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1 降臨


「母様、流石に此れはなかろうよ……」

 未だ熱の残る焼け爛れた村の跡地、この世界での一歩目を踏み出す記念すべき場所としては些か以上に荒廃した地で、己のステータスを確認しながら我は母に向かっての愚痴を零す。

 と言ってもこの愚痴が母に届こう筈は無い。


 何故なら我が母は神、其れも魔族の崇める神であるが故に、その居場所は此処とは違う世界、魔界の奥深くであるからだ。

 神を母に持つ我も当然唯人では無く、この世界では降臨魔族、或いは魔王と呼ばれる存在である。

 まあそれでも魔界から降臨したてでは、幾ら魔王といえどもラスボスには程遠い能力しか持たない。

 精々が、魔界で母が嵌ってた異世界文化のゲーム風に言う所の、1番目か2番目のダンジョンのボス程度の強さだ。

 村人や駆け出し冒険者が相手ならある程度の数にも無双出来るだろうが、腕の立つ戦士や魔術師やらがパーティを組んでたりすれば成す術も無くやられるだろう。

 とても微妙な感じである。


 しかしそんな微妙な実力のままに送り出せば、折角の貴重な魔王が降臨した途端に片っ端から狩られる羽目にもなりかねない。

 故に魔王はこの世界に降りてくる際に、母から一つ固有能力を贈り物として貰う。

 其れはギフトと呼ばれ、その魔王を象徴する能力となる。

 ハイ、まあつまり我が母に対して愚痴っていたのは、そのギフトの内容が酷かったからなのだ。

 そのギフトとは、『貯金:魔王銀行を何時でも何処でもご利用になれます』というものだった。

 なんやねん魔王銀行って。

 ギフトの中身は降りてからのお楽しみって言われたから割と本気で楽しみにしてたのに……。


 まあ実は銀行って言葉自体はわかるのだ。

 先も言ったように、母が嵌ってた異世界文化のゲームに出て来た、金を預けておけば全滅しても所持金と違って半額没収されないシステムの事である。

 だが我の命は一つしかないので、ゲームの勇者の様に死んで所持金が半額になって生き返れる訳じゃ無いので恩恵は皆無だった。

 いや件の異世界文化の娯楽の中でも、一見大した事の無い能力が実は凄かったってパターンが母のお気に入りだった様なので、もしかすれば所持金半額の生き返りも含めて『貯金』の能力なのかも知れないが、流石に試してみる勇気は我には無い。


 其れに降臨したばかりの我は現在文無しなので、実際に能力を使用してみる事も出来やしなかった。

 金を探そうにも此処は人間の襲撃によって滅びたばかりの魔族の村だ。

 金目の物が残ってる事は期待出来ないし、我にはあまり時間も無い。

 何せ無残な骸を晒す同胞達の弔いをする時間さえ、今の我には惜しまねばならない事情があった。




 降臨魔族、魔王は魔族の神たる母によってこの世界に送られる。

 けれど其れは無作為や母の気分で決まる訳では無く、魔族の中でも神官や巫女の素質を持つ、魔族の神に声を届かせられる存在の願いや助けを求める声に応じる形で送られるのだ。


 我の場合も違いは無い。

 助けを求める声に応じてこの世界にやって来たが、辿り着いた時には既にこの村は廃墟となっていた。

 しかし助けを求める声は未だに途絶えておらず、今もその声の主は少しずつ遠ざかって行っている。


 村に転がる骸は、焼け焦げて判別の付かない物も多いが、その多くが成人してるであろう男性だ。

 つまり魔界にまで声を届かせた者も含めて、女性や子供の多くは、村を襲撃した人間に連れ去られている最中であるとの予測が出来た。

 態々手間をかけて連れ去ろうとしているのだからには奴隷として売る心算の筈で、すぐさま殺される事は恐らく無いだろうが、人間は自分より弱い立場の者に対してはとても残虐な生き物だと聞いている。

 特に村の襲撃に成功して気が大きくなっているであろう連中だ。その傾向はより一層強いだろう。


 急ぐ必要はある。

 例え村程度の規模とは言え、魔族の集まる集落を滅ぼした人間に対して、即戦力になるギフトを持たない1番目か2番目のダンジョンのボス程度の強さしか持たない我が身では些か分が悪かろうともだ。


「死せる同胞達よ。恨みはあろうが今暫くは迷わずに待つと良い。何、この魔王たる我が弔うのだ。少々遅れようが、恨みに迷いさえせねば必ず母の元に導いてやる」

 この言葉は、少しばかり強がりが混じるが、紛う事なき誓いである。

 魔族の口にする誓いの言葉は魔力を持つ。其れも魔王が、神たる母を文言に入れた誓いだ。


 目的を達成する為に、きっと力になってくれるだろう。無論、果たせなければ相応の罰を被る事にもなるだろうが……。

 まあその時はその時である。その時は、きっと罰が無かろうとも自分で自分を許せない。

 誓いを済ませ、村を出ようと踵を返したその時、不意に何かに躓いた。


 其れは恐らく価値無しと見逃されたのであろう、一体の骸の傍に落ちた、ボロボロに刃こぼれをして先の折れてしまった剣。

 まるで持って行けと言わんばかりのタイミングで見付けたその剣に、我は自分が武器を持っていなかった事を思い出す。


「すまんが借り受け……、いや、戴いて行く」

 持ち主であったろう骸に一礼し、剣を手に取る。

 ボロボロで、言っては悪いが切れ味に期待なんて到底出来ないであろうその剣だが、それでも武器があると無いでは大きく違う。

 では改めて、人間退治といってみよう。




名称 不明

種族 魔王

年齢 0(?)

髪色 黒 瞳 黒


レベル 1

生命力 60

魔力  70


STR 35(+3)

INT   65(+3)

DEX   45(+3)

VIT  40(+3)

MND  55(+3)


戦闘技能

武器類取扱(低)

魔術技能

魔力操作(高) 強化魔術(高) 幻想魔術(中) 治癒魔術(中)

他技能

感知(中)

ギフト

『貯金』魔王銀行を何時でも何処でもご利用になれます

現在貯金額0G


所持品

先端の折れた剣

魔王の服(防御力小、清潔、自動修復付与)



*

 一般的人間の村人のステータス平均は5。魔族の村人のステータス平均は10。

 ()内の+は誓いによる一時補正。


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