贈り物
……なんだろ、かわいい。
いや、雰囲気も立場的なものからもこんな感想を抱くのは間違っていることは分かるのだが。
そういえば、プーカやそれに近いとされる妖精たちは、様々なものに変化できる――それこそ、人間にも変化することができるけど、何故か人の姿をとった際に、耳だけは隠すことができないのだったか。
――はて、俺はここまで妖精に詳しかっただろうか?まあいいかな、知識がある分には便利だし。
取り合えず耳に触ろうとしてみる……避けられた。
「我ら人に化けるのは苦手でな」
「にがてー」「ぷーかはにがてー」
「ピクシーの言う通り得意なものもいるがな。我は苦手なのだ」
そこはあちらさんの種類に応じて、といったところか。
話聞く限り、たくさんいるみたいだからね。
「このように一部分獣の姿が残ってしまう。許せ」
「いえいえー可愛いからむしろオッケー」
「……む?」
「あれ?」
可愛いという表現がよくわからないご様子。
首を傾げられてしまった。ついでに耳が横に垂れる。かわいい。
「まあいいか」
人間と妖精との感性の違い、というやつだろう、たぶん。
種族が違うのだ、そこらへんも変わってくるのは当たり前。
ああ、妖精じゃない、あちらさん……まだ慣れないな。
「ところで何をしに来たの?」
「なんだ。我らが同胞の目覚めに対し、顔を合わせに来るのはそれほどおかしいことか?」
「いやいや、まさか」
親戚がお見舞いに来てくれたようです。
―――違うか。
似たようなものではあると思うけどね?
「ところで同胞ってさっきから俺のこと言ってるんだよね。シルラーズさんも俺の身体はみんなに近いって言ってたけど」
「その通りだ。卑しき魔女によって犯されたその身体は、しかして我らのものと同じ。ゆえに我らが同胞である」
「魔女に浸食されているっていうのは普通なら同類扱いされて嫌ってもおかしくないのでは……」
「なんだ、それは?」
また首を傾げました。かわいい。
……あちらさんは本当に人とは感性や価値観が違うんだなー。
人よりもずっとシンプルに世界を見ているのだろうか。
隣人、と呼ばれる、人間に近い彼らですらこれほどに人と精神性が違うというのであれば、神様のような存在である旧き龍は一体どれほど人離れした精神構造なのか……。
不安が尽きないなぁ……。
「ま、それはいっか」
不安はあるにしろ、それは別の機会に消化すればいいだけのこと。
それよりも、今は初めて俺に会いに来てくれたあちらさんたちとの仲を深めようじゃないか!
「プーカの周りにいる仔たちって、ピクシー……であってるんだよね?」
「あってるー」「わたしたちはピクシー!」
「個別に名前が合ったりとかするの?」
「ないよー」「ピクシーはピクシー」「わたしたちはおなじものー」
「極一部を除きピクシーには個の概念も上下関係もない。要らぬ物ゆえな」
そういえばピクシーとは妖精パックに数であるsがつき、パクシー……ピクシーと呼ばれるようになったんだっけ。
あ、これは前のセカイの知識ね。
とどのつまり、言いたいことはピクシーは群体のとくせいをもつ妖精だということだ。
……まあよく見れば違いがあるような気もするけど、名前はいらないみたいだし、気にしないでおこう。
「我ら妖精の中でも最も多く在り、人間が持つ妖精の概念を象徴するものだ」
「ほめられたー?」「がいねんー」
「あはは……」
ピクシー二人が両手を繋ぎ、俺の周りを回転しながら踊り始めた。
これがピクシーの踊りか……。
……飛んでいるだけあって、俺がやったら気分悪くなりそう。
「……ふ。元気そうで何よりだ」
「からだもすぐなおるねー」「さわってなおしてあげるー」
「あ、ありがと。……ってくすぐったいって!」
数体のピクシーが俺の身体をつつく。
確かにエネルギー的なものが体に入ってきている気はするけど、何とも言えないくすぐったさがある。
……あ、わき腹はやめてください?
「往くぞ、ピクシー。あまり長居すると紅の魔術師が煩い」
「はいー」「はーい」「はいはーい」
「あら、もういっちゃうの」
「顔は見た。調子も見た。用事は済んだ」
「もう少しおしゃべりしてくれると俺はうれしいよ」
「その眠そうな顔でなければいくらでも付き合おう」
「……ばれてた?」
「今にも寝そうなほど、だということは理解している。休むがいい、同胞よ」
人が居なくなって気が抜けたのか、再度強い眠気が襲ってきていたのだろう。
今は何とか起きている状況である……半分くらい夢見心地だ。
それを察してくれたみたい。いや単純にそれだけ眠いのが顔に出ているのかな。
だけど、プーカが去る前に一つだけ言っておかないと。
「プーカ、ちょっといい?」
「何だ、同胞」
「俺はマツリ。同胞じゃ味気ないでしょ……ね?」
「……なるほど。肯定。ふ、これからもよろしくするぞ、マツリ」
中に浮かんだままこちらを振り返り、一流のバレリーナですら惚れ惚れするくらい綺麗な一礼を見せると、そのまま虚空にすっと消えた。
……なんでレヴェランスなんて知っているのだろう?
バレエに詳しいのだろうか。単純に嗜好ですかね。
ちょっと礼がしやすいように崩してあるみたいだけど、それでも高い完成度だった。
また、見たいものです―――。
「とりあえず……お休み」
誰に聞かせるでもなく、独り言。
でも、答えてくれた気がして……もう一度布団に潜り込んだのだった。
「―――魔法を識る時に、また会おう」
そっと。右手に、何かを渡された気がした。
***
「……んー?」
気がついたら朝方。
カーテンが閉まっているとはいえ、朝日は目に染みる。
しかしもう少しだけ微睡んでいたいので布団を頭にかぶって日光から逃げていると、なにやらドタバタとこちらに走ってくる音がした。
……なんだろ?まあいっか。もう少し寝ていよ――――
「マツリ君!学院の結界がボロボロだが何か心当たりがあるかね?!」
「わぁ学院長おはようございま……くぅ」
「おい寝るんじゃない」
布団をひっぺ替えされた。返して―。
「……その手にあるものは何だ」
「はい……?」
そういえば右手に何かを握っている感触。
確か俺が寝る直前……あ、二回目の方ね。
その時になにか感触があった気はしていたけど。
――なんだろ、これ。
手触りは滑らかな樹木といった感じだ。
……感じというか、樹木だねこれ。
かなり丁寧に、さらに時間をかけて作られているのか、目隠しされた状態で触ればわからないかもしれない。
見れば木目あるし、一目瞭然。
樹を見るに、これは――オークかな。
「オークの木で作られた道具です!」
「……」
あ、はい、詳しく述べろと目が言って居ました。「……えぇっとこれは……」
パイプ、だろうか。
うん、パイプだ。西洋で、シャーロックホームズなどが銜えているあれである。
ただし、すごく長かった。
よくこれを握ったまま寝ていられたな俺、というくらいに長い物であった。
小柄な今の俺の身体とはいえ、身体の半分はあるパイプ……あまり詳しくはないけど、チャーチワーデンという種類のパイプに分類されるのだろう。
ただ、長いのが特徴なチャーチワーデンよりも長い。さっきも言ったが俺の身体の半分くらいだからね、これ。普通に握って持てるレベル。
どっかの画家の自画像レベルに長いものだ。しかもストレート形状に近い。
よく見ると茨のような模様があった。俺の身体にある三脚巴に似ている気がしないでもない。
ほかにもいろいろと細かい装飾があるが、それ以上詳しくは俺にはわからないかな。分かるものといえば、パイプの口を付ける所、そのちょっとしたあたりに、握りやすいようになっている部分があることくらいか。
あ、その上に宝石がある。綺麗だな。
「パイプです!」
「そうだな。……さてここからが本題だが、それは誰にもらったものだ」
「えっと、プーカから」
「……はぁ……あいつめ、余計な仕事を増やしてくれたな」
「?」