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旅の再開


***





「さてさて、では私たちも旅の続きをすると致しましょうか」


ラインの黄金―――もとい、ライン達を見送った俺達は、グレミアの街を旅立とうとしていた。

馬車に買い込んだ食料を始めとした荷物を詰め、服を着替えて清潔な物へと変えて、そして魔法使いの帽子を被ればもう街を出る準備は万端だ。

元々長居するつもりはなかった街だからね、旅立ちはサクッと済ませてしまうに限る。愛着がわくのはいい事だけれど、全ての街に愛着を持っていたら、旅なんてできないもの。


「イブ姫様、今回は本当にありがとうございました」

「いえ。私たちは何もしていませんよ。ただ、彼女たちが呪われて、呪って、そして救われただけだった。それだけですから」


街の門、そこでグレミアの領主様が見送りに出てくれていた。とはいえ、だ。

十分に対価は貰った。これ以上にお礼を言われる必要はもうどこにもない。なので、微笑でグレミアの領主様の礼を流すと、静かに馬車の扉に手を掛けた。


「もう、呪いは何も残ってはいない。遺された黄金は、好きに使うがいい。もちろん、街のために使うことが前提だがね」

「ええ、ええ。当然ですとも………今回、私たち街の統治を行う者たちは何も出来ませんでしたからな」

「未知なる呪い、不可思議な現象、それも類まれなる強固なる呪いに蝕まれたとなれば仕方あるまいよ。では、グレミアの領主殿、この先もカーヴィラの街とより良い関係であることを期待する。別に、強制しているわけではないがね、単純に知り合いと事を構えたくないというだけのことさ」

「シルラーズ。それは脅迫に近いものになってしまっていますよ」

「………本当にそんなつもりはないのだが。まあいいさ、気にしないでくれ」


馬車に乗り込むと、シルラーズさんも隣に乗り込む。

そして、最後に護衛であるミールちゃんが馬車に乗ると、馬車を引く馬に鞭が打たれ、嘶きが響いた。

さて。車窓から流れる景色に一瞬目をやりつつ、一拍おくと眼の前に座る女の子に対して問いかけた。


「レクラム、どうして馬車に?」


丸めた魔法の絨毯と共に、俺達と同じ馬車に乗っているのはレクラムちゃんだ。

ちなみに魔法の絨毯は丸めていても飛ぶこと自体は出来るので、椅子代わりに座って宙を浮いて移動する、とかもできる。狭い場所では有効だけれど、あの魔法の絨毯自体あんまり人目の着くところで使うべき品ではない気もする。

まあ、それはさておき。


「カーヴィラの街に移動することにした。だがこの足では旅も億劫だ、故に馬車を借り受けた」

「つまり乗合ですね。そうですか、カーヴィラに………ふむ」


秘術、より広義に言えば神秘を伝導することが己の役割であるとするレクラムちゃんのことだ、ただ無為に気が向いたからという理由でカーヴィラの街に行く―――移り住むわけではないだろう。


「シルラーズ。貴女の手引きね?」

「ああ、そうとも。アストラル学院は割と一般事務に携わる職員が少なくてね。文字の起こしや代書、代筆。そう言ったことを行える人間があまりいないのさ」

「神秘の塊ともいえるアストラル学院だ、魔術や魔法を良く分からないものと認識している一般人には近寄りがたいのだろうな。神秘が専攻の私にとっては関係などないが」

「という事でレクラムは我が校にとって貴重な人材という訳だ。故にスカウトした。暫くは図書館辺りで仕事をしてもらうと思うが、手配が整い次第専用の仕事部屋を与えよう」

「………助かる、シルラーズ学院長」

「気にするな。頭の回る人間は多いほうが良いからね」


レクラムちゃん、確かにかなり頭がいいし情報の使い方を理解している。

文字も書けるし読める―――識字率の低いこの世界では、間違いなく貴重な人材であり、高度な教育機関の長であるシルラーズさんからしてみれば喉から手が出るほど欲しい人なんだろう。

俺としても、折角仲良くなった子といつでも会える距離に居られるというのは悪い事じゃない。別れは旅の醍醐味だけれど、いつも別ればかりでは寂しいから。

でも、どちらにしてもレクラムちゃんとは少しの間、会えないだろうけどね。


「それにしても大型の馬車を改めて買い付けてよかったですね。四人と絨毯が乗っても問題ありませんもの」


正確には俺の影の中に水蓮がいるから五人だけど、影の中は重さ的にはカウントされないので今回は意識の外へ。

なお買い付けたのは俺達じゃなくてフランダール会長たちだ。馬車の所有権も最終的には彼らの元へ行く。


「旅の商人たちが馬車を丸々買える金を持ち歩いているというのは異常な気もするが」

「あらミール。グレミアの領主様の手助けもあったのですから、意外と安かったそうですよ?それにほら、大部分は宿から出てきた黄金を充てましたから」

「金の使い方が荒くないか、イブ姫」

「あぶく銭ですから」


この世界に来て強制的に一人暮らしなので、節約術自体はきちんと持っているんですよ?でもこの黄金は持ち歩いても危ないし、だったらグレミアの経済の中に溶かしてしまった方がいいかな、と思っただけだ。

もちろん、全てを使い切ったわけではない。最低限はみんなの懐にしまってある。お金があることで解決できることも多いから。

なんとなく会話が止まり、再び景色が流れる車窓を眺める。木々が揺れて、微風が頬を撫でていく。空は晴れていて、雨の気配は遠い。

距離を伸ばすには丁度いいだろう。なにせ、グレミアの街には長居してしまったからね。少しだけ、急がないと。


「………イブ姫。そろそろ、お前の旅の目的地について聞いてもいいか」

「ええ。勿論です」


小石を踏んだのか、馬車が揺れる。揺れが収まってから、レクラムちゃんの言葉に頷いた。


「私の目的地は遥か海の向こう、神凪の国。この隊商の旅は、その神凪の国へと唯一(・・)繋がる、大陸の果ての港町。最も巨大な海の街、航海都市アルタです」


グレミアはその道中。そしてアルタも道中の一つでしかない。

………神凪の国へと出航することが出来る船を持つ場所というのは限られていて、その多くが巨大な国家だという。俺は体の関係上、国家に入り込むのは危険であるため、唯一都市の中で神凪の国へと辿り着ける船を持つ航海都市アルタに行かざるを得ないのだ。

ちなみに。例え神凪の国へと辿り着ける程の強度と搭載量を持つ船があったとしても、実際に神凪の国へとたどり着ける事例というのは数少ないらしい。

それには様々な理由があるけれど―――ま、それはすぐにわかるでしょう。


「私とイブ姫はアルタから神凪の国へ向かう。フランダール商会とミール、そしてレクラム。君は暫くの間、アルタで休息だ」

「本当はついていきたいがな」

「無理だ。招待(・・)を受けたのは私と彼女だけだからな」

「そういうことです。アルタは料理がとても美味しいと言いますから、ゆっくりと休んでいてくださいね」


ミールちゃんとレクラムちゃんに微笑みかけ、そう締める。

さあ、アルタまではまだまだ長い道のりがある。気長に、けれど着実に歩を進めるとしましょうか。




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