図書館
「……というかだけど」
通り際の部屋を見てみると、本当に様々なものがあった。
たまにすれ違う人と会釈しながら、まるでお店のような部屋を眺める。
―――あれは杖が並べてあるなー。
服みたいなものが山積みになっている部屋もあった。
近くに置いてあった、無駄に精巧なファッションドールには長いローブが着せてあったので、おそらくはそう言った、魔法とか魔術に使う道具や衣装を保管してあるんだろう。
予備にせよ、貸し出しにせよ……使う機会というのは多いだろうし。
ほかには、サークル活動的なものなのか、学生さんたちが数人から数十人で集まっていた部屋なんかもあった。
そのあたりはよくわからなかったな。
……大学生活はまだ送ったことないからねー。
現在年齢、高校生くらいですのよ?
「ま、多分だけど」
何せ姿変わってますから。
「お、広場見えてきた」
窓の下に、大きな広場が存在していた。
また噴水があり……噴水の中央には、樹木を象ったと思われる像が立っていた。
樹木……根付くもの……つまり、土ということですか。
やはり広場ごとに像が立っているんだな。
そして、ちょっとだけ広場で広場の形とかも違っていた。
さっきの水の広場は、噴水が土の広場よりも大きく、噴水から流れ出た水は地面に作られている水路を辿って外へ流れ出ていたが。
ここは、水路はなく、噴水の水は普通の公園にあるような感じで、噴水の中で自己完結していた。
その代りに、土の広場には花壇が多めにあるようだ。
樹木なども大きめのものが幾本か生えていて、確かに土のイメージを強調していた。
土の妖精、ノームは樹木や石、土に宿り、自由気ままにその中を泳ぐといわれているからね。
確かにああいう場所は――好きそうだ。
「うん。土のいい香り」
微かに鼻腔を掠める土煙の匂いを吸い込み―――。
さて、図書館に入るとしますかね?
重い扉を開けて、図書館へと足を踏み入れたのだった。
***
「―――っわぉ」
図書館の中へ入ってまず……息が漏れた。
もちろん、驚きのせいで、である。
確かにこの広大な校舎の大部分を占めるだけのことはある。
……下と上につながる階段がみえる。
そういえば、一回の案内図に、通路からほとんどの扉がなくなってしまう場所があったっけ。
その場所は、この図書館の場所とリンクしている。
ということは、この図書館は一階から三階まで全部を貫いている形で存在しているんだろう。
―――あれ?これ一階からでも入れたんじゃない?
……そんな悲しみを背負いそうな事実は置いといて、図書館の説明に戻ろう。見渡す限り、形状的には、円筒型のようだ。
まず、外の壁全部に大量の本が収納されている。
それにはキャットウォーク……といえばいいのだろうか、まあようは、手すり付きの張り出した床がきちんとあり、壁際の本も取り出せるようになっている。
壁以外にも、一階、二階、三階……とそれぞれ、複数本の巨大な柱で支えられた各階層に、旧い木製の巨大な本棚が所狭しと並べられていて、見渡す景色全てにおいて、常に本が目にはいる状況となっていた。
それだけ本棚がある割には、各階層ちゃんと人が座って読めるだけのスペースが確保してあって……とんでもない広さであることを再確認したのでした。
そのスペースにある、机と椅子もかなり凝ったデザインだし……ここはお城か美術館ですかねぇ?
思わず上を見上げると、そこには荘厳な気配を漂わせる、巨大な絵が描かれていた。
……天井にかいてあるよ、あれ。
教会なんかではああいうのってよく見るよね……。
ただ、教会で見るものは大体天使なんかが書いてあるものだが……この場所ではそれはそれは美しい少女と、龍の絵がかいてあった。
絵には全く詳しくない俺でも、凄いものとわかるくらいには、迫力とか、荘厳さとか―――そういったものが抜き出ている。
「それにしても……あの絵にかいてある人、どこかで見たような……」
なんだろう、どこか記憶に掠るのだけど。
あと少しで届かない。
まあ、よくありますよね、こういうこと。
昔見たものとかがなかなか出てこなくて、いざ出て来てみたらすごくどうでもいいことだったり……とか。
こういうものは放っておけばいずれ思い出すのだ。
だから、とりあえず放置して―――この本の楽園を楽しみましょう!
さて、まずは本の置いてある種類から見ないとね。これだけの本だ、ただ無造作に棚に詰めてあるわけがない。
シルラーズさんも、ミーアちゃんにたいしてどこのどの場所の本をーって言ってたし、確実に分類はされているはずだ。
……その数がとんでもなく膨大な気がするのはさておいて。
魔法っていう学問があるため、元のセカイよりも書物の分類が多くなっている、ということもあるのだろう。
多分。おそらく。
あまり自信は……ない!
「分類分類……十進法じゃ無理だよねぇ」
ま、気長に探しますか。そういえば今何時だろう?
気になったが、時計を探すのもそれはそれで大変そうなので、気にしないでおく。
そういえば、簡単な掛け時計というものはこのセカイに来てから見てないな。あれって結構近代の発明だったかな?
懐中時計とか持っている人が多いし、単純に必要ないだけかもしれない。俺が掛け時計のある部屋に入っていないだけという可能性ももちろんあるのだし。
それに、この図書館に、学校で見るような丸いだけの時計とか、あわないにもほどがある。
「在ったとしたら、それはもう精巧にできているんだろうなー」
仕掛け時計のように、時間が来たら動き出すような。
子供のころは、そう言った時計が珍しくて……時間が来るまで時計の前でじっと待っていたこともあったなぁ。
小学生低学年くらいの話だけどね。
小学校って、地味になんでこんなものがあるんだ?っていう類のものが置いてあるよな……なんでだろね。
あと必ずある動物の剥製。鹿だったり熊だったり、雉だったり鷲だったり……。
「この学院では剥製は見てないけどね」
まあ、そんなもの調度品として合わない合わない。
特にこの、古書から新装丁の本まで様々なものがあるここではね。
さて、一人でいるために必然的に独り言が多くなってきているのを自覚しているので、そろそろ真面目に本を探そうか。
―――やっぱり、せっかくこの魔法や魔術があるセカイにいるのだから、魔法などの知識に関する本が読みたいな。
というか必読である。なにせ、俺は魔法について全く知らないからね。魔法使いなのに。
ありがたいことに、ミーアちゃんから教えてもらってはいるけれど、最終的には自分で調べることも必要だ。
単純に知りたいという気持ちもあるけど。
「お。あんなところに掲示板が」
例によって宙に浮いているあれだ。
かなり大きめの掲示板だけどね。これだけ大きな図書館なのだし、場所を知らせるための掲示板が大きいのは必然ですかね?
目を引いたのは、大きいっていうだけが理由ではないけど。
掲示板……案内板……いや、やはりここでは掲示板かな。
その掲示板には、魔法関連書籍という感じの文字が書いてあったのだ。
渡りに船ってやつです。迷わずにそこへ直進しました。