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サウザント・ナイト ~謎の異世界転移からの魔法使い生活~  作者: 黒姫双葉
第一章 魔女と魔法使いと異世界と
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リーフ


「…………!!!」

「ん~?」


あれ、何を話しているのかが聞き取れない。

……むぅ?

口は確かに動いているのに、おかしいな。

さらによく耳を澄ませてみる。


「……わた、し、のこと、みえ、て、る、です、か?!」

「あ、やっと聞こえた。うん、かわいい声だなぁ」

「え、あ、の」

「うん、しっかり見えているよ。俺は茉莉、よろしくね」

「あ、あ、の……」


何かをしゃべろうとして、また口を閉じるという動作を繰り返す少女。

きょろきょろと周りを見渡すと再び俺を見る。


「リーフ……で、す」

「リーフちゃんね。よろしく」


うん、まるで存在そのもののような、いい名前だ。

そっと手を差し出す。

あ、もちろん握手するためです。


「……?」

「あれ、握手って知らない?」

「あ、く、しゅ?」

「うん。友達になるときは最初に握手するんだよ~」


握手以外もするけどね。

まあ、握手で始まる時もあるよってことで。


「でも……わ、たし。さわ、れ……」

「これが異文化交流ってやつかな……うん、ちょっと手を拝借」


こういう時は俺からリードしてあげないといけないよね。

如雨露を握っていない方のリーフちゃんの手をそっと取り、握って軽く上下に振るう。


「よろしく、リーフちゃん!」

「……?!?!?あ……さわ、れ……え?!」

「?」


あれ、なんでひどく驚いているのだろう。

……ああ、そうか。

リーフちゃんに触れたら、少しだけ何かが伝わってきた。

気のせいではなく、多分これは俺の身体のせいだということもついでになんとなくわかる。

―――この娘は、樹木の精(ドライアド)なんだ。

樹木に宿る精霊。あちらさんの一人、ドライアド。

俗にニンフに類する妖精であると解釈されるもの。

特徴としては、めったに人前に姿を現さず、美しい姿をしていて――自らの宿る樹木が枯れ死ぬと、ともに生涯を閉じるといわれている、自然の精霊。

誰もリーフちゃんに目線を送らなかったのは、リーフちゃん自身が見られたくないと思っていたからなのだろう。

ドライアドは好きに姿を隠せる。それが人前に姿を現さないという伝承の理由なのだから。

……だから、なんで俺はこんな知識をもっているんだよー。

まあ、身体が理由なんだろうけどさぁ。

便利といえば便利だが、自分で中で知った経緯が存在しない知識があふれ出てくるのはそれはそれで不気味である。

ん~。ま、いっか。


「君がこの庭の主人?」

「主人……という、か。そ、の……。か、んりは、して、るです」

「おお、管理人。ではでは、お礼を言わないと」

「お、れい?」

「うん。いい匂いといい景色。こんなものをくれてありがとうってね?」

「……うう」


あ、照れた。かーわいい。

それにしても、小柄だなぁ。

俺もかなり縮んでいるのに、それよりもさらに小さい。頑張れば膝に乗せられそう。


「おねえ、ちゃんも、いい、にお、い……だよ」

「おねえちゃん?!」


ぐはっ……なんだ、この気持ち……。

年下(にしか見えない)娘にお姉ちゃんと呼ばれるこの感覚……。

素晴らしいんだけど!

思わずリーフちゃんを抱きかかえてよしよしする。

ああ……もふもふ。


「ふにゅあ……」

「ん~。髪から漂う草木のいい香り」


そりゃそうか。

この娘の本体は樹木なんだし。


「リーフちゃんの依代は、この(ひと)かな?」

「……!は、はい、です」

「そっかそっか」


ベンチの後ろにある巨大な樹を見上げる。

そうか、確かに――日本にあればご神木にでもなってそうなくらいの力を持っている樹だ。

この庭において草花がこれだけ伸び伸び育っているのは、この樹木があるからなのだろう。

精霊の宿る……あちらさんの住む樹木というものは特殊な力を帯びることが多い。

妖精の宿る樹。魔法使いたちはこういった樹を貰い、杖とすることも多い……らしい。

またまた登場、謎の知識さんの出番でしたー。

うん……もう……気にするのもめんどくさい……。元から持っていた知識と知らないはずの知識が混ざり合っていて、なんか気持ち悪いのである。

仕方ない、慣れるの待ちましょうか。

ちなみに、樹木に宿るあちらさんにも種類があって、代表的なのはリーフちゃんみたいなドライアド以外にも、もう一人だけいる。

まあ、それはまた今度、機会があったら語りましょう。


「旧いオークの樹、か」


確かに、力の宿るわけだ。

古来よりオークの樹には魔的な力があるとされているのだから。


「そういえば俺の杖も握りはオークだった」


いろいろ装飾などに模様として草花がつかわれていたりもするが、基本素材はオークである。


「わ、たし、を”人”、とよん、だの、は。あな、たが、はじめ、て、です」

「ん、あれ。俺人って言ってた?」

「は、い」

「そっか」


身体が半分くらい妖精なんだということを思い出す。

あちらさんたちにとって自らが住まう森は、家族のようなものであり、それこそお友達のように樹木を扱う。

なるほど、俺も確かに妖精ではあるらしい。

無意識にそう言っているのが証拠である。

ああ、やっとそんな実感がでてきたのか……いや別に実感したいわけではないけれどね?

というか、無意識的に感覚が変わってたのか。んー、いきなり変な行動しないように気を付けないと。


「……もう遅いかなー」


変なところで叫んだりとかしているし……。

ま、それは昔からだ。

変なツッコミとか、自分で自分に入れたりとかたまにある。

――あるよね?


「あな、たは……よう、せい?」

「ん?ん~」


どうなんだろ。

半分人間半分妖精……っていう立ち位置にいる俺は、ぶっちゃけどっちつかずな存在だろうし。

さて。ここで名乗るべきは――どちらでもない、かな。


「うん。俺は―――魔法使い、だよ」

「まほう、つかい!」

「そう!……ま、見習いだけどね」


いやごめん、正確には見習いですらない。

つまり、見習いになる前の卵の、そのまた卵……いやそれって鶏なんじゃ。

こほん。ブートストラップパラドックス……なんて今は関係ありませんね、はい。


「わたし、みえる、まほ、うつか、い。はじ、め、て、みた、です!」

「あれ、そうなの?」

「……まほう、つかい、も。ちがい、あるです」

「そこら辺はシビアだなぁ」


いや、単純な性能っていうよりは適性問題なのかな?

あちらさんをたくさん見えるからって優秀な魔法使いになるとは限らないだろうし、逆に見えなくても調薬などで名を残すような人だっているだろう。


「わた、しが、すがた、かくしてる、のも、あるで、す」

「あ、やっぱ隠れてるんだ。それは……魔法?」

「は、い。……人の、まほうとは、ちがう、ですが」

「あちらさんと人間の魔法は別物なのか」

「わたし、たちの、は。くべつ、ほとんど、ない、です。こうしたい、おもえば、かって、に、なり、ます」

「想うだけで現実にそれが発生するってこと?」


その言葉にうなずくリーフちゃん。

その際に靡いた髪から、また豊かな緑の匂いが漂う。

……うぅむ、いい香り……。

癖になりそうだ。

あ、別に怪しいお薬みたいな臭いしているわけじゃないですからね。

なんというか……森林セラピーのような?

リラックスできるのだ。まあ、香りだけじゃなくて、リーフちゃんの気配とか話し方とか、そういうのもあるんだろうけど。


「いや、この話は関係ない!」

「は、い?」

「うんごめん、何でもないんです……」


また癖が出てしまった。

セルフツッコミもほどほどにしないと。

また変な人だって思われてしまう。


「でも、隠れてるのはもったいないなー」

「な、ぜ?」

「だってこんな美人さんだし。姿現したらいろんな人からきゃーって言われるに違いないよ」


俗にいう黄色い声援というやつである。

声に色があるとは思えないけど、昔から言う言葉だし、きっと見える人には見えるのだろう。

俺には見えたことないけどね。


「おねえ、ちゃん……うう、ん。まつり、も、きれい、よ?」

「あはー微妙な気分ー」


元、男です。

いや心は今でも男のままですよ?

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