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サウザント・ナイト ~謎の異世界転移からの魔法使い生活~  作者: 黒姫双葉
短章第五篇 魔法使いと少女たちのファッションショー
189/319

イベント準備



***







「何故告知など………」

「騎士の格好をして、尚且つ騎士としての身分、立場を持つ人のする告知が重要だそうですよ、姉さん」

「それは先ほど聞いたが、うーむ。分からん」

「簡単な告知でいいよ。お知らせしまーすって感じ。メインは二人がこのイベントを保証しているっていう事実だからね」


この街では騎士団とは、治安を守る衛士である。

それを前提に考えてみてほしい、お店がこんなイベントを行いますと宣言しただけの物と、治安維持の役割を持つ騎士を伴って告知を行った場合、衆目はどちらをより安全で信頼性の高いものと感じるか。

もちろん後者だよね。祭典のような重要性の高い行事ではないとしても、それでも騎士が後ろのいるというのは多くの人に安心感を与えるものだ。

人を集めるには、人に居てもらわないといけない。そのためには信頼関係が大事なのだ。


「だが、告知をしたところで集まるものか?そもそも私たちの話を聞くものの方が少ないだろう」

「………店先を通る人の量は多いんですけどね。でも興味を持ってもらえるかは難しいところです」


ネルリアさんがぼやいていた。客商売ってなるとその辺りが大変だよね、本当に。

仮に万人が納得する様ないいものを作ったとしても、売り方一つで全然変わるのだから。良い品物をひたむきに作り続ければ報われるというけれど、商いは商いだ。

作り手と共に、売り手の力量というのも関わってくるものである。


「ねえ、魔法使い。そんなことをしてないでさっさと人を集める魔法でも使ったらどうなの。出来るでしょう、貴女なら」

「ん。出来るけど、しないよ?」

「なんでよ、魔法使った方が効率的じゃない。本気で助ける気、ないのかしら?」

「あはは、正確には強力な魔法を使うつもりはないってこと。うん、だから魔法じゃなくて………おまじないだね」


魔法のように明確に効果を持たせるものではなく、ちょっとだけ力を授けるといったような、そんな程度。

当然、アルちゃんの言う通り強力な魔法を使えば、ネルリアさんのイベントは大成功間違いなしだろう。けれど、そうしないのには理由がある。


「なんでも魔法で解決すればいいわけじゃないから。あくまでも魔法は傍に寄り添い、小さく人々を助けるモノ。商売繁盛したいというならば、魔力の輝きで人や金を無理矢理に呼び込むのではなく、呼び込むための知恵を認識させ、そのきっかけを与えるものだからね」


方法、即ち歩き方を助けるのが本来の魔法の在り方だ。攻撃的なものや即物的な効果だっていくらだって付けられるけれど、人助けという点において、そのようなことはするべきではない。

全能の神の手があったとして、難題を何でもかんでも目の前で解決してしまったら、人は努力も成長も忘れてしまうでしょう?

………それに、不用意に魔法を使えばお店側にも迷惑だからね。あのお店は魔法使いの力を使って客を呼び込んだ、とか。魔法に頼れば売り方なんて考えなくてもいい、とか。そういう考えはどこからともなく生まれ、蔓延するものだ。

内からも外からも悪い考え、噂等が立ってしまうようなやり方は、良策とは言えない。まあ、そんな考えは胸の中に仕舞い込み。


「魔法使いの矜持ってやつだよ。導き手であって、解決者じゃないんだ、俺たちは」

「面倒なものね、魔法使いっていうのは」

「魔術師は世の中を便利にするために秘術を扱うけど、魔法はそうじゃないからね。どちらかというと自然そのものの在り方に近い」


流れるままに流転し、時代を泳ぎ、光と共に人々に降り注ぐ。いつか魔法という存在を忘れてしまうまで。

だから絶滅危惧種なんだよ。万能の願望器になれるだけの法則を持ちながら、そうなることを放棄するわけだからね。ま、それはともかく。


「そんなわけで、あくまでも主体は皆だ。俺もモデルとしては協力するし、知恵は出すけど魔法で綺麗に解決ってことはしないから、よろしく」

「そ。ま、いいけど。大変なのは貴女だし」

「マツリ。それで、そのおまじないはどうするつもりなのだ」

「んー、そうだなぁ。水蓮も知っての通り、俺の魔法は薬草魔法だからねぇ」


当然、その方向性だ。

もともとが薬草魔法―――ハーブを用いたそれはおまじないとして使われることの方が多い。身に付けるだけで金運アップしたりとか、煮出し液を用いて恋愛運を高める薬を作ったり。

或いは花や草木を特定の方法で摘むことで、簡単な効能を得たりと様々ある。この世に草花は多いからね。薬草魔法に使われるものは薬草だけでは無く、時には毒草であったり逆に毒としても薬としても効果を持たないものだったりもするから、千差万別の効果を得られる。

真に強い効果を得たいならば、魔力の濃い場所で採集したり、あちらさんの手が触れた物を摘み取ったり、リーフちゃんのような樹木の精が育てた物を貰うのがいいけれど。ああ、専用の道具もいるけどね、その場合は。

今回は、さて。どうだろうか。


「んー」


くるりと周りを見渡す。おまじないであるにせよ、それなりに効果範囲は広げたいものだ。

ならば、あれ(・・)がいいでしょう。


「水蓮、ちょっとお願いがあるんだけど」

「なんだ」

「うん。取ってきてもらいたいものがあるんだ。それなりの量なんだけどね」


背伸びして、水蓮の耳元に語りかける。

彼女は白い髪を揺らして頷くと、「なるほど」と呟いた。


「良い判断だ。すぐに調達してこよう。ちょっと待っていろ」


一歩、足音を鳴らすと水蓮の姿が水に溶ける。その気配はすぐさま遠くを離れ、街中へと散っていった。


「え、消えた………え?」

「あはは、彼女はあちらさん………妖精なんです」

「え?!」


そういえばネルリアさんは普通の人だった。

秘術に触れる機会の多い騎士である双子にシンスちゃん、魔術師であるシルラーズさんにアルテミシア―――アルちゃん。

彼女たちのような人々と接しているし、俺も職業柄あちらさんと触れ合ってばっかりだから忘れてしまうけど、例えこのカーヴィラの街であったとしても、あちらさんと出会う機会っていうのは本来少ないのだ。

驚くのも無理はない。


「………やはり、妖精っていうのは綺麗なんですねぇ」

「そうですね。水蓮は綺麗です」


ちなみにあれで一児の母なんです。いやそれはどうでもいいか、こほん。


「それよりも、魔法使い様」

「マツリでいいですよ」

「じゃあマツリさん。そろそろお着替えの方を………いえ、ローブに帽子も似合ってはいるのですが、やはりうちの製品を着て貰いたいのです。マツリさんもあの妖精の水蓮さんに負けないくらいに綺麗ですから!なに、全部任せてください、完ッ璧にコーディネートしますので!」


ああ、この人は服が好きなんだな、きっと。

だからこんなにも一生懸命になれる。うん、その想い、その意思は良い事だ。


「はい。じゃあ、お願いします」


淡く微笑んで、被っていた帽子を預けた。


「あ、待って私もいくー!」


途中で同じくモデル側であるシンスちゃんも合流すると、俺たちは新たに設けられたイベント用の試着室へと入っていったのだった。




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[一言] すごくマツリちゃんらしい
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