8 魔術講座
ふむ、意外と希望者が多かったのだな。
では此れより汝等に魔術を教えよう。
しかし我に教える事が出来るのは我が扱える魔術、即ち『魔力操作』『強化魔術』『幻想魔術』『治癒魔術』のみだ。
まあ仮に他に習得したい魔術があるのなら、後で希望を言うが良い。
後にはなるが講師のアテをさがしてみよう。
質問の類も後に回せ。話が終わった後ならば、幾らでも質問を受け付けよう。
魔術の行使には正しき知識が必要だ。わからなければ後で遠慮無く聞くと良い。我に直接聞き難ければ、サーガを通せ。
本日は前半を座学に充て、時間が余れば『魔力操作』の練習を行う。
では先ずその『魔力操作』の説明からだ。
1『魔力操作』
魔力操作とは、言葉の通りに魔力、魔術を行う源の力を扱う基礎である。
だが基礎であると同時に、奥義ともなり得るので、魔術を志すのであればこの修練にこそ最も力を注げ。
余程の例外、生まれ付き何らかの能力を介して魔術を行使するような例外的存在以外では、魔力操作が下手で他の魔術の扱いが上手い奴は居らぬ。
魔族の神たる我が母は言っていたが、魔力操作の巧みさを越えて他の魔術の腕が成長する事は無いのだそうだ。
無論、己の魔力に頼らぬ魔術は話が別だが。
ちなみに魔力操作自体が術を行使する手段でもあるからな。
例えば魔力に攻勢の意思を込めて放ったり、防御の意思を込めて防壁状に展開したりする。
この魔力操作による攻撃や防御の特徴は、タイムラグの無い行使が可能、……ん、つまりな、溜めを無しに即時発動が可能だ。
故に低ランクなら兎も角、高ランクの術者ならば咄嗟の場合の対応に使用するのもこの魔力操作になるだろう。
魔力とは、体力でも生命力でも腕力でも知力でも精神力でも無い、魂の生み出す神秘を操る力である。
凡そ全ての生き物は魔力を持つ。
その中でも我等魔族は体内に魔力を増幅する器官、魔核を持つのでその保有量に優れた種族だ。
生き物以外でも、自然の中にも魔力は流れる。
微量な魔力はそこら中にあるぞ。大きな魔力は秘境や特殊な神域にしかないがな。
魔力を帯びた風が吹いたり、大地の中を魔力の流れが通っていたり、その影響で鉱物が魔力を含有していたり……、まあ色々だ。
常識を超えた現象に出くわしたなら魔力の関与を疑え。巨大な魔力を感知したなら、常識を超えた現象が起きると思って備えよ。
……少し話が逸れたな。
ちなみに魔力は体力でも生命力でも腕力でも知力でも精神力でも無いが、その操作は知力や精神力の高い者が得手とする。
では実際に魔力を操作する方法は、後で練習しながら話そう。
次は『強化魔術』である。
2『強化魔術』
強化魔術は魔力を持って何かを強化する法。
特に魔力を身体に流して動きを強化したり、皮膚を硬化させたりする身体強化に良く使用するな。
まあ敢えて魔力操作と分けているが、実際の所はほぼ同じ物だ。
魔力操作に長ける奴は大体強化魔術にも長ける。
なら何故別種として数えているのかと言えば、身体を通して接触している物質、手に握った武器等の強化も行えるからに他ならん。
身体強化の比べれば武器強化はコツが要るがな。
己の身体は問題なく強化出来るのに、武器や防具に魔力が流せないって奴は良く居るのだ。
ああ、後は魔力操作の練習は個人でしても問題無いが、強化魔術の練習は単独では禁ずる。
人間やら獣人やらの魔力の保有量が少ない種族は問題無いらしいが、我等魔族は保有魔力が多い。
己がステータスは確認出来るな?
見るが良い。恐らくどの数値よりも、魔力が高くなっているだろう。
故に慣れずに強化魔術を施すと、身体や武器防具の限界を越えて魔力を注ぎ込んでしまう場合があるのだ。
肉体に限界以上の強化魔術を施した場合、内側から弾け飛ぶ。武器や防具も爆発して粉々になる。
脅しでは無く、本当に危険なので強化魔術の練習は我と共にせよ。よいな?
良し、では続きだ。
武器や防具がどの程度強化出来るかは、其の素材に依る。
魔力に親和性のある金属で作られた武器、等の謳い文句は聞いた事があるだろう。其れ等は強化出来る幅が大きい。
身体の強化に関しては、凡そ強化項目のステータスと同値までと言われているが、アテにするな。
真に魔力操作と強化魔術の扱いに熟達すれば、その限界は感覚で知れる。其れまでは練習は我と共に。
一応は限界を突破する裏技もあるのだが、凡そ其れが必要になるのは魔王や四天王クラスのみだ。
其処まで上り詰めたい者が居るのなら、相応しい力を身に着けた時に教えてやろう。
では次は『幻想魔術』だ。
3『幻想魔術』
一番魔術らしい魔術である。
今居るこの建物の外枠の土壁を作った魔術だな。
この魔術は属性と作用範囲と効果を指定した上で、己のイメージを実現させる術だ。
応用が利くが、魔力の消費が激しく、術に行使に構文を組む必要があるので発動には少しの間が要る。
また個人の資質で扱える属性に差があってな。適性の無い属性に関しては使用出来ん。
属性は地水火風の四元に光と闇を加えて基本の六属性だ。
実際の術の行使には、基本六属性以外にも、地と水に適正が有る者なら複合属性の木が使える。
風と水と火の三属で雷、地と火で金、……金は金属の意味だな。
他には火と水で熱等、色々と複合属性があるが、全ては知らん。
発見者が秘匿した属性もあるだろうし、未発見の属性もあるだろう。
まあ言葉だとわかりにくかろう。例を出そう。
属性は光、球形と成して集え、作用範囲は我が指先に、効果は無し、或いは発光。
こんな感じで文を組むのだが、割と適当で構わない。この文は暴走を防ぐ為に縛りを入れる為にある。
そして此処まで文を組んだところで、イメージを明確に魔力を注ぎながら、要求を口に出す。
『光よ、在れ』
とまあこんな風に使えば、見ての通りに指先が光るだけの幻想魔術が完成した。
この魔術を扱う際に気を付けるのが、先程も言った暴走だ。
例えば射撃魔術を放つとしよう。作用範囲で射程を指定する必要があるが、我が視界内と指定すれば、見えなくなったらその魔術は消える。
しかしもし此処で何処までも届く等の文を組んだり、或いは範囲の指定文を組まずに曖昧なままで術を放てば、必要な魔力は無限だ。
無限の魔力を持つならば、本当に何処までも届く、星の果てだろうと届く魔術を放てるだろう。
だがそんな奴はおらんので、運が良ければ術が発動しないか、或いは己の身を食い尽くされて半端な魔術が発動するか、……まあ大体碌な事は起きないな。
ある程度幻想魔術に熟達すれば暴走しそうな術はキャンセル出来るし、他人の術が暴走しそうな時も止める事が可能である。
なので幻想魔術に関しては、この中でも特に希望者のみに指導するし、当然ながら我の居ない場所での練習は禁止だ。
幻想魔術は発動だけじゃ無く維持にも魔力を必要とし、魔力の供給を止めれば術も消える。
が、今この光の魔術は魔力を止めたら消えたが、この建物を作った土壁はそのままだ。
つまり術は消えるが、生み出したり移動させた物質自体は残る。土や水がそうだな。
便利だろう?
森で火の魔術を使って燃え広がったら術を止めても燃え続けるからな。注意せよ。
無論万能では無い。生み出す物質への知識も必要だし、動かして集めるのに比べれば生み出す術は消費が激しい。
生み出そうとする物質次第では、保有魔力の限界を簡単に超えるからな。
溜めやデメリットがあるなら魔力操作で魔力をぶつけた方が早いと思うかも知れんが、まあそれも間違ってはおらん。
ただ可燃する油を思え。其れが魔力で、その油をぶつけて相手を殴り殺すのが早いか、油をかけて火を付けるのが楽か、それはその時々だろうな。
油をぶつけるのが魔力操作で、火を付ける一手間が必要なのが幻想魔術だ。
まあしかしどちらも高レベルの術者になればその限りでは無いぞ。
さて幻想魔術はこれで終わりとする。最後に『治癒魔術』を話すとしよう。
4『治癒魔術』
用途が違う故に分けてはいるが、此れもほぼ強化魔術と同じで魔力操作の発展だ。
魔力で傷口を覆い、染み込ませ、同化させ、傷を埋める。細胞を賦活させ、回復を早める。
浅い傷は簡単に塞ぐ事が出来るが、無論深い傷はそうもいかん。
表面を塞ぐだけじゃ無く、中にも治癒が必要だろう。
血管が傷付いておれば繋げる必要もあるし、毒に侵されていたなら内臓の働きを高めて分解か、体外への排出を行う必要がある。
時には敢えて身体を傷付け、悪しき部分の摘出してから治癒魔術を施し始める事もあるのだ
治癒魔術の行使に大事なのは、魔力操作と肉体への理解。
難易度は強化魔術よりも高い。繊細な分野故な。
欠損の修復には幻想魔術を併用しての修復法があるが、高度な技術だ。
我も一応は可能だが、再生部位が以前と同じ様に動く保証は出来ん。成るべく怪我はせぬ様に。
無論治癒魔術も強化魔術と同じく、勝手な練習は不許可である。
他人を柘榴の様に弾けさせたくなかろう?
そう、つまり今の段階で個人練習して良いのは魔力操作のみとなるな。
最初に言ったであろう。魔術を志すのであれば魔力操作の修練にこそ最も力を注げと。
我より魔術を学ぶのであれば、其れは絶対の方針だ。
よし、では此処までで何か質問はあるか?
無ければ魔力操作の修練を始めよう。