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サウザント・ナイト ~謎の異世界転移からの魔法使い生活~  作者: 黒姫双葉
第一章 魔女と魔法使いと異世界と
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トリスケルの模様

分かってはいたが、ミーアはかなりのスパルタである。



「うう……分かりましたよー。読むよ、読む」

「まったく」


受け取ろうとすると、スッと遠ざけられた。

あれ?と思い、ミーアちゃんを見ると、代わりに数枚の羊皮紙が手渡された。


「魔術と魔法の分類は、その道をある程度征かないと全体像の把握が難しいものですので」

「ミーアは、要はこの本全てみるのは難しいから要点だけまとめてあるこの資料を読んでおけ、と言っているのだ」

「姉さん……!」


珍しく……いやまだまだ付き合いは短いけれども、イメージ的に……ミールちゃんがミーアちゃんをからかった。

とはいえ、その眼は姉らしいぬくもりに満ちていたけれど。

なんだろうか、この二人には踏み込むことのできないレベルの絆があるような気がする。

――なんだろう。少しだけ、寂しいかな。


「……あ、そういえばシルラーズさんいつ帰ってくるんだろ?」


つい本に読み入って忘れていた。

まあ、読み入っていたといっても、せいぜい三十分かそこらではあるのだけど。

どこかに顔を出す的なことを言っていたが……学院の長という立場上、いろいろ忙しい部分もあるのだろう。

俺のために時間を使わせてしまってなんか申し訳ない。


「さあな。あの人はかなりの自由人だ」

「ですが、本二冊渡したということは、これを読み終わるくらいでちょうど終わる用事なのでしょう」

「……計算ずくってこと?」

「ああ見えて頭はいいぞ。何せ魔術師だからな」

「え、魔法使いとか魔術師って勉強スキル必須なのか」


困った。

先ほども言ったが、勉強は苦手な部類なのだが。


「ご安心下さい。苦手でも私たちが好きにさせてあげますので」

「なにせ友達だからな」

「わーいうれしくて涙が出るなぁー!」


いい友達もって俺は幸せ者だよ!

――ま、本当にありがたいのも事実なんだけど。

生来の怠け者である俺は、誰かに見てもらわないと絶対だらけてしまうだろうから。


「魔法、か」


さて、俺のセカイで言う魔法は、呪文唱えて光が杖から出たり、いろんな土とか火とか、風とかでたり。

あるいは並行世界渡ったり時間フッ飛ばしたりと規格外の象徴だったけど、このセカイではどういった括りなのだろうな。

それもまあ、ミーアちゃんにまとめてもらったこれを見ればわかるだろうか。


「というかいつの間に纏めたんだ?」

「先ほど絵本を読んでいる間に」

「――速すぎでしょ……」

「ミーアの事務処理能力はかなり高いぞ。私の分までやってくれるほどだ!」

「単純に姉さんの能力が低いだけです」

「ふふん!」

「ミールちゃんそれ威張ることじゃないぜ♪」


胸張ってはいけないことである。

事務処理……計算などが苦手である俺が言えることでもないけど。


「んー!それにしても肩が凝ったなぁ」


絵本とはいえ、文も多いものだ。

ずっと身を入れて呼んでいたため、少々身体が固まってしまったらしい。

ぐいっと伸びをして、身体を伸ばすと、ぽきっと軽い音がした。


「親父臭いです」

「ごふっ……?!」


気持ちよく伸びていると、いきなりの痛烈な一撃が正面から飛んできた。

親父……くさい……。


「中身が男なことを実感させるな、これは」

「仕方ないだろ!男なんだもん!こんな見た目でもきちんと男だもん!」

「そう涙ぐむと女の子にしか見えませんけどね」

「やめろよー!」


腕をくるくる回しながら二人に襲い掛かるふりをする。

ちなみに、それ以上からかうと本気で泣きます。

男の子のメンタルは意外と弱いのだ。

簡単なことでぽっきりと折れてしまうほどなのだ……。


「いてて……腕振り回したらまた痛くなってきた」

「まったく……一応お前は怪我人だという認識を持て」

「怪我したっていう認識ないからなかなかなー……あれ。よく見るとなんか刺青みたいなものがあるぞ……?」


またもや筋肉痛のような痛みが襲ってきた腕を、服の裾を捲ってさすっていると、それが見えた。

それがあるのは左腕の手の甲あたりからだ。

見た感じ……茨を模した、黒い刺青のようだが……それが、腕全体、服の陰に隠れるまで見えていた。

どこまで続いているのかと、辿ってみる。

限界まで腕まくりしてみるが、まだ途切れない。

――うむむ。なるほど。

今度は腕だけを服から出してみるが、肩から体の内側の方へとさらに伸びているのが確認できた。

…………ほう。


「―――まじかぁ……」

「本当だ、刺青があるな」

「元からあるのものではないですよね」

「ああ、刺青なんて入れたことない。……あの、ところでお二方。ちょっと頼みがあるのですが?」

「……?何でしょうか?」

「この先っぽがさ、どこまで続いているのか、見てくれない?」


ピッと刺青を指さす。

この先は俺じゃ辿れない理由があるのだ。


「自分で見ればいいじゃないか。見た感じ、背中までは回っていないだろう?」

「……ああ、そういうことですか。姉さん、マツリは自分の身体を見るのが恥ずかしいのです」

「―――ん?……ああ、そういうことか!」

「……お願いします…………」


ミーアちゃんの言う通り。

たしかに、これは自分の身体なれど、今までの俺の慣れ親しんだ体とは違うもの。

……心の準備無しでは見れないなあ……!


「まあ、そういうことなら仕方ないな」

「ええ。……少しくらい、手が滑っても仕方ないですよね?」

「ちょっとミーアちゃん手の動きが怖いんですけど?!」


なにかを揉むような動きをしているのですが。

え、気のせいじゃないですよねそれ。

……というか、ミーアちゃんって結構……こう、百合な気があるような気がするんですけど?!


「では失礼します」

「は、はい!」



服をはだけて目を閉じる。

その状態で待っていると、細くしなやかな指が、俺の肌を這っていった。

うん……しっとりしていて、むしろこっちが気持ちいいくらいである。

刺青をなぞっていく指は、肩から二つに分かれた。

一つは首の近くを経由して、おれの心臓へ。

もう一つは、わき腹へと降りてから下腹部へ。

臍まで言った後にそちらも胸、心臓へと向かっていった。


「どちらも心臓へと向かっているか……」

「しかし、私たちでは詳しいことは分かりませんね」


顔を見合わせる双子。

すると、背後で都合よくシルラーズさんが扉を開けて帰ってきた。

煙草をふかした学院長は、何をしているんだ……という顔で俺たちを見ていたのだった。


「何をしているんだ……」


あ、顔でっていうか、普通に言葉でも言いましたね。


「ちょうどいいところに、学院長」

「この模様、何かわかるか?」

「ん?模様か……ッこれは!?」

「わっ、ちょ、痛いですよ?!」


ガッと腕を掴んで、模様をまじまじと見る学院長。

……目がかなり真剣だ。

この模様、何か問題でもあったのだろうか……?


「複雑なケルト紋様……三脚巴(トリスケル)の蔦模様か」

「ケ、ケルト紋様……?」


……なんだったか。

そう、ケルト紋様とは、古代ケルトで描かれた緻密な紋様だったはずだ。

掴まれたままの腕を見ると、たしかに刺青の形は三脚巴(トリスケル)の模様であった。


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