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サウザント・ナイト ~謎の異世界転移からの魔法使い生活~  作者: 黒姫双葉
第一章 魔女と魔法使いと異世界と
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”永遠の書”

「……不老不死かぁ」

「ほう、あまり乗り気ではないのだな」

「あちらさんたちだって、かなり長く生きるじゃないですか?」


危険や事故にさえ巻き込まれなければ事実上の不老不死。

俗にいう生物学的不老不死というやつである。

―――それに、永遠に在り続ける物など存在しない、というのが俺の定義。

地球でその不老不死に該当するベニクラゲですら、無限に若返りをするわけではないのだから。

不老不死なんて、あまり信用できない。


「ああ、確かに彼らはほとんどの者に寿命がない。だが、死なないか、と言われれば答えは否なのだ」

「不老なだけ、ってことですね」

「うむ。あの千夜の魔女ですら、肉体は永遠ではなかったのだ―――精神は今もまだあるが」


魔導書は自らの秘奥を記したもの―――ということは、千夜の魔女は不老不死という万人が到達したがるそれに、辿り着いたということ……?

だとすれば、千夜の魔女は魔女、あるいは魔法使いとしても規格外の腕を持っているということになる。

とんでもない存在だったんだねぇ、千夜さん。


「だがまあ、魔術師には不老不死を求める輩が多くてね。中には千夜の魔女の”永遠の書”以外の不老不死を得るために、自分自身の研究命題にしているものもいる」

「なんでそんなに不老不死になりたがるんですか……」

「魔術師の深奥―――星の魔術師が辿り着いたとされる”万能の境地”に行くためには、人間では時間が足りないのだ。魔法使いはその特性から早死にするかとんでもなく長命か……だが、魔術師は基本的に普通の人間並みの寿命の持ち主しかいない。長くても三百年かそこらで死ぬ」

「人の一生三回分くらい生きてますね、三百年」


三百年生きることができても、まだ物足りないとは。

さすが人間、欲望の力はすごい。

こうしたい、ああしたいという気持ちからすべては生まれるので、俺はそういう欲望を全肯定するけどね!

三回分、にシルラーズさんはやや苦笑すると、


「はは……我々は欲望に忠実でな。三百年ぽっちでは全く足りんのだ。……君のように、長生きできれば別かもしれんがね。まったくもってうらやましいよ」

「長生き?」

「千夜の魔女によって妖精に近づいているのだ。その男受けしそうな体は、死なぬ限り永遠ものさ」

「そういう言い方やめてくださいませんでしょうかっ」


男受けって。

嫌われるよりは確かにましだけども。


「では、女受けといった方がいいかな」

「それはそれであれなようなー」

「……ふ、マツリ君―――今日の夜、うちに泊まっていかないかいたいいたい、いたいぞミーア」


俺のあごに手を掛けられ、こう……クイッとやられた。

あごクイ、というやつである。あれ、男女逆じゃない?

シルラーズさんは男じゃないので、イケメンというのはおかしい気がするけど―――とりあえずすごい美形なので、絵にはなりました。

ええ、心は動かされませんでしたけどね?

そして、その言葉を発した直後にミーアちゃんにわき腹を殴られていた。

ミーアちゃんの、白い手袋をした手が的確にシルラーズさんの肋骨の隙間を抉る……エグイぜ、ミーアちゃん。


「マツリさんは、男受けも女受けもしなくていいんです。……まったく、どちらに受けたとしても危なっかしくなるのが容易に想像できますから」

「え、なに?」


後半の方、言葉尻になるにつれて声の音量が下がってしまい、あまり聞き取れなかった。

やれやれ、といった呆れた雰囲気だけは伝わってきたけど、何かしたかな。


「なんでもありませんっ。……さあ、勉強に戻ってください」

「あ、うん。そですね。……まあ、魔導書については大体わかったんで、普通に魔法について教えてもらえますか?」

「いいだろう。私に分かる程度になるがな。私は魔術師だ、魔法について明るいわけではない」

「……それにしては詳しいような」


いや、単純にこの人の知識量が様々な方面に深く伸びているだけか。

凄い知識量ですよね。本当に。


「まあ、少しは勉強しているからな。君への依頼を、君がこなせるようになる程度には鍛えられるさ」

「さすが学院長ですね!」

「学院長の脳内は知識と変態性で構築されていますから」

「欠片も褒められている気がしないが、まあいい」


確実に褒められてはいない言葉を、たいして気にした様子もなく流すシルラーズさん。

図太いというのか、それとも気心知れた二人の距離感で、本音を普通に話せているだけなのか。

……これが本音っていうのもちょっとかわいそうじゃないかな、とは思う。

まあ、これが二人の距離ならば、アリなのかなー、とか。


「まあいい。基本的にはすでにミーアから聞いているな?」

「はい、魔術、或いは魔法の分類的なものは」

「では、そこから少しだけステップアップしたものを学んでもらおう。……まあ、既に夜は遅いため、簡単にできることだけだがな」


窓を見る。

……図書館を出た時はまだ夕焼け――茜色だったが、今はもう完全に日が沈んでしまっていた。

空には新月。神聖な雰囲気を感じさせるよね、ああいうものって。

元来月には不思議な力があるとよく言われているし、俺の感じるこの気分は、おかしいわけではないはずだ。

そういえば。

今更ながらに思ったが、月とか太陽とか、地球と同じなんだなぁ。

異世界というのならば、月が二つあったり太陽なんてものなかったり……そんな状態もあり得たわけだ。

地球と同じ環境なのは、ある意味ラッキーと言えるかもしれないね。


「はーい先生。まず何をやるんですかー!」

「初歩中の初歩。―――魔力を感じることからだ」


ああ、確かに。そう納得する。

俺は今、なんとなく魔力があるかなー?程度にしかわからないのが現状なのだ。

圧を少し感じるかな、くらい。

魔法を使うならば、魔力を感じられるようにならないと、そもそもの話にならないよね。

よし、ばっちこーい。


「―――で!どうすればいいですか!」

「うむ、元気だけはいいな。さて、マツリ君。君のセカイでは、魔術も魔法も縁遠いものだったのだな?」

「はい、俺の生活上では欠片も触れることはなかったですよー」


俺が知らないだけかもしれないけどね。

セカイには秘密が溢れているのです……たぶん。

地球にも、もしかしたら魔術とかあるのかもしれない。でも少なくとも、俺は魔術師の家系ではなかったし、不可思議な魔法よりは科学技術のほうがよく頼っていたと確実に言える。


「魔法も魔術もない世界から来た異邦人ならば、魔力自体感じたことがないだろう。……ふむ、ちょっと胸を出してみてくれるか」

「え……」

「今度は変なことはしない」

「……えー」

「本当だ、信じろ」


なんとなくミーアちゃんの気持ちがわかったような気がします。

……うーむ、なんか信用できない!


「ミーアからも言ってやってくれ」

「妥当な反応では?」

「……誓約書でも書けばいいかね」

「そこまでしなくていいですって」


分かりましたよ、信じますから。

そっと服の胸元のボタンを外す。そして、ちょっとだけはだけさせる。

フツリという、ボタンの外れる音……直後、ぽよーん、たゆーんという感じの擬音が溢れた気がした。

気のせいだろう、気のせいだよね。


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