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25 魔王vs魔王(前編)


「いいね。反抗的な態度の弟も嫌いじゃ無いよ。……でもそれは、実力が伴ってたらの話さ!」

 言葉と共に姉の姿が消え、一瞬で我が前に現れた。

 そして同時に繰り出される拳。


 文字通り一瞬で間合いを潰された為、反応が後れてその拳は恐らく受け止め切れないだろう。

 回避ならば可能かも知れないが確実に体勢を崩し、直後にこの拳よりももっとキツイ追撃が来る。

 故に防御は諦めた。

 我は額に高めていた魔力を集め、迫り来るその拳に対して思い切り頭突く。

 ゴッと、インパクトの瞬間辺りの空気が音を立てて弾け飛んだ。


 並の魔族なら其れだけで即死しそうな衝撃が頭の中を突き抜けて行くが、我は魔王である。プライドに賭けて、この程度で地に膝は突けない。

 我の受け方が余程意外だったのか、我の力量ではその拳を受け切れないと思っていたのか、虚を突かれた様に目を見開いた姉の頬に思い切り拳を叩き込む。

 拳が顔にまともに入り、姉の身体が吹っ飛んで行く。


 だが残念だ。やはり直前に頭部に受けた衝撃が大きかったせいで、魔力をまともに込めれなかった。

 あれでは碌なダメージにはならないだろう。

 初撃のやり取りは四対六で姉の勝ちと認めよう。


「だがまあ、ハっハっハ! 鼻から血を流しながらでは、見下ろす顔も様にならんなぁ。我が姉よ」

 一矢は報いてやったし、戦いはまだまだ此れからだ。

 我の挑発の言葉に置き上がった姉は鼻から流れる血を拭い、血の付いた手をしげしげと眺めると、不意に凄絶な笑みを浮かべる。


「良いよ良いよ。我が弟ぉ! 口付けしてやりたい位に愛しいよ! さあもっとアゲて行くよ。もっともっと楽しもうじゃないか」

 姉の魔力が膨れ上がった。

 けれど口付けは勘弁願おう。我も姉に愛しさは感じるが、それはそういう類の物では無いのだ。

 しかしである。

 間違いなくこの姉こそが、北西に在る魔族領の魔王だろうとは思うのだが、


「一体汝の何処が穏健派なのだ」

 評判に偽りがあり過ぎだろう。

 嬉々として戦闘をしながら愛情表現を交えてくる様なこの姉が、穏健派魔王等と呼ばれる訳が無い。

 踏み込んで間合いを潰して来た姉の対応をする為に、一先ず疑問はさて置こう。




 左右のパンチからのハイキック。

 流れる様な連続攻撃だが、その一撃一撃に先程よりも強い魔力が籠っていた。

 真っ当に受けるにはどう考えても出力が足りない。

 我も姉も四肢に、そして肉体に魔力を宿して殴り合いを行っている。此れは即ち強化魔術の使用だ。


 だがこの強化魔術には真っ当な強化の仕方では限度があり、肉体の強度に対してあまりに過度の魔力を注いで出力を上げようとすると内側から爆ぜてしまう。

 これでも幾らかの加減はしているのだろうが、真っ当な強化魔術で今の姉と同じ出力を出そうとすれば我の手足は間違いなく爆ぜる。

 矢張り長年この世界で魔王として活動して来た姉とは基礎スペックが、もっと具体的に言えばレベルが違い過ぎだった。


 故に我は真っ当な強化では無く、余程熟練しない限りは配下の者達にも教える心算の無い裏技を使って対抗する。

 裏技を用いて姉と同等の出力を得た腕で左右のパンチを捌き、次いで繰り出されたハイキックに肘をぶつけて撃ち落とす。

 姉の顔が苦痛に歪むが、しかし歯を食いしばり、間髪入れず次はアッパー気味に拳を振り上げた。

 我は腕を十字にクロスしてその拳を受け止めたが、其れでも身体が地を離れ宙を舞い、十メートル程を吹き飛ばされる。


「おかしいね。限界を超えた身体強化で爆ぜそうになる肉体を、同量以上の魔力を硬化にも回して無理矢理抑え込んで、更に内側は治癒魔術の応用で肉体に同化させた魔力で繋ぎ合わせてる。……理屈はわかるけどそんなの魔力消費は倍どころじゃない」

 吹き飛ばされはしたが、ダメージを負わずに攻撃を切り抜けた我を見て、姉は腕を組んで訝し気に呟く。

 うむ、拳を交えた時にも少し思ったが、姉の身体つきは豊かだ。腕を組むとそれがより強調されるな。


 しかし見ただけで我が何をしているのかを見抜くなんて、異常である。

 確かに我も相手の魔力は視認出来る。

 だから四肢に込められた魔力を見れば、強化の程度は予測出来るが、多重に魔術を使用しているのにその内実を正確に見抜くなんて真似は不可能だ。


 格闘はガルの物真似に過ぎない素人の我とまともに殴り合いが成立する事から予想は付いていたが、姉は術師系の魔王なのだろう。

 良く見れば、我を観察する姉の瞳は時折チラチラと光を放って瞬いている。

 此れは一つ、試してみる必要がありそうだ。


「普通ならあっと言う間に魔力が枯渇する筈なのに、君の内包魔力に変化は無い。不思議だね。まるで弟君は『汲めども尽きぬ無限の魔力の泉』でも持ってるかの様だ」

 ……姉の推察はかなり正解に近い。

 だが『汲めども尽きぬ無限の魔力の泉』は初代の魔王が所持していた伝説のギフトである。

 我の膨大な魔力を増やしながら貯蓄する『貯金』の能力とは性質が違う。

 初代魔王はその無限の魔力故に初代勇者との戦いに勝利し、そして諸共に死んだ。

 一緒にされるのは光栄でもあり、不快でもあった。


「似た様な物だがほんの少しだけ違うな。我に無限の力は無い。だが考察は其処までだ。我のギフトを暴こうとするなら、姉のギフトも暴かせて貰おう」



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