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”お宝”探し


***




ところ変わって別の通路。

そこには女性二人が佇んでいた。


「イブ姫たちとは分断されてしまったようだな。まあ予想通りではあるが」

「ここはまるで生き物の体内だ。異界化というのはこういうことも起こるのか、成程興味深い」


隣のレクラムは平常運転。魔術的な才能は持たないが恐らく性格は私に近いところがあるのだろう。イブ姫ことマツリ君は写本師をしていると言っていたな。

アストラル学院は秘術に精通した者や特権階級にある者が通うため文字が分からない人間というのは少ないが、カーヴィラの街となると全ての人間が文字を操れるわけではなくなる。

この時代では言葉を理解できるというだけで才能だ。場合によってはスカウト(・・・・)しても良いかもしれないな。


「レクラム君。その見立ては正しい。今回の怪異の核は恐らく人間に近しいものか、人間そのものだからね。この宿そのものが怪異の腹の中というわけだ」

「………怪異は怪異ではないのか?」

「怪異は人から生まれるものであり、人が変じることもある。素質や素養、そして偶然が重なれば、だがね」


宿の中に入っても怪異の居場所が辿れなかったのは、宿そのものが怪異と同化していたためだろう。

とはいえ、だ。ただそう推測するだけならば容易い。私もマツリ君も、その程度は瞬時に理解できるだけの感覚を持ち合わせている。

なのに何故、彼女が時間を取ってまで怪異の本質を探ろうとしたのかといえば、この腹の中に潜む本体の居場所を見つけやすくするためだ。

人間そのものか、人間の強い感情が核となっている場合、その人間の性格や執着から居場所を探れる。宿そのものを乗っ取ったからと言って、本体が宿そのものに変じるわけではないため、必ずどこかに本体がいるのだ。

魔神の騎士ならばともかく、怪異の騎士階級程度であれば巨大な建物を丸ごと自身の存在に取り込むことは難しい。魔力を浸透させ、操るというのが最も正しい訳だ。


「奴隷が怪異発生の起点と思っていたが―――怪異に変じている?いや、イブ姫は厳密にはどちらの奴隷も原因ではないとも言っていたな」

「ならば人に近しいナニカが原因だろう」

「………近しい、何か?」

「そうとも。話を聞けばその商人、奴隷を厳重に匿っていたのだろう?古来より儲かる商人が鍵をかけてまで守りたいものなど、そう種類はないものさ。君ならば推測で答えに辿り着けるかもしれないな」

「教授のようなことを言う」

「アストラル学院の学院長なんだがね………さて」


煙草を口に咥えて、魔力の炎で火を着ける。

厄介なことだ、この宿の怪異には多少なりとも知性がある。核心に迫る話をしたことでこちらにも意識が向いたらしい。


「話はのらりくらりと攻撃をかわしながらだな。レクラム君、絨毯から落ちないように」

「了解した。気を付けよう」


怪異の性質的に恐らくマツリ君たちの方が怪異の核心に迫りやすいだろう。それに私は元凶を燃やし尽くすことくらいしかできない。

他の解決策を持っているのは私以外の彼らだ。ならばここは、彼女たちの補助に徹するのが得策かな。

宿全体の仕掛けは既に終えている。マツリ君ならばあの身体に備わる知識で看破し、利用もできるだろう。合図が来るまでは宿の中を荒らしまわるとしようか。


「『金星の炎 七つ目の球体 其は勝利の光なり』」


肉塊と変じた宿の壁の中から無数の触手が飛び出るが、それらが私たちのそばに近づく前に、その全てが黄金の炎によって焼き尽くされた。


「カバラ………生命の樹の魔術?」

「教養があるな、その通りさ。生命の樹に準じた惑星(・・)、天使、宝石や金属の力を引き出す魔術―――ネツァクのセフィラは勝利を意味する。明けの明星と呼ばれる惑星の炎の力を借りたのさ」


―――太陽があれば当然、惑星もある。この星には直径3,474.8kmの月だってある。

星は流れ、星座が彩り、占星術が存在する。旧き龍と共に存在した、自然や生物の領域外からやってきた存在が意志を持った神格はその大部分が千夜の魔女に食われてしまったが、未だか細く生き残った神と、使いである天使も存在する。

魔術があるという事は彼らが存在したという証だ。神の血を引く英雄もかつては居た。そもそもルーンは遠い神々からの贈り物である。

我ら魔術師は、それらの力を利用するだけ。凄腕の魔術師ならば、数多の秘術をすら操って見せるのだから。

早々に神は死に絶え、龍と妖精と人間が形作ったこの世界で、さて………あの魔法使いはどう生きていくのだろうね。

或いは。どう、世界を変えていくのだろう。

ふと。そう思った。






***






「これ向かう方向合ってんのか?!!?」

「それは勿論、合っていますとも!!」


なにせ、そのための魔法だからね。

杖から生み出された煙が形作るのは、ゴールデンロッド………アキノキリンソウの花。隠れているものや宝物を探す際に使われる、所謂探し物の薬草魔法である。

因みにゴールデンと名前がついているため、金運アップの効果があったりもする。まあそれはさておき。


「触手だけではなく、変なものも生まれてきたな。人を模した肉塊とは」


肉塊が満ちる長い通路を右に左に走りながら、幾度も剣を奔らせるミールちゃんがそうぼやいた。


「ポリープみたいなものなのでしょう」

「………なんだ、それは」


そういえばこの世界中世ヨーロッパくらいの時代なんだった。透視魔術はあっても内視鏡はないので、医学用語はそこまで浸透していないのが普通である。

産婦人科が無くて産婆が赤子を取る世界だからね。


「取り込まれた人間の残滓が怪異の生み出した肉塊と共鳴して生まれたもの、なのでしょうね」

「私たちにとっても怪異にとっても味方ではない有象無象だ。切り捨てていけ、騎士」

「ただ悪意を持って動くものか。防衛機構ではないのだな」


これだけ人が殺されていたのであれば、或いは取り込まれていたのであればそれなりの感情が蓄積するからね。怪異もどきを生み出すには十分なんだろう。

肉塊が膨れ上がり、こちらに這いずってくる人間もどきをミールちゃんが切り捨て、肉壁から相変わらず俺たちを攻撃してくる触手を、宙を駆ける水蓮の生み出す水によって裂いていく。

いや、うん。分かってたけどね、この二人めっちゃ強いよね。忘れちゃいけないんだけど、以前戦った水蓮って精神的にも肉体的にも弱まってて、更にそこに呪いを受けていたわけで。本来の実力を発揮したアハ・イシカの強さが嫌でも分かるというか。


「どんどん触手も人型肉塊の数も増えてねぇか!?」

「はい。守りたいものがある場所は警備が厳重になる、それは当然の事でしょう?」

「ああつまり正解だからこそこんだけ敵ばっかになってんのな!!」


………どんなに二人が強くても、俺達を護衛している以上は多少の討ち漏らしも出てくるものだ。四方八方から縦横無尽に攻め手を持つ敵が相手では、一騎当千と言えど手が回らない。

そもそも人数少なすぎだよね。軍隊投入しても多分お釣り出ないくらいに過酷だからね、ここ。

討ち漏らしたものに関しては逃げる、避ける、場合によっては俺が倒す等で進んでいるけれど、ここから先は多分ポリープじゃなくて白血球さんとかキラーTさんみたいなのが出てくると思う。そうなればもっと進むのは大変になるけれど。


「………想っていたより出現が遅いですね。シルラーズのおかげかしら」


宿の怪異のせいで探知しにくいけど、どこかで大きな魔力反応がある。怪異の魔力がそこに集中しているためだけど、それほど魔力を注ぎ込んで対処しなければならない相手なんてあの人しかいないからね。いやそれだけ魔力注いでも結局、対処出来ていないけどね。

暴れることでこっちが楽になるっていうの分かってて派手に動いているんだろうなぁ、シルラーズさん。

ゴールデンロッドの花が倒れ、うなずく。道の先は肉壁。


「水蓮、蹴散らして!!」

「良かろう」


水を纏った水蓮が壁に激突し、ぶち破る。奥に覗くのは隠された通路。再生を始める壁をミールちゃんが切り裂くことでダメ押しすると、俺達はその中を駆けていく。

元凶まで、あと少しだ。






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[一言] 商人が守りたいもの… なんだろう?
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