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13 魔物領浅層


 ギャアギャアと五月蠅く喚く巨大怪鳥が空中で大きく旋回し、嘴を向けて突っ込んで来る。

 開いた翼の幅は、四、五メートル位はある巨大怪鳥。

 こんなのが当たり前の様に生息しているなんて、やはり魔物領は危険地帯なのだろう。


 まあまだこの程度なら何とかなるが……。

 我は重メイスを両手で持ち、身をねじって構えを取る。

 加速して勢いを増す巨大怪鳥をじっと見据え、


「ガル!」

 我は戦友の名を呼んだ。

 次の瞬間、宙を黒い姿が舞う。

 吶喊してくる巨大怪鳥よりも尚速く、木々を足場に飛んだ狼姿のガルの爪が、敵の翼を切り裂いた。


 思わぬ攻撃に体勢を崩し、左右の翼のバランスを失って錐揉み状に回転する巨大怪鳥だが、一度ついた勢いは止まらない。

 そして待ち構えていた我は、打ち頃の勢いに減じた巨大怪鳥の頭を、思い切りメイスで打ち返す。

 グシャリと肉の潰れる音と共に、血飛沫が辺りを朱に染める。





 己や魔族の女達のレベルを上昇させる為の遠征を中断して村へと帰還した一週間後、我はガルのみを引き連れて中立地域に最も近い魔物領の一つに侵入していた。

 目的は勿論、魔物領で起きた異変の調査と、叶うのならばその解決。


 村に戻って大急ぎで連絡を取ったワケット、行商人の長との協議を行ったが、魔物領から魔物が溢れた出した場合、下級種は恐らく人間領へと向かうだろうと奴は言う。

 北の魔族よりも西と東の人間の方が弱くて数も多いのだから、魔物が餌を求めるのなら人間領へと向かうのが当然だと。

 だがそれは下級種のみの話である。

 己に自信を持ち、なのに魔物領を逃げ出さざる得なかった中、上級種は、何方に動くか動きが読めない。


 ワケット曰く、人間が魔物の暴走で痛手を負うのは構わないのだそうだ。

 人間が痛手を負えば、奴等の必要とする物資は増え、其れを提供すれば引き換えに得られる対価も増えるのだとか。

 此れは言い換えれば、ワケットは魔物の暴走程度では人間は痛手程度の被害しか負わないとの確信があると言う事だが、まあ何故そう思うのかは何れ詳しく聞かせてくれれば良いだろう。

 一方同胞たる魔族がこの中立地域北部で生活出来ない被害を負うのは心情的にも、そして実利的にも困るらしい。

 ワケット等は中立地域の魔族達と取引する名目で、魔族領から物資を運び出したりしているからだ。


 故にワケットは点在する隠れ里に連絡を取り、スタンピードが発生した場合の被害を訴えて、更に避難場所として我が村の使用を求めた。

 あの村は位置的にも集まり易く、我が魔術で造り出した土壁の防壁で覆われている為に、避難場所としては適している。

 連絡や必要な物資の手配を手早くこなして見せたワケットは、その上で我に頭を下げた。それも地に伏して。

 異変の調査と、叶うのならばその解決をと。


 スタンピードは隠れ里から集めた魔族の中から戦える者と、金の力で兵を集めればワケットでも対処が可能だ。

 けれどスタンピードを起こしかねないほどの異変の原因を放置すれば、最悪の場合中立地域全てが魔物領となる事だって考え得る。

 そんな大きな問題に対処が可能なのは、確かにこの辺りでは魔王たる我しか居ないだろう。




 だがその話を聞いた時、我は一度その願いを退けた。

 当然だ。我が村に、同胞たる魔族とは言えど、未だ我が民とならざる者達が大量にやって来る。

 其れも普段の生活を捨てて避難民としてだ。避難生活の不安不平不満はその胸の裡に燻っている筈。

 我が居れば何とでもなる問題なので、村の使用は構わない。同胞を救う為なら、資材や物資も放出しよう。


 しかし我が村を離れてしまえば、村民は女ばかり。魔物領への侵入を果たすなら、ガルを供とするのは外せない。

 抑止力となる戦力が全て村を離れれば、間違いが起きる可能性は充分にある。

 我にとって最も優先すべきは我が民の安全だ。


 けれども、ならばとワケットは言った。

 更に金を出し、魔族領で優秀で質の高い護衛を雇い、避難民や兵等が無体をせぬ抑止とすると。

 ワケットめが全責任を持って、その首に賭けて、村民の安全を守ると言い切ったのだ。


 何が奴に其処まで言わせるのかはわからない。

 中立地域という商売の場が大事なのか、或いは裏で人間と取引する為に名目として使っていた中立地域の魔族に負い目を感じているのか。

 人としての奴の性情を詳しく知る程、未だ付き合いは長くないのだ。だが商人としての奴の仕事が信用出来る事は知っている。

 やって見せると言うのなら、ワケットはやるだろう。


 足しにせよと取り出した金塊一つをワケットの懐に捩じ込み、我はガルを伴い魔物領へとやって来た。

 サーガも供について来る事を願い出たが、今回は三つの理由で自重させる。

 一つ、混乱が多く予想される状況で、我に代わって村を統括出来る彼女を連れて行く選択は無い。

 二つ、我の他に唯一の治癒術の使い手である事も、村に残って欲しい理由だ。

 そして三つ目は、矢張りあまりに危険が過ぎるから。




 王鱗のグランワーム。其れが今回の目的地である魔物領の支配者だ。

 超が付く程の高位種の魔物であり、正直此奴が異変の原因だった場合は我にも手の施しようが無い。

 少しうろ覚えになるが、魔界で母より様々な魔物について学んだ時に教えられたグランワームの平均的なステータスは、大雑把だがこんな感じだった。



生命力 12000

魔力  3000


STR 4000

INT   800

DEX   100

VIT  8000

MND  200



 竜頭蛇身の魔物で、身体の幅は四メートル程、長さは一キロメートルをこえるとされ、竜種にも引けを取らない化け物である。

 こんなのが居る場所に、サーガを連れて行けよう筈が無いだろう。

 我が此奴に勝るのは、魔王銀行に溜め込んだ魔力の量のみだ。

 しかし其れも溜め込んだ量の話で、一度に扱える魔力量で考えれば大きく劣る。

 真っ当にやり合っても、そして真っ当にやり合わなくても、今の我に勝ち目なんぞは欠片も無い。


 今回の魔物領を訪れて成すべきは、このグランワームとの対話であった。

 グランワームは魔族と比しても驚く程に長命だが、その代わりに一年の殆どを寝て過ごす。

 つまり今回の異変がグランワームの睡眠中に起きたのならば、支配者たる彼を起こして解決させるのが一番早い。


 起きてる最中に起きた異変ならば、このグランワームでさえ解決出来なかった異変であるので、我も解決は諦める。

 勿論グランワーム自身が異変の原因であった場合も同じ事。

 故に主な目的は異変の調査で、叶うのならばその解決となっているのだ。


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