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地脈捜査


***





「お待たせしてしまったかしら?」

「いいや。いいアフタヌーンティーが楽しめたよ」

「アフタヌーンというほど遅い時間でもない気がするが。それと紅茶ではなく珈琲か。そうなってはますます別物だろ」

「ふむ、正論だな。君がイブ姫の言っていた同行者だね?」


車椅子の小さな車輪の音を鳴らしながら進んだ俺たちは、鼻先に感じる香りを頼りにシルラーズさんたちと合流する。

出会って早々にきっちりと言葉の棘を指していくあたりレクラムちゃんの精神性は全くぶれないよね。ちなみにアフタヌーンティーというやつは、一般的に午後三時から午後五時位に行われるお茶会であるとされている。

今の時間帯はお昼を少し過ぎたあたりだ。行動を始めた時間が比較的早かったため、レクラムちゃんと出会い、彼女を連れて門の方に行ってから戻ってくるという地味に長い距離の歩行を終えてもそこまで遅い時間に食い込まずに済んだのである。

早起きはいいね、うん。行動範囲が広がるから。


「レクラムだ。お前は?」

「シルラーズという。魔術師だよ」

「魔法使いに続いて魔術師まで出会えるとはな―――待て。シルラーズ?アストラル学院の学院長か」

「本当に広く名が知られているわね、シルラーズ」


世界最高峰の魔術師と呼ばれているからこそなのか、或いはアストラル学院という世界に名だたる秘術を扱う学院の長であるからなのか。

それとも両方か。兎に角、この人のもつネームバリューとでもいうべきものは、カーヴィラの街から出ても変わらない威光を示している。

俺からしてみれば凄い人であり、恩人の一人であり、そして結構困った行動をするお姉さんといった感じなんだけれど、もしかして俺の感覚ってこの世界だと少しおかしいのかな?

でもミールちゃんとミーアちゃんも同じような反応しているしなぁ………。


「大した人間ではないというのに、有難い限りだ。それで、レクラム君。同行の件について、詳しい話を聞いても良いかな」

「ああ」

「ではそこに座り給え」


俺たちがそうこう話しているうちに、いつの間にかオープンテラスの席に机と椅子が追加されていて、全員が座れるように段取りが成されていた。

こういう手回しの良さ、とても格好いいんだけどねぇ。間違いない利点なのだが、それを台無しにするくらい言動が酷い時があるので、まあバランスはとれているというかなんというか。

でも仕事は出来る人なので、こうして街の外に出たことで仕事モードに切り替わった時のシルラーズさんは本当に有難い存在である。


「簡潔に言おう。私は神秘を大衆に分かつために知識を蓄え、智慧を紡いでいる。魔法使いが呪的現象の呪いを解く………その現場に立ち会わないなどという事はあり得ない」

「君は学生か。神秘の開放を命題にしているとはね」

「同行の対価として情報を売った。そして引っ付いて回る際には知識を以て補助しよう。もし足手まといであるならば怪異の前で囮にしても構わない。私の命の面倒を見て貰おうとは思っていない」


―――うん?囮だって?しないよ、そんなこと。

というような表情が思わず漏れていたのか。俺の方に一瞬だけ視線を向けたシルラーズさんが、やや溜息交じりの息を吐く。

火の着いていない煙草を揺らしたシルラーズさんは椅子の背もたれに身体を預けると、


「良い条件だが、残念ながらそれでは同行を認めることは出来ないな」

「………譲歩しているつもりだが。これ以上の条件など」

「命の面倒はこちらで見させてもらう。自由に動き、自由に見たまえ。だが、自己犠牲は許さない。―――これでいいかな、イブ姫」

「ええ。協力者のお客様ですもの、無事に返しますわ」

「………」


レクラムちゃんの表情が固まり、なにかを喋ろうとして、再び固まる。

そして、ゆっくりと俺の方を振り返ると、そのままじっと見つめられる。何でしょうかと首を傾げてみてもなんのそのだ。


「お前、イブ姫。………頭おかしいな」

「単純に失礼ですね。損はさせていない筈ですけれど」


頬を膨らませると、その頬に向かってレクラムちゃんが指を伸ばした。そしてそのまま押されて頬の空気が抜けていく。

うーん、頬を弄ばれるのこっちの世界に来てから割と多いような気がするなぁ。特に嫌という訳でもないのでそのままにしている俺も俺なんだけどね。


「私が無理を言っている自覚はあった。だからこそ私の命に頓着しなくていいという条件だった。それを敢えて難解なものにするなど、異常者のやることだ」

「だとすれば私は異常者なのかもしれませんね。………ふふ、冗談です。お友達をなくしたくないだけですよ」

「友達?出会ってから数時間しかたっていないのにか」

「ええ。友は友ですわ。縁が結ばれれば他人は人となります。そして、悪い縁で無ければそれは友でしょう?」

「………魔法使いの頭の構造が私たち一般人と異なる可能性が出てきたな。研究の余地がある」

「レクラム君。それはイブ姫の個性だ、大多数の魔法使いは偏屈で人間嫌いであることが多い。彼らは本来では人を守る立場にあったが、現行の人類は既に庇護対象ではなく―――寧ろ魔法使いの領域、守護する場所を奪う立場にあるからだ。人々の前から魔法使いが姿を消した理由でもあるな」

「単純な数の現象の他、人の領域から離れる存在も多いという事だな。まあそもそも魔法使いの年齢は見た目通りではない場合が多いと聞く。………イブ姫もその手合いか」

(わたくし)、十八歳なのですが………」


まあ肉体変わっているしなんともいえないけど。

というか一応この世界に来てから、この世界の暦の上では誕生日を迎えているので十八歳と言ったが、実際のところはどうなんだろうか。基準となる身体も別物なので最早、正確な年齢を測る術がないという。歳なんて気にするような性格ではないんだけれど。


「………私より年下だと」

「え、俺より一個下………?」


そういえばキール君は俺と出会った時点で十九歳だったっけ。まだ誕生日は来ていないらしい。


「おい、話が飛んでいるぞ。イブ姫の年齢など公の場で言うべきことではない。本題に戻れ」

「そうね、ミール。では早速………この後の話をするとしましょう」

「するも何も、やることは決まっているだろう。地脈の調査、それもかなり精度の高いもの、違うかな?」

「正解よ、シルラーズ。この街の中で地脈、或いは龍脈やらと呼ばれている、星を巡る魔力の通り道がどのように張り巡らされているか、それを確かめなければなりません」


地脈も龍脈も風水での呼び方である。他には霊脈とか………まあいろんな呼び名があって秘術の流派とかお国柄とかで変わってくるわけだけれど、指しているものは全て同じだ。少なくともこの世界の中ではね。

つまりは星を流れる膨大な魔力の道筋である。魔力の大河でもあり、巨大な国家や都市というのはその流れの上や傍にあることが多い。

それを管理するのが魔術師の仕事の一つである………というのは以前、少しだけ触れたよね。


「宿の周囲を調べるというのはそれか」

「その通りです、レクラム。地脈の筋は多くの利点を持ちますが、神秘的な現象を引き起こしやすくもなります。事実、地脈から離れた土地と地脈の上にある土地では怪異の発生率に大きく差がありますから」

「地脈の周囲は大気に満ちる魔力の量が増えるというが、その魔力によって怪異が生まれるという訳だな」

「土地を治める魔術師の腕にも因るがね。それとてどのような腕を持っていようと発生率を無にすることは出来ないが。怪異は地脈の魔力がなくとも、人の思念や憎悪から生まれるためだ」


あくまでも地脈の上では発生しやすいというだけであり、逆にこの世界のどこに居ても怪異は生まれる可能性がある。

生まれたところで弱い怪異はすぐに消滅してしまうし、魔術師が居るような大都市では管理の一環で怪異を祓うという事をするので、街中で一般の人に怪異の被害が及ぶというのはあまり無い事である。だから尚更に今回の事例は珍しいわけだ。


「といっても、具体的にはどのように地脈を調べるんだ。その辺りは土地を統べる魔術師も教えてくれないだろ」


レクラムちゃんの言葉は事実である。まあ殆ど街の防備に関わることなので、教えてくれないのは当たり前なんだけどね。

………それでも、知っておかなければならないことである。なので。


「そうですね。ですので………ちょっとだけ、強引な手を取りましょう。気乗りはしませんけれど」



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