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3 初めての戦い(前編)


 月明りだけが頼りの闇の中、恐らく気持ち良く酔いが回っているのだろう、森の木々に向かって用を足そうとした人間の頭に剣を振り下ろす。

 刃こぼれが酷く、先端に至っては折れてしまって価値無しと見なされる剣ではあったけれど、まるでバターに熱したナイフを入れるが如くにサクリとその頭を両断した。

 例え人間にとっては攻撃力を発揮出来ないボロボロの剣でも、魔王の膂力に身体強化の魔術を足して振るえば、人一人を屠るは容易い。

 別に其れが手刀であっても同じ事は出来るのだけれど、武器を使えば純粋にリーチが伸びるので、先端が折れた剣であろうとも魔王にとっては意味があるのだ。


 森を出てすぐの場所で野営する人間達の、群れを離れた個体を始末した我は、その骸を森の中に引き摺り込む。

 身体の奥底から力が沸き上がるのを、まあ恐らくレベルの上がった影響だろうが、感じながらも森の中で屠った人間の懐を漁る。

 飲んでる最中に、少し用を足しに来ただけの人間だ。主武器の類は当然所持していないが、腰に短剣を吊るしていたので頂戴した。

 他には財布の中に、金貨が三枚、銀貨が五枚、銅貨が十四枚あったので此れも頂戴し、……ふと思い出した『貯金』の能力を使って魔王銀行へ放り込む。



―現在貯金額:3.514G―



 ……どうやら魔王銀行の表示単位は金貨が基準となるらしい。

 確か銅貨が百枚で銀貨に、銀貨が十枚で金貨に交換出来る比率の筈で、銅貨一枚は黒パンを一つ買える程度の価値だった筈。


 しかし魔王銀行に貯金を行っても、何かが変わった様な気配は無い。

 金額が少ないせいかも知れないが、此れは外れギフトの可能性が少し高まって来た。

 確かに財布を持たないで済むのは有り難いと言えば有り難いし、所持金がわかり易いので便利と言えば便利だが、今我が望む能力は戦闘力だ。

 漏れそうになるため息を堪えつつ、その場を移動する。


 一人を手に掛けたのだ。此処から先はのんびりしている暇は無い。

 人間は全部で一五人居り、そのうち一人を始末した。残るは十四人だが、そのうち二人は宴会に参加せずに森側への見張りを行っている。

 見張り達も一仕事終えて油断し切っている様子は伺えるが、それでも酒が入って居ないのだ。

 用を足しに出た人間が、何時までも戻って来なければ不審にも思うだろう。


 あまり森を見ずに宴会をする仲間達を、遠くから羨まし気に眺める奴等を如何始末するか。

 酔っ払いなら兎も角、素面の人間相手に隙を付ける程、隠密に長ける自信は無い。

 どちらかと言えば目立つ技の方が得意ではある。

 故に確実を期すならば、消耗は決して少なく無いが、やはり魔術を使うのが一番だろう。




 術を組む。

 属性は闇、我が腕を模して集まれ、作用範囲は視界内、効果は物理への作用。

『闇に潜む二本の腕』

 術の発動に、集まった闇が宙に浮く二本の腕の形を取る。

 両の手を、握って、開けば、同じく宙に浮かぶ二本の腕も握りこぶしを作って、開く。


 良し。

 後は気付かれぬ様に低空を這わせて、見張りに近づき……、己に迫る危機にも気付かずボンヤリしたままの二人に、二本の腕が一本ずつ襲い掛かってその喉を締め上げる。

 驚きに口を開く見張り達だが、もうその喉からは声は漏れない。

 闇を集めてこさえた代物でも、我が腕を模したのだ。腕力は我と全く変わらない。

 声も出せず、暴れる暇も与えずに、二本の腕は二人の見張りの喉を砕いて頸椎も圧し折った。


 二人の人間を始末した事で、再び我が肉体に力が満ちる。

 ……だが使った魔力が戻って来る訳では無い。器は大きくなっても、大きくなった分の中身が湧く訳じゃ無いのだ。

 母に借りたゲームの中ではレベルが上がれば体力も魔力も全回復するシステムの物が幾つかあったが、あの能力が今切実に欲しかった。


 見張りの死に、宴会をする人間達が気付いた様子は無い。

 少し安堵の息を吐き、二人の骸を、闇の腕で慎重に森へと引き摺り込む。

 収穫は、槍が二本に短剣も二本。そして最初の人間と同じ様に財布に入ったいくらかの金銭。



―現在貯金額:11.357G―



 取り敢えず魔王銀行に放り込み、見張りを失った人間の野営地に、息を殺して忍び寄る。

 闇の腕は既に消した。消費が重い魔術は、維持にも其れなりの魔力が必要だ。

 今の我にそんな余裕は全く無い。体感だが、恐らく既に残存魔力は半分近い所まで減っている。

 残る人間は十二人。此処からどう攻めるかに思案を巡らせているその時、不意に宴会の場から歓声が上がった。





 恐らく宴もたけなわといった所で、戦利品に対しての凌辱の許可が出たのだろう。

 酒を煽っていた人間達が、近くに固めて拘束されていた女子供、まあこの場合子供には恐らく用はない筈ではあるが……、目を向ける。

 しかしそんな人間達の前に、囚われていた中の一人がまるで仲間達を庇うかのように立つ。


 其れは一人の少女だった。

 薄い褐色の肌に銀色の髪、そして燃えるような紅の目が印象的な、美しい少女。

 魔族なので年齢の判別は少し難しいが、敢えて人間を使って例えるならば一二歳程度の、子供を抜け切らない年の頃。

 間違いない。一目でわかった。彼女こそが、母に声を届けて自分をこの世界に喚んだ声の主だと。


 攻め方を迷う時間も最早無かった。効率だけを考えるなら、人間達が猿の様に腰を振ってる最中に殺すのが一番楽で確実だ。

 酔ってるとは言えども近くに武器を置いてる人間と、性行の為に衣服を脱ぎ捨てた人間のどちらが手強いかなんてわかり切ってる。

 だがそれでも、そんな選択肢を選べる筈が無い。

 助けを求める声はとても大きく聞こえて来る。なのに彼女は、震えながらも他の女性達を守る為にケダモノの前にたったのだ。


 ケダモノ達はそんな彼女に情欲の目を向けていた。

 先程手に入れたばかりの槍を握り、振りかぶる。狙うは先頭に立ってる下っ端では無く、選んだ女を自分の元に連れて来させようとして居る襲撃者達のリーダーだ。

 思い切りぶん投げた槍が、まるで矢の如く飛ぶ。

 急所に当てるなんて器用な真似は出来ないが故に大雑把な狙いだが、それでも一応狙った襲撃者達のリーダーの身体に槍は突き刺さる。

 そしてその槍の勢いは突き刺さっただけに留まらず、その身体を吹き飛ばし、更には貫き通して大穴を開け、襲撃者達のリーダーを絶命させた。




名称 不明

種族 魔王

年齢 0(?)

髪色 黒 瞳 黒


レベル 1→3

生命力 60→80

魔力  70→110


STR 35→45(+3)

INT   65→79(+3)

DEX   45→57(+3)

VIT  40→50(+3)

MND  55→67(+3)


戦闘技能

武器類取扱(低)

魔術技能

魔力操作(高) 強化魔術(高) 幻想魔術(中) 治癒魔術(中)

他技能

感知(中)

ギフト

『貯金』魔王銀行を何時でも何処でもご利用になれます

現在貯金額11.357G


所持品

先端の折れた剣

魔王の服(防御力小、清潔、自動修復付与)

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