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織田信長の行動記録  作者: 楠乃小玉
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戦乱により奪われた思想「温故知新」

今回は温故知新について

中国の春秋戦国時代、戦乱によって失われたのは過去の遺産です。

それは物質的なものだけではなく思想的継承もそうです。

そうした損失を補い、過去の良質な概念を維持しようとしたのが孔子です。


戦乱によって発生する過去との断絶。


それは日本でも起こりました。


長年続く戦乱によって自国への失望、自国文化への尊敬の喪失。


それによって生まれるものが「新しいものは何でも素晴らしい」「古いものは何でもダメ」

という概念です。

実際、戦国時代にもてはやされた「下剋上」という概念は外来語です。

隋の蕭吉の『五行大義』が出展となっており、

この書物で記されている五行は戦国時代の日本人に大きな思想的影響を与えています。


またバサラも外来語であり、

語源は、梵語(サンスクリット語)で「vajra (伐折羅、バジャラ)= 金剛石ダイヤモンド

を意味する。


このように、混乱した戦国時代では、新しいものが素晴らしい、外来のものが素晴らしいという

気風が蔓延していました。


概念でも、古い座という経済システムが間違いで、こんなものは破壊してしまうべきだという

考えが蔓延しており、

その解放思想の最先端に立っていたものが本願寺の一向宗です。


一向宗は神社が支配している座による販売システムを破壊し、一向宗に入信すれば、だれでも

寺内町で販売業ができるという概念を発明しました。


この思想を「大阪なみ」といい、この「大阪並み」の概念を日本全国に蔓延させようという

思想運動こそ、一向一揆だったのです。

よって、一向一揆は百姓より、むしろ物流業者などが中心となっていました。


この新しい概念に触発されたのが今川義元であり、六角義賢であり、松平清康であり、少し遅れて

斎藤義龍でした。


当時、先進的な思想は「大阪並み」という市場開放運動であり、

この思想に賛同していることが、当時の最先端と一般に思われていました。


よって、松平清康なども猿投神社を焼き討ちし、座を破壊して大量の一向宗徒を

国内に流入させています。


今川義元も寺社仏閣から座を取り上げて、自分の御用商人、他国である甲斐から来た

 友野宗善に友野座を預け、座は御用商人専売にしている。

これは、既存の座を持っていた寺社仏閣から権利をはく奪したことを意味する。

 

 これに対抗して出てきた勢力が、神社神道の座を守護する織田信秀である。

 当時の感覚でいえば、織田家は過去にしがみついた時代遅れの守旧派であり、

 今川義元は流行の最先端のイケてる人に見えていた。

 今では滑稽ともされる京風の風俗も当時の人たちの目から見たら最先端の

流行ファッションであった。


 そうした状況の中で、織田信長も座を保護していた。

 関所を廃止したのも、自国の国人衆が勝手に関所を設けて金を取っていたのを廃止しただけで、

対外的には港で関税をとっていたし、外国との間の関所は廃止していない。

 楽市楽座も誤解されているが、

もともと、楽市楽座をやっていた今川氏真や六角氏や斎藤氏の領土の中で、今まで楽市楽座を

やっていた地域で楽市楽座を継続していいと許可したにすぎない。

それは、これまでの慣習を覆して、その地域の経済活動が混乱するのを回避するためである。

これも、昔から慣れ親しんだシステムを温存するという織田信長の「温故知新」の精神が

生かされた結果である。

織田信長は改革を嫌った。

できるだけ、地元のシステムを温存しようとした。

それは、システムを新しくすると、庶民がそれに適応しきれなくなり、経済混乱が起こり、

それにより、莫大な経済損失を被るからである。


鉄砲も、他国の大名がこぞって堺から豪華な装飾がされた高価な鉄砲をステイタスとして

購入していたのに対して、新興の国友から装飾なしの実質的武器として

安価に大量に購入している。

実利主義的行動をとっている。

流行に流されず、冷静に実利を追及し行動している。

「改革」という若者がかかりやすい熱病に感染せず、実直に実利を追及したことが

織田信長の優れた点である。


そして、戦乱によって過去の技術や概念を壊滅させた現状を修復するために、

織田信長はかつての室町時代以降のシステムを復活させようと努力した。

それは、「新しいものは何でも正しい」「古いものは全部まちがっている」という

何の確証もない「その場のノリで適当な事を言っている」新しい者好きの感情論者たちとの

戦いであった。

相手は、自分たちを根拠なく優越して進歩的存在と考えており、それを否定するものは

すべてバカだと思っている。よって織田信長も当時の進歩的人たちから

「うつけ」と呼ばれ嘲笑されていたのである。


決して、過去に固執した人たちからバカにされていたのではない。

実際に、織田信長は老齢の武者たちから高く評価されていた。

祖父の弟である織田秀敏から評価されており、老齢の朝倉宗滴からも高く評価されていた。

むしろ、信長をバカにしていたのは若者たちであった。


そして、その最先端の思想の市場開放を進んで推進した三河では士気が崩壊して

二代つづけて主君が家臣によって殺される事態となった。


これは偶然ではない。

自由化によって自国に対する帰属意識が希薄となり、相互不信が醸成された結果である。


今川家でも今川氏真が盛んに楽市楽座を行い、国が崩壊した。

これは今川義元の討ち死にが原因とも思われるが、

今川家では過去に当主が討ち死にし、幼年の領主が擁立された騒動があったが、

それでも今川家は崩壊しなかった。

六角家では自国に対する帰属意識が崩壊し、かつては足利幕府軍を撃退したほどの

精強な軍団を形成していたが、それがバラバラになって、甲賀衆は全国に離散してしまった。

そして、あっけなく信長に討伐されることとなる。


斎藤家も帰属意識が崩壊し、織田家への裏切りがあいついだ。


信長は美濃に入場したあと、一部地域では楽市楽座の継続を許可したが、

関の刀剣の製造など地域産業は保護している。


このように織田信長は産業保護政策と土木事業による財政出動によって国を繁栄させたのである。


織田信長が戦ったものは、「新しい概念はすべて正しい」と感情論でミスリードする市場解放主義者たちであった。



その根底にあったものが信長の世界観である神道である。

神道は神教ではない。


神道は神の道である。

これはつまり、継続性の意味である。


戦国時代に一時、喪失し、織田信長によって復活し、

また第二次世界大戦の戦乱によって日本人から喪失した概念。

それは継続性を直視する思想である。


これが、戦国時代、失われて日本を戦乱のカオスに引き込み、

戦後日本を精神的にむしばんでいるものの正体である。


これは単純に

物事を継続的に見続けるという思想である。


つまり、

だれかが「今、消費税を増税しないと日本はハイパーインフレになる!」

と言っていました。

消費税増税しませんでした。でもハイパーインフレになりませんでした。

戦前の人たちならこれを覚えていて「なんら、お前、嘘つきだな、外れたじゃないか!」

と指摘する。

これが平時の日本人には当たり前にできました。


しかし、現在の日本人は、相手が何度ウソをついても、過去の事を忘却していて、

何度でも同じウソに騙される。


実は、戦国時代の日本もそういう状態でしたので、

一向宗は、長島の戦いで、織田信長と講和しながら、撤退する信長軍を襲って、

大被害を被らせました。


しかし、そのあとも、また講和しました。

当時の日本人は目の前の事しか見ておらず、過去からの継続性が喪失していたので、

人はどうせウソをつくものだという概念が蔓延しており、

最先端の思想をもっていた一向宗の人たちも、同じように織田信長をだましても、

二度目も騙されて信長は撤退して大被害を受けると考えていたのです。

しかし、信長は過去の一向宗のやり方を覚えていました。


そして、撤退中の一向宗を襲って皆殺しにしたのです。

一度ウソをついた者は覚えていて、そいつの言うことは信じない。

こんな簡単な事ですが、

これが戦後、日本人から喪失してしまった概念の一つである継続性です。

過去の出来事は覚えておきましょう。

それが、未来において騙されて破滅させられないための秘訣です。

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[気になる点] >なんら、お前、嘘つきだな、 は >なんだ、お前、嘘つきだな、 の 誤りかと思いました。勘違いだったらすみません。
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