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サウザント・ナイト ~謎の異世界転移からの魔法使い生活~  作者: 黒姫双葉
第一章 魔女と魔法使いと異世界と
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背が…足りない


「それに該当するジャンルの本は、大体八十冊程度あるけれど」

「んー、結構多いな」


夢の種別に関してだ。

しかも、魔法使い限定。この時代感のセカイでは、夢に関しての学問なんてそうはないと思っていたのだけど。

そういう前提思考からすれば、八十冊というのは意外にも多く感じた。

……ああいや、そういえば、学問――中でも心理学に分類されるものこそは、近代になってから研究が始まったものだけど、夢”占い”などに関して言えば、人間は古代の時代から定義と解釈を繰り返していたのだったか。

古くはバビロニアの時代から、夢の解釈は進んでいたらしい。

たしか、十字教の福音書なんかも、いくつかは夢で見たものをもとにして書いているものがあった気がするなー。


「夢占い。呪いによる夢。福音の夢。予知夢、明晰夢と呼ばれるモノ。……いろいろあるけれど、貴方の探し物はどれに該当するの?」

「……呪いによる夢と、福音の夢に関しての本の場所、教えてもらえる?」

「……。ええ、喜んで」


紙を一枚取り出し、羽ペンで印をつけるフェネルちゃん。

終わった物を、スッと差し出された。

受け取って、見てみると、どうやらこの図書館の地図らしい。


「あげるわ」

「ほんと?助かるわー」


この図書館本当に広いので、なかなか探すのが大変なんだよね。

ジャンル分けも正直よくわかっていないし。

一応上に案内板は浮いているけど、少し大雑把過ぎて、あまりこの図書館に詳しくない俺には分かりづらかったりする。


「ありがとね。……何かあったら、手伝うよ」

「……。ええ」

「じゃ、また」

「……。……」


俺の言葉を理解すると、軽く頷いて、再び本を文章を追う作業に戻ったフェネルちゃん。


「いや、それにしても……」


地図に目を落とす。

その図書館の地図には、本が棚の何列目のどこの段に収納されているのかまで細かく記述されていた。

……全部把握しているってことだよなー、これ。

本の蔵書は数万冊はくだらないだろうに、それがどこにあるかをすべて覚えているなんて、ただものじゃない。

ましてや、本は貸し借りなどをしているわけで、必ず同じ場所にあるとも限らないのにね。

物凄い記憶力だ、俺も欲しい。

あったら勉強捗るよね!勉強とかほとんどしないけどね!

なにせ、一夜漬けでテストは生き残ってたタイプですので。


「んじゃまー、本の場所までレッツゴーって感じで」


脇に立てかけてある杖を忘れずに持ち、本の場所までの階段を上る。

図書館の階層こそは三階までしかないが、それはあくまでも大階層。

キャットウォークによって仕切られた小階層は無数にあるので、地図がないと探すどころか、辿り着くのすら困難だ。

……あらら?よく見てみると、なにか不思議な現象が発生していた。


「地図が動いてる……」


いや、正確には地図によって記された丸い印―――おそらく俺の現在地―――が、俺と一緒に移動していた。

……うーむ、なるほど。

この図書館内でのみ使えるナビということか。よく見ると、何か魔術が掛かっている。

魔導具なんだろうね、おそらくだけど。

こう見ると、本当に魔術は日常に馴染んでいるのだとわかる。

いやあ、便利便利。


「見た目は普通の羊皮紙なのに……どんな魔術なんだろうなぁ」


気になるけれど、俺は残念ながら……ながら?まあ、魔法使い。

魔術師にしかできないことはできないのだ。

代わりに魔法使いにしかできないこともあるし、バランスはとれているけどな。

そういえば、羊皮紙というものは意外にも高いらしいけど……この学院では普通に目にする。

まあ、同じくらいパピルスなんかも目にしてはいるけど、高価な羊皮紙も同じくらいに存在しているということは、この学院がお金持ちということなのだろうか。

……それとも、羊皮紙は意外にも普通に手に入るのかねー?

そのような時代背景に対しての理解が少ないため、疑問にしかならない。

これから羊皮紙なんかも使う機会増えるだろうし、あんまり高価じゃないといいけど。

何故値段の心配をって思うかもしれないが、ほら……魔法使いってなんか、羊皮紙に文字とか魔法陣とか書いているイメージあるじゃないですか。

だから、使うこともあるのかなって……まあ、まだいらない心配か。


「この図書館の本はほとんど羊皮紙製だけど。……まあ、当然か」


羊皮紙は、元のセカイ……というより、今の時代、の方が正確か。

まあ、そんなわけで、俺の生きていた時代で使われている一般的な紙よりもはるかに寿命が長いのだ。

一般的な紙の寿命が三百年ほどと言われているけれど、羊皮紙は八百年から、条件が善ければ千年以上もそのままであり続けるのだ。

自らの知識と秘術を後の世に残したがる魔術師、魔法使いという人種が、魔導書ではない唯の知識だとしても、長持ちするものに書き記すのは当然といえる。

ちなみにですが、日本発祥の紙である、和紙。

これも恐ろしく寿命が長い。羊皮紙と違い、ただの紙なのにね。

羊皮紙は正確には動物の皮を、筆記可能なよう加工したものだ。セルロース等の繊維質を絡めたものではないため……つまりは、厳密にはいうなれば紙ではない物質なのである。

それに比べて和紙は、製法から構成物質まで正真正銘の紙であるにもかかわらず、羊皮紙と同程度の寿命を持つ。

すごいよね、日本人。


「和紙とか作ってみれば、売れるかもしれない……」


商売とかも色々考えないといけないからなー。

自分の食い扶持は自分で稼がないと、飢え死にしてしまう。

……日本ではまだ俺の年齢だと被扶養者だけど、このセカイでは俺の保護者はいない。

自分でしっかり生きていかないといけないのだから、こういった、お金儲けの話もちゃんとしておかないと。


「と、お金の話はまた今度でいいや。まず本、本っと」


思考が脱線してしまうのは俺の悪い癖だったりする。

まあ稼ぐ方法も必須ではあるのだけどね。だが、もう目的の本棚にまでたどり着くことができたし、その話もここまでにしておこう。

手元の羊皮紙にもう一度目を落とす。


「ふむふむ、左から七番目ですか」


本棚のその場所を見てみると、確かに羊皮紙に書かれた通りの本の題名が。

本当に、よくここまで正確に詳しく覚えているものである。もはやその記憶力が魔法だよ。

魔法で記憶分野なんかも強化できるのかな。今度調べてみよう。

この図書館ならそう言った知識も得られるだろうし。……入り浸りそうだなー、となんとなく思った。

さて、では本を手に取るとするかなー。


「ほっ……むう……なん……!届か……ない……?!」


爪先立ちしても、指が本に掠りすらしなかった……。

……身長が足りていない。単純明快な理由である。

こんな所でこの身体の不便さを思い知るとは……平均からすればこの身体は小さい部類だしなぁ……。

男だった頃の身長が懐かしい。別にガタイはよくないけど、身長は人並みより少し高いくらいはあったので、こんな本棚で届かないなどという事態には陥らなかった。

今はミーアちゃんよりも背が低いからなぁ。少し前にも言った気がするけど……改めてその事実をかみしめた。

なるべくなら噛みしめたくなかったけどなー……。

ちなみにミールちゃんは背筋が常にまっすぐ伸びていることと、その性格も手伝って、実際の身長よりも高く思える。

双子だけあって、実際の身長はあまり変わらない筈だけどね。要は感じ方の問題。


「んー。脚立でも借りてくるかぁ」


足りない背の代わりを探さなければ。

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