双子の騎士
「わああああ!ストップストップ!」
「んな!なんだ貴様は!」
「斬り殺すのはまずいと思う!落ち着け、落ち着くんだ!」
「ええい、鬱陶しい!邪魔だ!」
「―――ゴフゥ……」
剣を抜いた手につかみかかり、なんとか止めようとするも、素人の俺は一瞬で腹にパンチを貰い、撃沈した。
……ああ、肉体的チートなんかも……もってはいなかったようです……。
ばたり、と俺は地面に倒れ伏した。
「あ……すまん……っじゃない!お前もこいつの仲間か?!えっと……き、斬ってくれるぅ!?」
「……もう、やめなさい!」
「あだっ……?!」
ゴス……鈍い音がして、蒼い髪の騎士が、赤い髪の騎士にぶん殴られていた。
この騎士様も女性だ。ちなみに髪型はツインテール。
……あれ、そうえいば顔立ちが随分と似通っている。
「姉さんはカッとなりやすすぎ。もっと落ち着きを持ちなさい」
「……う」
「あ、なるほど……姉妹か」
道理で似ているわけである。
ただ、なんかイメージがチグハグな姉妹だな、という印象を受けた。
赤い騎士……妹さんは、その赤い髪がもたらす活発なイメージとは対照的に、ひどく冷静な様子。
お姉さんとは正反対だ。
「君も、大丈夫?」
「ああ、まあ俺は問題ないよ。……そこの彼は分かんないけど」
商人の少年は、顔に一発貰っているようだ。
女性とはいえ騎士の一撃。
結構いたそうだが。
「……姉さんも悪いけど、あなたも悪い。カーミラ様を魔女呼ばわりするなんて……この街でやっていけると思うの?」
「うっわ底冷えするわあの目……」
冷静だが、怒っていることに変わりはないらしい。
少しばかり怒りが覚めて、怯えた表情にシフトし始めた少年の後ろから、おっさんがぬっと湧いて出た。
「……あー、すまんねぇ……その馬鹿は、ちっと魔法使いやら魔術師にいい印象抱いてないのよ」
「……フランダール様」
「お?おじさんの名前覚えてくれてんの~、うれしいじゃない」
「カーミラ様と親しくされている方の名前は一通り覚えております」
「流石親衛隊だねぇ。……つうことで、今回はおじさんの顔を立ててもらっていいかい?この馬鹿はこっちできつく叱っとくからよ」
「そうそう、こんないい年こいたおっさんが平謝りしてんだから、このあたりにしといてやんなって」
「おう、坊主の言う通りよ。……ところで、坊主、誰だ?」
「茉莉だぜ、よろしく」
「ほう、マツリか、よろしく」
がっちりと握手を交わす。
互いにニヤッと笑いながら。
「……フランダール様はカーミラ様と親交が深いお方。また、多数の行商人を束ねる行商人組合の重鎮。その立場を尊重し、今回は問題にしないでおきますが――二度目はありませんよ」
「当然よ。俺もカーミラ様にはよくしてもらってる以上、悪く言うのにはちぃ~っとばかしイラついてんのよ?」
「はっはっは、おっさん。それガチギレだろ。いやー、君、後が怖いぞ?」
「な、なんなんだよお前!」
「だからマツリだろ?」
「おうよ、茉莉だぜ」
―――再びおっさんと固い握手を交わした。
騎士二人と若い商人からの目が痛かった。
「ま、まあ若い少年よ!口は禍の元ってな。気をつけろよ?」
「お前も若いだろうが!」
「っふ……十七歳だ、俺は」
「俺は十九だよ!」
「うっそ俺年下だった?!」
驚愕の事実。
そういえば抱えられているから分かりづらいが、立てば俺より身長高いな。
ちなみにおっさんはもっとガタイが良い。
元軍人とか言われても違和感ないくらいだ。
「じゃあ、周りのお方の目も痛いんでな。おじさんはそろそろ失礼させてもらうよ」
「はい。お気を付けて。あとしっかり叱ってくださいね」
「……ふん」
「じゃあなー、おっさん。なんかあんたとはまた会いそうな気がするぜ」
「おう、俺もだぜ、マツリ」
「ちょ、頭取!放せ――!」
「ちょっとうるせぇ」
「あだあああーーーー?!」
「あらま、伸びてるわ」
やっぱおっさん荒っぽいことやってたんじゃないかな。
「……その、済まなかった……」
「うい?」
「殴ってすまなかった!」
「……お、おお」
両手を掴まれ、平謝りされる。
やばい、手袋越しとはいえ、美少女にこんなに強く両手を握られるの初めてだ俺。
そして顔が近い。すごく近い。
あたりそう――というか額に当たった。
「お……いってェ……」
「ああああああ済まない!!!!」
「……ふう。落ち着く、姉さん」
「あ、ああ」
妹さんがきっちり止めてくれたおかげで、これ以上の頭突き連打になることは免れた。
いや……なかなか痛かったぜ……。
「姉さんを止めてくれてありがとうございます。このままではまた懲罰で書類をかかねばならないところでした」
「またとか言うな!」
「一応姉さんはぎりぎりで一線は超えないのですが、結局懲罰は受けてしまうのです。もう何度も繰り返していて」
「や、やめろ……!?私のダメな過去をばらすのはやめろ!?」
「自身で言うように、ダメな姉を止めてくださり、ありがとうございます」
「うがーーー!!」
「妹さん、揺さぶられてますが大丈夫ですか……」
「問題ありません」
なんでサムズアップできるだけの余裕があるのか。
この子将来大物になりそうだな……。
それにしても、ぎりぎりで抑えられるなら、俺が出しゃばる必要なんてなかったわけか……。
「………ん、お前……異邦人か?」
「イエス!日本出身」
「お前のセカイの国などいわれても私たちにはわからん。……異邦の者、というからには、まずは金が必要だろう」
「だな。この林檎は好意でもらったもんだから、俺は無一文だぜ!」
「何故誇らしげに言うのかわかりません。さて、では無一文に文をくれてやることを我らの罪滅ぼしとしましょうか」
「ああ、そうだな。……おい、我が妹よ、さすがにその言い方はマツリに失礼なんじゃ」
「気のせいでは」
「…………んー、つまり?」
「えーとだな……察しろ!あれだ!あれ!」
「姉さんはお詫びといいたいそうですよ。ふふ、意地っ張りなので許してあげてください」
「誰が意地っ張りだ!」
妹さんと目を合わせる。
そして、そっと無言で姉さんを指さす。
「…………」
「…………」
「……お前ら……いい加減にしろーーー!!」
「わー(棒)」
「わーー!」
***
「どうぞ。粗茶ですが」
「あ、これはどうもご丁寧に」
「ここは私たち親衛騎士の詰め所だ。特に気負う理由もないしな、リラックスしてくれ」
「ではでは、お言葉に甘えて」
どうやら、双子であるらしい騎士の二人に連れられ、やってきたのは騎士詰め所であった。
石造りの、街の中にあって堅牢さを伺わせる建物。
広い庭は、丸太や藁の的人形など、訓練するための道具が置いてある。
「さて、まずは自己紹介しないとな。私は姉のミールだ」
「そして私が妹のミーアです」
「ミールちゃんでミーアちゃんだな、よろしく。俺は」
「マツリ、だろう。さっき聞いた」
「ええ。二度説明する必要はありませんよ。無駄ですし」
「ひでぇ……」
妹さんかなりどSじゃないですかね……。
「それにしても、異邦人か」
「別のセカイから、とは少々珍しいですね。だいたいは別の地域だというのに」
「……あれ?俺みたいなのって珍しくないのか?」
「この世では、神隠しなど不思議なものではありませんので。でも、別のセカイから来たあなたは少々珍しい部類ですよ」
「少々か……」
魔術、魔法が日常に浸透している世界……ということを思い出す。
浸透している、というだけで、科学が存在しないなんてことはないが、そうか。
俺のセカイとは違って、不可思議なことも実際に起こり得ることなんだもんな。
「完全な異邦人とすると、金を稼ぐための方法なんかも分からんわけだな」
「全く分かりません!」
「……手っ取り早いのは、臓器を売ることです。心臓なんか高く売れますよ?どうですか?」
「それ俺死ぬよね!」
ミーアちゃん腹黒すぎ!
「冗談です。現実的なものだと、定職に付けないものは、ギルドなどの依頼を受けるのが一般的でしょうか」
「ギルド?」
「ええ。あなたのセカイがどんなものなのかは分かりませんが、このセカイには危険な原生生物も、魔獣も居ますので。それを退治したり、街の住民たちの小さな依頼を叶えたりすることと引き換えに、金銭を得ることができるのです」
「それの仲介斡旋してくれるのが、ギルドっていうことか」
「ああ。ちょうどここに、一つ依頼があるんだが……受けてみるか?」
机の上に出されたものは、古びた羊皮紙に、難しい文字が描かれたもの。
「お、チュートリアルってやつだな!やるやるー」
「姉さん。それは私たちが請け負ったものでは」
「危険なんてほとんどないだろう?」
「……まあ、そうですね。では、最低限の装備だけ渡して……」
「あ、俺これ読めないから依頼の内容教えてもらってもいい?」
「――――……」
呆れた目でミーアちゃんとミールちゃん、双方から見られました。