32 写し取る者
十二、十三、十四階層に関しては特に大きな出来事は無い。
十三階層はまた溶岩が流れていたので我が戦ったが、十二と十四ではガルとリリーの連携を試したり、毎度地下空洞にぽっかりと巨大な穴が開いて階段が降りているのに違和感を感じた事位だろうか。
嗚呼、他にも十四階層で狩った巨大な双頭の蛇が大変美味かった。
クセが無く食べ易く、且つ濃厚な味がし、更に食って暫くすると身体がポカポカと温まって、寧ろ一寸熱くなったかの様にすら感じる。
喰って活力が身に宿るのは有り難いが、流石に此れより下の階層を頭に血が上ったまま進むのも危険なので、血を抜いてリリーに与えておく。
我と違い、与えられた血や魔力でも成長出来るのがリリーの強みだ。
ガルも魔物であるが故に魔力が成長に関与するが、リリー程にはっきりと魔力の吸収は行えない。
植物型の魔物である事も大きいのだろう。リリーの母のラーネも、他者を栄養に強烈な進化を遂げた特殊個体だった。
そして只でさえ特殊な魔物の娘であるのに、我や魔族等の魔力を与えまくったが故にリリーはその在り方を更に大きく変容させている。
彼女の将来が如何なるかは、我にも全く予想が付かない。
一方ガルだが、リリーの売りが想像も付かない特殊さだとするなら、ガルの売りは純粋にその秘めたる才能だろう。
今でさえ森の狼種からは上位者として扱われているガルだが、此奴はその枠に収まらず其れを率いる将に、或いは王にまで進化を遂げる事はまず間違いが無かった。
ガルが其処まで上り詰めた時、果たして其れでも我が隣に居てくれるかはわからぬが、その時がとても楽しみである。
まあそんな仲間自慢はさて置いて、十四階層の最奥で一泊した我等は、階段を下って遂に十五階層へと辿り着く。
此処は先駆者たる冒険者達が訪れた最下層とされる階層だ。
嘗てこの階層に降り立った冒険者達は、多大な犠牲を出して撤退を余儀なくされたらしい。
それでも生きて帰れたのだから、その者達は優秀な冒険者達だったのだろう。
高位の魔物を狩れる冒険者を抱える北西魔族領は、矢張り強大な存在である。
エシルの町で冒険者をやってる魔族娘達なら、このダンジョンは恐らく五階層まで下るのが精一杯の筈。
決して彼女等を侮る訳では無いけれど、実力も経験もまだまだ足りないのが事実なのだ。
そして北西魔族領の冒険者等と我が町の魔族娘達の差は、そのまま両者が属する勢力の実力差を表している。
でも我はそんな差がある北西魔族領の魔王である姉との勝負に、9割9分勝ったので盛大に褒め称えられても良いと思う。
そんな訳で十五階層だが、此処は十四階層までのだだっ広い地下空洞とはまたガラリと雰囲気を変えて、水晶で出来た洞窟のような場所だった。
光源として火を付けたカンテラの灯りが、水晶に幾度も反射して幻想的な光景を生み出す。
非常に美しい場所である。
だがこの光景の何処かに実力ある冒険者達に撤退を余儀なくさせた危険が潜むのかと思うと、その美しさも酷く冷たい物に感じてしまう。
―グルルルルッ、ヴァウッ!!!―
その時、ガルが咆哮を放つ。
魔力を込めた咆哮が水晶を揺らし、ビリビリと震えた水晶の一部が、ばきり、べきりと砕けて割れた。
この段階に至れば、ガルが何をしたかったのかに我も気付く。
割れた水晶の中からずるりと這い出して来たのは、目も鼻も無い、つるりとした顔に単なる穴にしか見えない口の開いた、紫色の人型生物達。
出来の悪い粘土細工を連想させるその魔物を見た瞬間、我は咄嗟にデュラハンから得たグレートソードを投げつけて、ぐしゃりと潰す。
ガルもリリーも我に続き、爪が、蔓が、その魔物を引き裂き、縛り殺していく。
だが一体だけ間に合わなかった。
最後の一体が、最も近くに居た狼、ガルの姿を写し取ったのだ。
そう、この魔物の名称はドッペルゲンガー。観察した相手の、姿だけでなく力や経験までをも写し取る不可思議な存在である。
成る程、ドッペルゲンガーが大勢潜むなら、先駆者たる冒険者達が被害を被ったのも頷けた。
ドッペルゲンガーは変化前は弱いが、変化後は姿を写し取った者と全く互角の力を持つ。
水晶の奥に潜んで観察をされてしまったら、どんな実力者だろうと苦戦は免れない。
いや寧ろ、この階層にドッペルゲンガーが存在するとの報告は無かったのだから、きっと苦戦では済まなかったのだ。
何せ自分の姿と力で襲い掛かって来る化け物が相手である。
強力な力を持った魔物に襲われ、姿も確認出来ずに逃げ帰ったのとは訳が違う。
ならば何故そんな印象的な出来事を、彼等は報告しなかったのか。
ドッペルゲンガーは姿を写し取った相手を殺し、その者になり替わる習性があると聞く。
故に彼等は報告をする事でなり替わりの疑いが掛かる事を恐れたのだろう。
何故なら本当に彼等は入れ替わられてしまっているから。
既に入れ替わったドッペルゲンガー達は北西魔族領を離れて居る可能性も高いが、帰還したなら一応は一報入れてやるべきかも知れない。
ちなみに我や姉なら、ドッペルゲンガーを恐れる必要は然程無かった。
その者の力や経験を写し取るドッペルゲンガーも、神より与えられた力、もっと言ってしまえば神の力であるギフトまでは写し取れないからだ。
特に我のギフトは力の源と言っても過言では無い。
ギフト無しで我を写し取っても、我に勝つ事は不可能だと断言出来る。たとえ其れが多対一でもだ。
しかし今現在姿を写し取られたのはガルで、此れは少し厄介だった。
魔力に攻性の意思を込め、無数の飛礫として放つ。
ダメージを与える事よりも、回避の難しい広範囲に対する攻撃によって相手を防御に専念させ、動きを止める事を目的とした魔力弾だ。
けれどガルを写し取ったドッペルゲンガーは、我の想像を上回る機動で魔力弾の攻撃範囲を逃れる。
思わずチッと舌打ちしてしまう。
経験まで写し取ると知ってはいたが、全開で使われた加速の能力が我の想像を上回っていた。
普段のガルは我を背中に乗せたり、或いは我と連携する為に敢えて加速を全開にしていないのだと思い知らされたのだ。
だが加速により我の予想を上回った回避を見せたドッペルゲンガーを、その回避先に加速で回り込んでいたガルが、再び魔力弾の効果範囲に叩き落とす。
本来ならばドッペルゲンガーの変化に最も衝撃を受けるのはガルだろう。
ガルには我と違って魔物に対する知識は無いし、何より己の姿と力を写し取られている。目の前で全力の加速すら使われた。
にも拘らず、我の攻撃と全く遅滞せずサポートに回ってくれたガルの、戦友の献身に思わず口元に笑みが浮かぶ。
「リリー!」
我が声に応じ、魔力弾の最中に叩き落とされ防御専念を余儀なくされたドッペルゲンガーに、リリーの蔓が巻き付いて行く。
変化前のドッペルゲンガーは呆気なく縛り殺したリリーの蔓だが、今の相手はガルの力を持っている。
彼女の力だけで足りぬ事は明白なので、我は抱えたリリーの身体に魔力を注ぎ、蔓をより頑強に強化した。
魔力弾の飛礫が収まれば、其処には拘束されたドッペルゲンガー。
止めを刺すべき者は、当然己を真似られたガルしかいない。
もがくドッペルゲンガーの喉笛に、ガルの牙が食い込み、その首を噛み千切る。
そしてガルの姿を模したドッペルゲンガーが息絶えた瞬間、ガルの姿は光に包まれ、一回り、二回りとその身体を巨大に成長させていく。
其れは十階層で我が血を舐めたリリーに起きたのと同じ現象、つまりは進化だ。
名称 アシール
種族 魔王
年齢 0(?)
髪色 黒 瞳 黒
レベル 22→30
生命力 520 → 680+200
魔力 819 → 1139+200
STR 342 → 438+200
INT 418 → 538+200
DEX 370 → 474+200
VIT 354 → 450+200
MND 399 → 511+200
戦闘技能
武器類取扱(中) 格闘(低)
魔術技能
魔力操作(超越) 強化魔術(高) 幻想魔術(高) 治癒魔術(高)
他技能
感知(中)
ギフト
『貯金』魔王銀行を何時でも何処でもご利用になれます
現在貯金額(特大)G
魔力貯金額(大)P
所持品
デュラハンのグレートソード
魔王の服(防御力小、清潔、自動修復付与)
*
30レベルボーナス!
全能力値+200、レベルアップ時の成長率が上昇
名称 ガル
種族 黒狼人 → 黒狼将
レベル 18 → 25(成長限界)→1
生命力 630 → 950 → 1200
魔力 249 → 375 → 400
STR 304 → 463 → 550
INT 154 → 266 → 350
DEX 422 → 618 → 900
VIT 273 → 413 → 500
MND 147 → 257 → 350
戦闘技能
格闘(中→高)
魔術技能
咆哮(中→高) 加速(中→高)
他技能
感知(低→中) 隠密(中) 統率(低→高)
所持品
無し
名称 リリー
種族 魔華姫
レベル 1(*成長限界)
生命力 150
魔力 1200
STR 60(蔓の力は600)
INT 80
DEX 500
VIT 30
MND 420
戦闘技能
蔓の鞭(中) 捕縛(中)
魔術技能
吸収(高) 幻惑の芳香(低) 魅了(低) 治癒の蜜(低) 魔力操作(低) 強化魔術(低) 治癒魔術(低)
他技能
所持品
無し
*
名称 リリーは通常とは異なる成長方法を取る為、レベルの上昇はありません。




