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洗体されました



***





「ま、あれだ。まずは他の女性の身体つきに慣れていくのが一番いいだろう。という事でその目隠し、取れ」

「えぇー………」


浴場の更衣室に入って早々、付けた目隠しを没収された。ああ、因みにこの”眠り薔薇”は所謂女子寮なので、浴場は一つしかないし、出入り口も一つだけである。

まあ今は眼を持ているので背後の閉じた引き戸は見えないんだけどね。


「私たちは別にお前に見られても気にしないからな。それよりもお前が慣れることの方が重要だ」

「そうですよ、マツリさん。何せこの場で一番破廉恥な身体つきしているのがマツリさんなのですから、見る側というよりは見られる側にいるという自覚を持ってください」

「はっきりそう言われると見られるのも普通に恥ずかしいよ?」


別ベクトルの恥ずかしさがこみあげてくるからやめてください。

………溜息を吐きつつ、おとなしく目を開く。それと同時、背後から一瞬で服を脱衣した水蓮が顔を近づけて、小さく耳打ちをした。


「意識の転換だ。得意だろう、マツリ。………慈しめばいいだけだ」

「そう、だね」


細身ではあるけれど鍛え上げられた、双子騎士の裸体を見る。

ああ、前よりも俺は彼女たちに感じる劣情の類が明らかに減っているのを自覚した。いいこと、なのだとは思うけれど。

元男としてはいいのだろうかとも思うよね。そもそも人としての概念の変化なのか人外に近づいたが故の感性の変化なのか、前提となる経験が足りていなくて分からない。

この世界に来る前は、彼女なんていないし女性の裸を見ることだってなかったのだから。


「先行っているぞ。私には水場が必要だ」

「私もー。ミール、ミーア。マツリちゃんで遊ぶのもほどほどにね~」

「善処します」

「………いや、遊んでないぞ?」


ミールちゃんは真面目にやっているのだろう、うん。

さて。タオルを取り出すと、体に巻き付ける。羞恥心が減ったのは事実であり、この調子なら旅先でも問題はないだろう。

なにせ、一番俺の心に影響を与えるであろう双子を見ても、羞恥で目を逸らすまではいかなくなったのだから。


「二人とも、どうやら俺も成長して裸身を見ても大丈夫になったみたい。さーお風呂に入ろう~!」

「むぅ。残念です、たじろかなくなるとは」

「成長だろ、成長。まだまだ子供なマツリが少しだけ大人に近づいたってことだ、いいことだろう」

「あの、俺の実年齢二人よりも上だからね?忘れてない?」


タオルを肩に放ると、無造作に歩き出すミールちゃん。阿吽の呼吸というべきか、それと全く同じタイミングでその後ろをタオルで前を隠しつつ進むミーアちゃん。

双子の性格の違いを興味深く見守りつつ、追いかける。俺の目の前で、俺自身が持つ二つの大きな塊が揺れた。


「………捥ぎ取りたいのですが………ああ、捥ぎ取りたい………」

「怖いよ」


殺意すら感じる視線から身を隠しつつ、浴場の入り口近くにあるシャワーの蛇口をひねり、お湯を出す。

うん、かけ湯だ。肉体がほとんど魔力の水で構成されている水蓮とは違い、双子やシンスちゃん、一応俺も肉の体を持つ存在だからね。衛生管理のためにも、湯船に入る前には簡単な汚れを落とさなければならない。

………とはいいつつ、俺は温泉とかだと先に頭や体を洗ってからお風呂にゆっくりつかるタイプなので、実はそういう意味ではかけ湯の必要は無かったりするけれど、そもそもあれって汚れ落としだけが目的でもないから、やった方がいいんだよね。

かけ湯は泉質やお湯の温度に体を慣らすのが目的だ。なので、本当ならば水泳の授業でもやるように身体の末端からかけていくのが正しい。そうじゃないと血圧の急上昇で大変なことになってしまう。なお、頭からお湯を浴びるのはかぶり湯というもので、こちらは貧血にならないようにするためのものだ。

手先、足先にお湯を浴びせると、シャワーを取っ手に取りつけ、頭からお湯を受け止める。肌の上を水が滑り落ちていく感覚というのは、男性の身体女性の身体関係なく気持ちがいいものだ。

髪が長いと、髪の奥まで水分が浸透するのが遅いのが難点だけどね。本当にこの辺りがめんどうくさい。


「と。水の無駄遣いは出来ないかな」


つい自宅のつもりで水を使用してしまっていた。

俺の家は立地的に魔力が濃く、魔道具と井戸、魔力によるこの世界特有のライフラインが整えられているため水もお湯も自由に使うことが出来るが、”眠り薔薇”では水そのものは水道管によって送られているにせよ、お湯は石炭か魔道具のどちらかでその都度沸かしている。

使いすぎれば出てくるのは水だけになってしまうだろう。なので、家の感覚でお湯を垂れ流すわけには行かない。

だって、共用浴場ともなれば使うのは俺だけじゃないからね。第一に、その水道管からの水だって浄化設備を兼ねた貯蓄場所はあるにせよ、川やら井戸やらから引いているのに違いはない。水の使い過ぎはどこでも厳禁というわけだ。


「マツリ、髪を洗ってやろう。こっちに来い」

「はーい」

「駄目ですよ、姉さん。それは私の仕事です」

「あれ、いつの間にそんなことに?」

「最初に一緒に入った時にです。私が決めました」

「そっか。それなら仕方ないね」

「仕方ない、のか………?まあいいが」


のそのそと動き出すと、ミーアちゃんの前にすとんと腰を下ろす。

はいでました無自覚女の子座り。でも骨格的にこれが楽なんですよ………と、それはさておき。

天井をゆっくりと仰ぐと、髪の流れに沿うようにやさしくお湯が流れていく。長いくせっ毛がこの時だけは素直に伸び、いつも以上の長さとなって床にまで垂れた。


「………益々髪が伸びたな、お前」

「そうなんだよね。正直邪魔で………でも不用意に切れないのが悲しいところ」


となりで体を洗っているミールちゃんにそう突っ込まれる。実際、身体が変わった直後よりも髪の長さは随分と伸びているんだよね。

でも、俺の身体は千夜さんの呪い付き。不用意に切ってそこらへんに捨ててしまうと、髪が伸びる呪いの人形もかくやと言わんばかりに他の呪いを引き連れてくる可能性もある。

かといって魔法で消滅させるのもなんだかなぁという感じ。俺の髪、ばい菌か何かですか?


「前から思っていましたけど、マツリさんはゴスロリ衣装絶対に似合うと思うんです。ゆるふわウェーブが自然に出来ているとか、ゴスから甘まで臨機応変です」

「一応言っておくと着ないからね?絶対に着ないからね?」


洗われた髪を結いながらミーアちゃんの算段を否定しておく。多分、この娘が言っているのってコスプレ衣装でしか見ないようながっつりとしたゴス衣装やロリ衣装なので、男女と関係なく精神年齢的に着ることに抵抗がある。

普段着ている魔法使いの装束程度の静かな服装のほうが俺好みなのだ、うん。


「手を出してください、マツリさん」

「うん」


ミーアちゃんの鍛えられているとはいっても、少女特有の柔らかさを残す体に凭れ掛かり、手を横に伸ばす。

心地よい力加減で俺の肌の上をボディタオルが滑っていく。やばい、寝そう。

手から腋、背中と胸、その胸の下の汗がたまりやすいところ。お腹周辺。そして下半身の全部。

太ももまで洗ってもらうと、泡だらけになった体をゆっくりと水で洗い流してもらう。


「はい、終わりましたよマツリさん」

「ありがと、ミーアちゃん」

「………ねぇミール。ずっと気になってたんだけど、二人って付き合ってるの?」

「いや。まだだが」

「まだ、ねぇ………」


とっくに体を洗い終わっているミールちゃんとシンスちゃんが何やら話していたけれど、寝ぼけまなこの俺にはよく聞き取れませんでした。

とはいえ、お風呂での寝落ちは即ち気絶だ。脳の血流がなんたらかんたらと理論があるらしいけれど細かいことは気にせずに。

背筋を伸ばして少しばかり眠気を払い、既に俺とミーアちゃん以外のみんなが浸かっている湯船の方へ向かっていった。

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