王子さん(仮)がいた
「さてと!」
「い、く?」
「うん。また会いに来るぜー」
抱き着いた際に地面に落ちたバスケットをまた拾って、軽く土を払う。
パンパンっと。
あ、まだサンドイッチ残っていたんだった。
取り出して、頬張る。
うん、軽くとはいえ、地面に落としてしまったり……つまりは、俺のせいですこし形が崩れてしまったけど、おいしい。
「こんど、は、ごは、ん。いっしょ、です」
「りょーかい。一緒に食べようか」
また会いに来るという約束もして。
次に会いに来るときは、俺が弁当を作ることにしようかな。
そして、ベンチで二人で食べるのだ。きっとおいしい。
「じゃあ、またね?」
「う、ん!また、ね、マツリ!」
軽く手を振りながら、庭園を出る。
今もまだ、リーフちゃんの生み出した草花の匂いが……香り高く漂っていた。
***
「今度はちゃんと図書館に行かないとなー」
軽くステップのようなものを踏みながら、図書館へと歩いていく。
階段をこえ、何故かこちらを見てくる周りの人たちに軽く会釈をして―――。
そうこうして学院内を歩き回り……そして、迷った。
うん、迷った。
「……あれ?」
おかしいな、案内板の通りに歩いてきたはずなのにな……。
まあいいか、もう一回案内板を探して、そこから図書館に行けばいいだろう。
そう思い、また当てもなく近くを歩き回ろうと決める。
言葉では伝えにくいほどにこの学院は広くて……そのためか、案内板は大体一定間隔ごとにあるみたいなのだ。
逆にいえば等間隔にないと初めて来た人はまよってしまうんだろうなぁ。
だから、俺も迷っててもおかしくないよね。よね?
「取り合えず、今どこにいるかの確認だよなー」
周りを見渡して状況確認。
二階にいます、以上。
……あ、窓から中庭がみえる。もうリーフちゃんはいないようだが、学院の屋根より大きなオークの樹は見えている。
ベンチは樹の向こう側にあるのか、こっちからは目視はできなかった。
ということは、さっきまでリーフちゃんといたところの反対側の、二階……いや、庭園はオークの樹が目立つとはいえ、学院の極一部だし、あんまり参考にはならなさそうだった。
というかですね、あれだけ巨大な樹木すら普通に極一部って表記できるくらい大きいって、この学院どれだけの規模なんだよ……。
「ん~。ま、わからないならまた調べるとしますかね」
軽く伸びで、自分のモットーを再確認する。
つまり、情報はまず本から……次いで自分の足を動かして、だ。
歩き回ればどれだけ学院が大きいかなんて、嫌でもわかるだろうし。
さてさて、行きますかね~。
俺はこういった調べることとか大好きなのだ。
すごく、興味がわいてくる。
―――私、気になります!とか言い出しちゃうかもしれない。
あ、だめですか、すいません。
「まずは二階から歩き回ろう……今二階にいるし」
いる……はずだし?
さすがに階段降りたかどうかは……大丈夫なはずだ。
どこかの床を履んだら瞬間転移とか言う謎トラップはないはず。
魔法とか魔術を、そんな無駄なことに使うわけないよなー、多分。
―――そんなわけで歩き回ること数分。
さて、数分間歩き回っても全然行き止まりが見えなかった。
「うそだろぉ……本当に広いな」
下手したら某鼠の王国並みの大きさあるのではないだろうか、これ?
いいねぇ……探検のし甲斐がある!
すぐに終わってしまうよりはずっといいことだ、うん。
でも、歩き回っていたら少しだけ疲れた。
少しだけだよ?ほんとだよ?
……うーむ。病み上がりだからだろうか。
前よりも疲れやすいような。
「あ~……」
窓にもたれかかってだれてみる。
……お?ちょっと身を乗り出して下の階の方向を見る。
あらま、見てみれば、さっきのリーフちゃんのとは別の中庭があるではないか。
リーフちゃんの中庭とは反対方向にあるんだな。
というか、この校舎を取り囲むようにして、もう一つ校舎が存在していた。
しかも、すごくでかい。でかい。
窓には、たくさんの学生さんがいる。こっちの校舎よりも人口密度が高いな、あれ。
中庭は、その別の校舎とこの校舎との間に存在していた。
なんといえばいいのだろう……校舎の角?の部分だ。俺が左向いた方にある。
巨大な噴水があって、水瓶を持つ美しい女の姿の像が特徴的だった。
「あー、角がなんか……すごい建物になってる……」
そういえば、と校舎の案内図を思い出す。
校舎の形は、ロの字型だったなぁ。
でも、案内図には別の校舎は描かれてなかったし、きっとこの建物の案内図ってことなんですな。
右を見てみれば、あらあんなところに渡り廊下が。
あれであっちの校舎に行くんだろうね。でも結構遠い所にある。
校舎広すぎだろ、さすがにここまでだと移動に支障があるんじゃ……。
あ、ちなみに角だけど……なんというのだろう。
角は、一階部分は西洋の城でよく見られるように丸くなっている。でも、凱旋門くらいの大きさの穴……というか通路ができてあって、装飾もすごかった。
うわぁ……精巧に作られた像があんなところにも。ちなみに、今度の形は龍だった。
二階と三階は、渡り廊下になっていた。
今も結構な数の学生さんがあるいていらっしゃいます。
……なるほど、あそこがちゃんと開いているから、あそこに見える中庭にも光が当たるようになっているんだねぇ。
良くつくられていると感心した。どれだけの手間がかかっているのかは考えないようにした。
お金がかかっているのかも、考えないようにした。
さて、それよりも目を引いたのは――。
「おー、すごい人だかりだ」
あの、噴水のある広場。
そこには、無数の学生さんが集まっていた。
何かあるのかな。お宝とかかな?
目を凝らしてみてみると、集まっている学生さんはほとんどが女の子だった。
……お宝じゃあ、なさそうだなぁ。
その人だかりの中心にいるのは、金髪碧眼、どこかの御伽噺から出てきたかのような王子様……みたいな人だった。
御伽噺と違うのは、腰に提げているのが装飾の施された剣ではなく、鍵の形がモチーフとなった杖であることだろうか。
うーん、このあたり、ここが魔法とか魔術に関しての学院であることを強く感じるなぁ。
なんとなく、イメージ通りの王子様像でないことに落胆しつつ、まあそんなものかと思いながら、引き続き人混みを見続ける。
人混みの中に自分が混ざるのは嫌だけど、外から見ている分にはいいよなー。飽きなくて。
「というかなにやってるんだろ?」
何か面白いことでも始まるのか?
あの人が実は手品師とか?
そんなわけないかー。
「……普通に、イケメンだから持て囃されてるって感じだよねぇ」
おのれイケメン。
……とか、今までなら思ってたかもしれないけど、既に身体が女に代わってしまっている現在、あのイケメン王子様(仮)に対して、そんな感想を持つことはなかった。
まあ、感想といえば「あーたくさん集まってる、たいへんそー」くらいなものだった。
窓の出っ張りに頬杖ついて王子様の顔に注目する。




