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サウザント・ナイト ~謎の異世界転移からの魔法使い生活~  作者: 黒姫双葉
短章第五篇 魔法使いと少女たちのファッションショー
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登壇直前







***







「すごいです、すごい大盛況です!いやぁ、マツリさんありがとうございます!!」

「いや、どう考えても俺だけの力じゃないので。みんなと、後はモデルをしてくれる人たちのおかげですよ」


うん、本当に。

………周りを見渡せば、いつの間にか集まってくれたたくさんのモデルさん達。俺の客寄せパンダ効果もある程度は集客に関わっているというけれど、やはり一番は店員さんを始めとしたみんなの努力だろう。

そもそもとして、お客さんとモデルさんを集めても、それだけのキャパシティを予め用意していなければ何の意味もなかったのだ。

これだけの人数を着付けして、整理して、さらにはモデルとしてランウェイを歩けるだけの最低限の教育と、初心者でも安全にイベントを行えるようにっていう事前の下準備と更には本番での審査―――うん。本当に、仕事をするっていうのは凄いよね。

自由業(魔法使い)なんていう、地球では電波扱いされるような職に就いている俺からすると、こういう仕事をしている人達は眩しいものだ。まあ、人間はみんな眩しいけどね。美しい星天の光は尊ばれるべきだから。


「………開演できるかどうかすら危うかったのに。見てください、垂れ幕の先を」


ちらりと、垂れ幕が開かれてその向こう側が視界に映る。

ネルリアさんの言う通り、大盛況と言っても一切過言ではない程の人数が集まっているのが見えた。双子の騎士も、そして巻き込まれたのだろうアルちゃんも、そして水蓮も―――人の整理に奔走しているのが見えた。

あはは、アルちゃんも割と巻き込まれ体質だよね。まあ、巻き込んだの俺だけどね。あ、水蓮が飽きて余った椿の花で遊び始めた。こらこら。

そんなみんなの姿を見て苦笑すると、ネルリアさんはやや伏し目がちのその瞳を俺に向けた。


「この景色は、あなたが手伝ってくれたからです。あなたの差し伸べてくれた手があったからこそ、こうやって未来が変わったのです。この店のフロアマスターとして、心から感謝を申し上げます」

「んー。未来は変わるものでは無くて、変えるものですよ。正確には、選び取るもの。俺は手を差し伸べてはいませんから。ネルリアさんが、俺の手を選び取ったんです」


だから、この結果は貴女の意思なんですよ?

本質的に、俺は助けてなんていないもの。ただ手伝っただけ。


「それにほら、まだまだイベントはこれからです。始まってすらいないんですから、お礼を言われるには早いです」

「礼節には礼節を返すのは、社会人の礼儀ですから。でも、そうですね………これだけ、皆さんに力を借りていて、大事なところで失敗するなんてあってはいけませんからね!本番も頑張りますよー!!」

「………あはは、やっぱりテンション高い方がネルリアさんらしいかも」


一番最初に俺たちに声をかけてきてくれた時の印象が強いせいだろうね。


「さあさあ、マツリさんはこちらです」

「はーい」


軽く背を押されながら、整列を始めたモデルさん達の列の後ろの方に向かっていく。列といっても、それなりに間隔は空いているけれど。もちろん服が干渉しないように、だろうね。

先頭の方にはシンスちゃんがいたから、手を振っておいた。と、それはともかく。


「なんだろう、視線を感じるような」

「あはは、さっき言ったじゃないですか!マツリさん目当てで来ている人もいるんですから、そりゃあ見られますよ?」

「あー、うーん………注目されるのは慣れないなぁ………」


こればかりは経験が足りていないのです。いや、大舞台に立って役の一人として見られるなら別だけど、俺本体がってなると殆どそんな機会はなかった。

前の世界でもそうだし、こちらに来てからも実はまだ、あまり多くの人と触れ合ってはいなんだよね。ショッピングモールの存在だって今日知ったくらいだもの。

注目の的になるなんて今までなかったから、こういう場合どう対応するべきか悩んでしまうのは仕方のないことだと思います、はい。


「大丈夫です。マツリさんはとても美しいので、堂々と胸を張って、そして微笑めばそれだけで喝采が貰えます。私が保証します」

「褒め千切られてもそれはそれで照れるんですが。というか、どんどん後ろまで行ってません?」

「そりゃそうですよ。貴女は大トリですから。最後尾も最後尾です!」

「えっ、聞いてない」


思わず振り返ってネルリアさんの顔をまじまじと見る。にっこりと微笑まれ、疑問の視線はするりと流された。


「ショーの構成と、なによりもマツリさんの後だとみんな委縮してしまいますから。最後が一番なんですよ」

「委縮って………」

「美人さんの後にランウェイを歩きたがる人はいませんよ。特に、今回のイベントでは皆さん一般の方なんですから。それに、参加してくれている方々もマツリさんがトリを務めるのを期待していると思います」

「そうかなぁ………」


―――まあ、その点に関しては色々と否定したいところもありますが、それはそれだ。

どうであれ俺はこの件に関して素人だし、先ほど定義したようにあくまでもイベントを手伝っているだけの人間である。半分以上人間じゃないのは置いといて、大事なのは意見は出来ても口出しすることは出来ないってことである。

責任者であるネルリアさんの意見がそうだというならば、従うべきだよね。モデルやらファッションショーやらについての経験は、俺にはあまり備わっていないわけだし。

なら、さっさと覚悟を済ませないと。息を吸って………うん、よし。


「分かりました、じゃあ僭越ながらトリを務めさせていただきます」

「はい、お願いします!………あ、それとランウェイから戻ってきた後にちょっとだけやってほしい事があるんですが、いいですか?」

「もちろん。無理のない範囲で、ですけどね」

「無理なことなんて頼みませんよ~、あはは。それで、ですね―――」


そっと耳打ちされた内容に、ちょっと………いや。かなり驚く。

うん、でもまあ結果的にこれだけ人が集まったなら、宣伝チャンスになるかもしれないね。とにかく、俺にとって別に無理なことではないし―――これからの季節にもきっと、ちょうどいいだろう。

恥ずかしいのは継続だけどね。でも、ああ。それ(・・)もある意味ではいい経験になるかもしれない。


「分かりました。では、ランウェイから戻ってきたらネルリアさんのところに向かいます」

「ええ!しっかりとコーディネート致します!」

「あはは………さて。始まりますね」


モデルさん達の列の先。健康的な肉体と服装を纏うシンスちゃんが元気よく先鋒として飛び出ていったのが見えた。ショーが開演したのだ。

無香の椿の魔法、双子の騎士やアルちゃん、水蓮の誘導。シンスちゃんや集まってくれたモデルさん達の協力。

小さな力が集まり、ささやかな幸せを紡ぐ。うん、それはとってもいいことだ。人の幸せとは本来そういう形だった。

成功も失敗もどちらも人生の糧になれど………今回のイベントは、いい結末に向かうことを願うとしましょう。こういう時、俺はもうあまり強く祈れないのがちょっと悲しいけど。一念通ずるほどの祈りは―――下手を打てば、呪いに変わっちゃうから。

だから願うのだ。ささやかに、星を見上げるが如く、祈りに似せて。

さあ、日常を寿ぎましょう。そして背を押しましょう。と、魔法使いらしく意味深に言葉を落としたところで、思いの核心も、音として述べておこうか。つまりは………。


「よーし、楽しむぞ~!」


照れくささもなにもかも、楽しさに変えて、ね!




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