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18 帰還、そしてひと時の休息


 魔物領での異変、スタンピードの原因を解決して村に戻った我とガルだったが、帰還した村は見知らぬ魔族達で溢れていた。

 スタンピードに備えて避難して来た他の隠れ里の魔族達である。

 彼等が元の生活に戻る為にも詳細な状況説明は必須であったのだが、我は事件が解決した事だけをサーガやとワケット等、纏め役の連中に伝えると大急ぎで魔術で巨大鉢植えを作成して持ち帰った種子を植え、そして寝込んだ。


 理由は疲労と、次に急激な成長のせいだった。

 魔物領内でも休息は取っていたが、ガルと交互に周囲を警戒しながらの睡眠では、連続した戦いの疲労は身体から抜けなかったのだ。

 その後丸一日程睡眠を取り続け、目覚めはしたのだが、今度は身体が痛くて動けない。

 何と魔力を動かす事にさえ痛みを感じる。


 完全に急成長による弊害が体調に現れていた。

 レベルが上がればステータス、能力値は向上するが、その上がり方は訓練等での上昇に比べればあまりに急だ。

 それでも普通に魔物を狩ってレベルを上昇させる程度なら、成長した肉体の操作感覚も追いつくし、急成長による軋みを感じる程度で済む。

 だが今回の我々は、魔物領に籠って二人掛かりで格上の魔物を倒して喰らい、短期間で急成長を繰り返した。

 碌な休息無しにである。


 魔力の成長一つにしても、我の中にある魔力を溜めておける枠を、急に四倍以上に拡張したのだ。

 そんなの痛みを感じて当然と言うより、魔力の操作で痛みを感じる程度で済んだのなら恩の字であろう。

 肉体的にも同じ事だった。

 急成長し、それでも次の敵を倒してまた成長し、を繰り返して戦い続けて肉体に無理を強いたので、漸く本格的な休みを取って気が緩んだ後に反動が出たのだ。


 まあ理屈はわかるし、一時的な物であるのもわかっているが、我は別に痛いのが好きでは無いので決して嬉しくは無い。

 目が覚めさえすれば、口は動くので周囲に魔物領での出来事や、動けぬ我の状態の説明は出来た。

 大層心配されたが、別に一時的な物だし、命に別状もないので大した事では無いのだ。痛みは本当に激しいが。

 鉢植えの世話はサーガが水やりをしていてくれた様なので、継続と、魔力操作の修練を行う者が居れば高めた魔力を鉢植えに注ぐ様指示をする。


 眠りに付く前に、無理にでも鉢植えを作成したのは、当然グランワームと同じ愚を冒さぬ為だ。

 巨大鉢植えは幅が三メートル程もあるので本当に巨大な代物で、我が目覚めて動けるようになるまでは誰も動かせないので常に視界内にあった。

 故に村民が魔力操作の訓練で鉢植えに魔力を注ぐ時に、少しばかりのアドバイスも出来る。

 此れは動けぬ間の暇潰しには丁度良い。


 ワケットは今後の事を相談したい様子だったが、それはもう暫く待って貰う。

 恐らく他の隠れ里の魔族達が、今回の件で此れからの生活に不安を感じたのだ。

 下級の魔物達は人間領に雪崩れ込み、人間にかなりの損害を与えた様子だし、其れよりも高い実力を持った魔物も一部は中立地域に出て来たままらしい。

 そんな状況で、魔物領に乗り込んで異変の原因を取り除いた魔王が傍に居たなら、まあ縋りたくなるのは当然だろう。


 しかし其れも動けるようになってからの話であった。

 今回、我が立てた功績は、力に依って成した物だ。にも拘らずその力を満足に振るえぬ姿を衆目に晒すのは、決して良い結果を生みはしない。

 ワケットも其れは理解しているらしく、今の所は状況の報告程度しかして来なかった。

 我を魔王として頭に抱くのか、或いは隠れ里が連合する共和制を取りたがるのか、どちらにせよ彼等の生活は大きく変化するだろう。


 勿論それは我や、此処の村民の女達とて同様だ。

 どちらにせよ要塞を一つはこさえねばなるまい。魔物や人間達に、此れより以北は魔族の領土と示し、点在する隠れ里を攻めさせない為の砦が。

 だが取り敢えず、今はもうひと眠りするとしよう。





 チャプと、水に布を付ける音がしたので目を覚ますと、

「起こしてしまいましたか。すいません、アシール様。身体をお拭きしようと思ったのですが……」

 其処に居たのはサーガである。


 頷けば、彼女の手で身体を起こされた。

 我と比すれば細い腕と小さな手だが、サーガも魔族の一員で、更には強化魔術まで嗜むのだから此れ位は容易い様だ。

 ……実の所、我が魔界より着て来た唯一の品であるあの服は、自動修復と清潔の力を秘める為、アレを着てさえいれば肉体の清潔さは保たれる。

 サーガも其れは知る筈だが、其れでもしたいと言うならさせて置く。


 恐らく何かをしたいのだろう。

 今の我は病人と似た様な物だ。そしてそうなる前も、魔物領に行ってる間に多大な心配もかけている。

 介護をする事で彼女の気が済むのなら、其れ位は甘んじて受けよう。


「今日は村の様子は如何であった?」

 沈黙したまま介護を受けるのは、流石の我でも些か気恥ずかしいので問うてみる。

 我の言葉にサーガはホンの少し考えた後に答えた。


「大きな問題は起きて居ません。ワケットさんが運んでくださる物資も豊富で、避難者方々からも不満は少ないようです。……あ、あと、マーシャがアシール様とガルさんのお見舞いをしたがっています」

 成る程、小さな問題は起きていて、少しの不満は見えていると。

 あまり寝込んでも居られない様だ。

 もう少し痛みが引けば、少しずつでも動いてみよう。


「見舞は構わんが、そうだな。先にガルの所に連れて行け。その後でなら別に構わぬ」

 幼いマーシャは、先に見舞いに行くガルに恐らく飛びつくだろう。

 そして其処で心配やら何やらを発散して来てくれれば、次に来る我に対しては落ち着きを持って、飛びついたりせずに接してくれるはずだ。

 恐らく、きっと!




 その後も他愛ない雑談をしている間に、身体は拭かれ終わり、再び服が着せられる。


「サーガよ、すまんが手を貸してくれ。我が手を取って、汝の頭に置くのだ」

 布と水を片付けたサーガに声を掛けると、彼女は不思議そうに首を傾げながらも言われたとおりに我の手を取る。

 痛みが走らぬ様、慎重に我の手を自分の頭の上に置くサーガ。

 我の行動が理解出来ていない表情を見るに、恐らく魔術を行使するとでも思って居るのだろう。


 しかし、違うのだ。

 彼女の頭の上に置かれた手を動かし、くしゃりと撫でた。

 鋭い痛みが腕を走るが、表情は動かさない。


「我の居ぬ間、良くぞ村を纏めてくれたな。礼を言う。汝が居るからこそ、我は今回の異変解決に赴けた」

 ゆっくりとだが、確実に手を止めずに撫で続ける。

 此れは紛れも無い本音だった。

 ワケットは出来る奴だが、我が臣では無い。最近の様子を見るに、そうなるのは遠い事では無さそうだが、少なくとも今は違う。

 そしてそうで無くとも、我が一番信頼を置ける臣はサーガなのだ。


 ……ガルは戦友なのでちょっと別枠扱いである。

 まあ其れを含めたとしても、矢張り我を支えてくれる者と言えば一番にサーガの名前をあげるだろう。

 故に、故にだ。我は彼女に重責を負わせていた。

 村にもサーガより年嵩の者は多い。寧ろ彼女は若年者だ。

 村民の間では、前村長の娘としても、我の側近としても信頼を受けている。


 だが村にやって来た多数の避難民からすれば、何故あんな若年者が責任者面をとなっただろう。

 我が傍に居れば、彼女への信頼を態度で示してそんな声は黙らせれた。

 けれど今回、遠い魔物領に居たのだ。彼女一人に重圧を背負わせて。


「はい、アシール様のお役に立てて、私は、私は……」

 サーガの頬を涙が伝う。

 その涙を拭う事は、今の我には出来ない。

 だって手が動かないのだ。正直もう腕は、とうに限界を迎えていた。

 でも、それでも、今後はサーガを泣かさぬように努力せねばなるまい。

 避難民を纏め上げ、彼女が我が側近であると知らしめ、後は良く話を聞いて、たまにはこんな風に撫でてもやろう。

 我は彼女の魔王であるのだから。



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