31 溶岩流れる地下空洞
宝箱に仕掛けられた罠は毒煙だった様だが、蓋を壊す勢いで蹴りを入れて発動させたので、煙が噴き出すのを見てから後ろに下がっても悠々と避ける事が出来た。
下手にちゃんと開けようとすれば、あの煙が顔に当たったのだろう。
単なる毒如き、別に特に問題ないと言えば無いのだが、何となく不快感はありそうなので避けれるなら避けるに越した事は無い。
物理的な罠で、発動させて怖いと言えば酸の罠位だろうか。
宝箱サイズで仕掛けれるギミック程度では、そうそう我やガルを殺し得る殺傷力は持たせられないのだ。
流石に魔法の罠は何が起きるかわからぬので、宝箱自体に魔力を検知した場合はそもそも開ける気が無い。
通常の冒険者と違い、我々の目的は財貨を稼ぐ事では無いからこその行動である。
箱の中身は、割れた薬瓶が数個、……まあ間違いなく我の蹴りのせいだろう。と、柄も鞘も意匠を凝らした美しい片手剣であった。
鞘に納めたままでも薄っすら魔力を感じるが、取り立てて邪悪な感じもしないので背嚢に放り込む。
我が片手剣なんぞ使えばすぐに壊すが、最近冒険が楽しそうなエシルの魔族の娘等には良い土産となろう。
しかし壊した薬瓶を見て思い出したが、そろそろ町に錬金術師が欲しい。
一番早いのは北西魔族領で探して招聘する事だが、あまり姉に借りを作りたくも無かった。
術師のシュシュトリアが術札の生産は行ってくれるので、錬金、彫金、鍛冶、この辺りをこなせる技術者を入手する事が、今後の課題と言えるだろう。
町の事を考えながらも、ダンジョン攻略は進む。
十一階層は、降りた途端に驚く事になったが、今までの石造りの通路とフロアの組み合わせとは打って変わって、姿を見せたのは開けた地下空洞。
周囲と比べて、今降りて来たばかりの階段が妙に浮いている。
そしてどんな仕組みになっているのかは不明だが、何と溶岩の川までもが地下空洞の中を流れており、カンテラの光無しでも周囲は充分な明るさで満ちていた。
成る程、高位の魔物ともなればサイズが大きい者も多い。
此処からはそんな彼等も思う存分に力を振えるよう、広い空間になっているのだろう。
溶岩の川を見たリリーが嫌そうに顔を顰めて身を捩るので、抱え直して宥める様に軽く背を叩く。
植物の魔物はやや炎を忌避する傾向がある。
リリーは此れまで通常の炎や、我の扱う炎の魔術にはそんな様子を見せなかったが、流石に溶岩ともなると不快感や恐怖を感じるのかも知れない。
溶岩の中には幾つもの気配が潜んで居るので、万一にも引き摺り込まれ無いように距離を取りながら奥を目指す。
確かに我等の目的は魔物を狩る事だが、別に苦手とする場で戦う必要は特にないのだ。
我自身は魔力で身を覆えば、溶岩に引き摺り込まれようが然程の問題は無いが、リリーまでは庇い切れない。
ガルとて溶岩にまともに触れれば傷を負うだろうし、嗚呼、我とて溺れて溶岩を飲めば死ぬ可能性はある。
故に決して無理をしないと決めたのだが、其れでも魔物が溶岩の川から出てまで追いかけて来るなら話は別だった。
久しぶりの獲物が何時まで経っても溶岩に近づかずに進むので焦れたのだろう。
溶岩の川から出て来て我等に追い縋るのは、ドロドロとした溶岩がそのまま人型を成したような、……こいつはゴーレムの一種になるのだろうか?
そんな溶岩のゴーレムがひのふの……、五体。
「リリー、暫し離れよ。ガル、預かってくれ」
抱えたリリーを、僅かに抵抗されたが引き剥がしてガルに預ける。
溶岩を怖がるリリーを抱えたままに奴等と近接戦闘を行うのは、少しばかり可哀想だし、ガルも戦えぬ事は無いだろうが、爪や牙で戦うなら大きな火傷を覚悟する必要があった。
結局我がやるのが一番効率が良いのだ。
リリーもガルも、高位の魔物と比して決して戦力として劣りはしない事は知っているが、相性の悪さは仕方が無い。
上の階層で手に入れたグレートソードを両手で握った。
デュラハンがやって見せた様に片手で使えない事も無いが、折角ダンジョンに入って初めて両手が空いたのだ。
両手で振う方が腰の入った振り回しが行える。
最近はずっと打撃武器に慣れていたので、その振り回しが斬撃と呼べるかどうかは怪しい所だが、まあ刃の部分で殴ればきっと切れるだろう。
軽く膝を曲げてから、一気に飛び上がって溶岩ゴーレムの一体に向けてグレートソードを振り下ろす。
跳躍にも、振り下ろしにも、そしてグレートソード自体にも、魔力を使って強化を行っている。
思い切った速攻に溶岩ゴーレム達に反応は一歩遅れ、グレートソードの刃に触れた一体は粉々に吹き飛ぶ。
そう、斬れたのではなく粉々になったのだ。
正直拍子抜けした気分に包まれた。どうやらこの溶岩ゴーレム、ドロドロと流動しているのは表面だけで、内部は硬い普通の石らしい。
ならば別に刃を斬る様に上手く使えずとも、叩き潰せば良いだけだろう。
流動体に見える故に斬ってしまわなければと思い込んだが、中身が固いのならどんな戦い方でも破壊は可能だ。
仲間を破壊された事に怒った溶岩ゴーレムが拳を振り下ろして来るが、避けずにグレートソードを手放して、空いた右手でその拳を受け止める。
表面の溶岩の奥の焼けた石の拳を、我の掌が確りと握った。
キチンと魔力で防御しているので、熱は特に伝わって来ない。見た目が見た目なので、恐らく熱いのだろうなと思うばかりだ。
全身に力を籠め、右手に握った溶岩ゴーレムを振り回して、別の一体に思い切り叩き付ける。
ぶつかった方も、ぶつけられた方も、二体とも仲良く砕けた石塊と化す。
その後、僅かな時間で過半数を破壊された溶岩ゴーレム達が、慌てて溶岩の中に逃げようと背中を向けたのを、捕まえて破壊し終わるまでに然程の時間は必要無かった。
相性さえ問題無ければ、高位の下に引っかかる程度の魔物は、所詮はこの程度なのだ。
戦いを終えて思うのは、そろそろガルにも魔力操作や強化魔術を教えてやるべきかどうか。
魔物として生来の魔術技能を操るガルに、我等魔族と同様の魔術の習得は少し難易度は高いだろう。
だがガルも、そしてリリーも、我が魔力の影響が強いし、個体としての知能も高い。
挑戦してみる価値は充分にある筈。
勿論ダンジョン探索を無事終えて、我等が町、エシルに帰還してからの話だけれど。




