこかへと連れ去られ、時間になるとまた同じ方法でこの部屋へと連れ戻される(昔のテレビか)。
だからこの部屋の外がどうなっているのかはいまだにわからない。
だがものは考えようである。
バーリーは、ここで過ごす時間が長くなるにつれ、やっぱ普通に快適かもな、みたいなことを思い始めていた。
それはこの部屋に連れてこられた当初にも思ったことである。
元の世界でも、俺はネットさえあれば生きていけるぜ、という人は多いのではないだろうか。
もしくはネットの通販だけで生きれたらどれだけいいだろう、と夢想、または実行している人、意図せずそのような状態になっている人さえいるかもしれない。
ここはそんな人たちにとってほぼ理想的な環境である。
外注する端末こそパソコンやスマホではないが、一応固定電話があり、そしてその固定電話は、黒電話ほど古くはなく、一応それなりの機能(リダイアルやアドレス登録など)が付いている。
なので基本的に喋ることが出来れば特に不自由しない。
若干くせの強い人が電話口に出ることもあるが、言語が同じなので落ち着いて話せば今のところなんとかなっている。
そしてダンジョンの運営も、基本的にはこの固定電話を使ってこなしていくのである。
たとえばダンジョンといえば、モンスターが棲息し宝箱などが設置されているものだと想像する人は多いだろう。
基本的にこの世界のダンジョンも、例外はあるにせよそのイメージのままである。
モンスターが巣くい、宝が散りばめられている。
しかしこちらはそれを管理、運営する立場にある。となると、必然的にその業務内容は、それらの管理、保全、企画立案、レポート作成、などになる。
つまりモンスターを配置して宝を用意する、というのが我々に課せられた仕事だ。
で、その手配の方法も、普段の食品などのデリバリーと変わらない、固定電話を使っての取引になる、ということである。
したがってこんなものは、やろうと思えば、電話さえ外部にかけることが出来れば誰にでも出来るのである。
「三日後までに第一層にスライム新規で300体追加お願いします」
みたいな感じである。
だがもちろん悩ましい問題はある。目をつぶれない、場合によっては胃がキリキリするやつである。
そう、コストである。
この世界でも元の世界と変わらない、何をするにもとにかく銭、銭、銭、なのである。




