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サウザント・ナイト ~謎の異世界転移からの魔法使い生活~  作者: 黒姫双葉
短章第五篇 魔法使いと少女たちのファッションショー
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ファッションショー?





「可愛らしさと、素直さと………マツリさんの魅力を最大限生かす服装………難しいものです」

「なんでも似合うから尚更にいやらしいのよね、そこの魔法使いは」

「いいんじゃない?女の子としては、服が似合わないより似合う方が良いじゃん」


皆の会話に参加する暇もなく、カーテンが閉じられる。そして、目の前に差し出された服装はセーラー服にも似た………というか殆どそれそのもの………服装だった。あれ、ここはコスプレ衣装取り扱い店かな?

シルラーズさんの家で着たメイド服は、親衛騎士である双子やシンスちゃんが纏うようにメイド服をベースにしていたり、そもそもメイド自体が存在していたりと、あくまでも服としては丈夫で安価な実用的なものだけど、この制服に関しては意味が分からない。


「流石に、これは………」

「おい………そういう系の売春宿でしか見ないものだぞ、なんでこんなものが売っているんだ」

「騎士様、なんで知ってるのよ」

「摘発するときに見たことがある」


アングラな話だなぁ。そういえばカーヴィラの街では娼婦というのはみない。夜でも治安がいいし、その理由はミールちゃんを始めとした騎士、衛士の皆が治安維持に努めているからなのだろう。

うん、俺は知っているよ。ここにいる三人の騎士が携える剣が、只の飾りでは無いことを。俺自身が何度も守られているからね。

ま、娼婦というのも決して悪いだけの存在ではないとだけ補足しておくけどね。確かに身売りした人がいたり、病や薬等、治安悪化の原因となることもあるけど、世界最古の職業と呼ばれるそれは確かに人の心を維持するには一定数は必要なのだろう。

夜鷹は嘲られ、高級娼婦は崇拝される―――その構造は、まあ。褒められはしないけれど。それでもそれらも含めて人の世だ、俺には否定も肯定も難しい。と、話が飛んだかな。


「あの、お客様………」


そんな風にして、腕を組んで余計なことを考えているとどこからかから声がかかる。声の方を向けば、眼鏡を掛けた肩までの茶髪の女性が、俺たちの方をじっとみていた。

うん、浮かべる表情が困り顔ではないというのが不思議。匂い的に、期待が半分以上を占めているのは何故なのだろう。

心の中で首を傾げつつ、セーラー服を手に持ったまま店員さんの返事を返した。


「どうしました?あ、試着室占拠しすぎですか?」

「いえいえ、当店は試着室は多めに用意していますので、一つを長時間使用されているだけでしたら問題は………いえいえいえいえ、そうではなく。あの、ちょっと、頼みごとがあるのですが………」

「ん。シンス、お願い」

「はいはーい。お姉さん、何か困りごと?何でも言ってみて、これでも私たちは騎士だからね!解決できるとは思うよ!」


言いにくそうな店員さんの様子を察して、ミーアちゃんがシンスちゃんに対応を任せた。シンスちゃんの方も任せられたことをすぐにやり始めているあたり、お互いの考えが分かっているのだろう。

シンスちゃんは人と話すのが本当に得意なんだなぁ。今だって初対面の筈の店員さんと物怖じもせず、楽しげに話している。


「困りごと、というのは違うのですが………」

「じゃ、お願い事?犬探しも請け負ってるよ~」

「本職ではないがな………」

「いいじゃんミール。平和なのは良いことだよ。それで?」

「今、春の大売り出しの真っ最中でして」


そういえば、と周りを見る。小さなのぼりが幾つも飾られた店内には、確かに大売出しの文字があった。

………ちょっとのぼりが小さいかなぁ。言われなければ気が付かない程に分かり難い。

そんな俺の視線に気が付いたのだろうか、店員さんが苦笑気味に補足した。


「あまり大々的に行うと下品に見えると、オーナーが………。オーナーの意向は”オートクチュールにも負けない製品を、格式高く売ること”でして………あはは………」

「それは………大変そうですね」


オートクチュール。即ち、オーダーメイド専門の最高級店。

この服屋さんは刺繍やレースを用いた服も売っているが、それよりは大量生産の可能な製品の方が多い。現代に近い服装なども多いけど、それは多分魔法の道具を使っているからだね。

自動で動く機織り機とかも高いけれど、存在しているしものすごく貴重というわけでは無い。企業ならば買うことも出来る。

そういう自動の魔法道具を使用して量産したからこそ、多くの品物は普通の人が手が届く値段で提供できているわけだけど………それでも、すべて手作業、或いは魔法道具を手の仕事を補佐する形で扱うオートクチュールにはその品質では敵わない。

当たり前だ、向こうはその品質の良さが売りなのだから。量産の品で追い付けてしまえば、オートクチュールという店舗形態は絶滅する。

代わりに、量産品を扱う店は安さと、その物量による大々的な広告、広報が武器である。実物が多いというのはそれだけ人の目に触れる機会が多く、販売路線を拡大させることが出来るから。

でも、格式高く売ることを命令されているのでは、その大々的な広告というやつは使えない………かといって、いくらいい魔法道具を使ったところで、量産可能なもので職人のオーダーメイド品に勝てはしないだろう。はい、苦笑するわけですね、これは。


「そうなんです、大変なんです………売りたいけど、売れない………売る方法を制限されているせいで、満足な成果が得られていないんです………」

「どこの世界にも企業内の軋轢ってあるものだねぇ………」


いえ、俺は知らないんですけどね。前の世界では労働経験ないので。でも、知識さん………もとい、”魔女の知識”はその情報をくれるのだ。なんでこんなことまで知ってるんだろう、この知識の集合体。


「このままでは目標の半分以下………確実に、フロアマスターの首が飛びます」

「労働組合って………ないんですか?」

「ははは。なんですか、それ」


労働組合が最初に歴史に登場したのって、確か十八世紀―――産業革命の時代だったっけ。

神秘が色濃く残るこの世界、既に魔力で動く列車があったりはするけれど、人の思考はそこまでは進みきっていないらしい。

ま、蒸気機関があるといっても、あくまでのこの世界は魔法や魔術主体の秘術文明が主体だ。科学も発展はしているけれど、俺の世界よりは緩やかである。

科学文明は基本、大量生産大量消費。そのため、労働力として大量の人間が必要で、その人間の生活を維持するためにまた職が生まれる。産業革命の時代はまさにこれだった。

多くの人が集まり、そして消費される道具にならないために生まれたのが組合であるが………うん。この世界の文明、つまり秘術文明はそこまでの消費文明に至っていないので、その発想は生まれていないのだろう。

消費文明になれば真っ先に使われるのは樹木だ。しかし、この世界では旧き龍やあちらさん等々、森林には強力な神秘性と実力を持つ隣人たちがいる。潤沢な木材資源を自由に使えない以上、科学に振り切ることは難しい。

樹木っていうのは、結局重要な材料なのだ。祖国日本では林業は廃れているけど、それでも樹木は使っているし、使うために輸入していた。まったく樹を使わないなんてことは、現代を構成する文明では不可能だった。


「それで、私たちへの頼み事っていうのは売上に貢献してくれってことかな?まあ、買うつもりではあるけど、でも首を繋げるような金額はちょっと出せないかなぁ………。マツリちゃんの懐次第だけど」

「お金に余裕がありまくるとは言えないよ。不定期労働だからね」

「いえいえ、そういうことでは無くてですね。いくらオーナーが阿保………こほん。現実が見えておらず使えないからといって、黙って首を飛ばされる気はありません。交渉の末、品位を落とさない程度なら、売り出すためのイベントをやってもいいと、言質を勝ち取ったのです!」

「………まだ阿呆だけの方がよかったんじゃないかしら、それ」


アルちゃんが冷静に突っ込んでいた。うん、まあ………ノーコメント。


「成程。イベント、とは」

「あまり大規模なものだと、勝手に開催というのは難しいぞ。祭典となれば人も集まる、騎士団への許可も必要だ」

「その辺りは問題ありません。このショッピングモール内、それも当店の店舗敷地内だけですので。………大丈夫、ですよね?」

「ふむ。ミーア、どうだったか」

「一店舗の敷地内で行う程度でしたら問題はないですね。報告の義務もありません」

「………人間というのは一々面倒だな。しきたりやら法規(ルール)やら」

「人が人であるためには、ある程度の規則がいるんだよ、水蓮」


タガが外れれば獣となる。法律、法規―――法と呼ばれるものはそれを抑えるための首枷であり、人の世を人として生きるならば守らなくてはならない理だ。


「後は内容かー。破廉恥なやつだと止められるけど、どうかな?」

「そういうのはオーナー的に駄目なので………」

「というか、何をやるのよ。それが分からないと決めようがないでしょ」

「あ、はい。えっと、当店は―――」


眼鏡を直しつつ、店員さんが唇を開いた。





「ファッションショーを行いたいと思っているのです」





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― 新着の感想 ―
[一言] 美女美少女しかいないから、出て欲しいってことかな
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