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毒の騎士


枝の剣を手にしたミーアちゃんがシンスちゃんの応援に向かう。

その動きに気が付いた盗賊がシンスちゃんを警戒しつつも応戦しようと動き出した。錆びた剣を大きく振りかぶり、叩きつけるようにしてミーアちゃんに攻撃を行うが、


「邪魔」


枝の剣で錆びた剣に触れると、剣が腐食し溶け落ちる。

しなる剣先で軽く盗賊の頬を叩くと、それだけで盗賊は痙攣し、崩れ落ちた。


「死にはしません。三日ほど起き上がることは出来ないでしょうが」


あの枝の剣、ミーアちゃんの血の性質を抑制、変換しているのか。本当に杖なんだなぁ。

あれを使う限りはミーアちゃんが殺そうという意思を持たない限りは、血の力で人を害することは無い。完全に制御下に置けるからね。

逆にいえば、ミーアちゃんは潜在的には血の力を自在に操る可能性を秘めているということでもあるんだけど、そもそもが人間からは逸脱している力だから完全に使いこなすには相当な時間が必要だろう。

手袋や枝の剣で制御できているだけで寧ろ凄いことなのである。


「なんだ、こいつ………?!」

「馬鹿野郎、魔女の街の穢れた毒騎士だ!近づくな!!」

「あははー、カーミラ様は魔女じゃないよ?それにミーアは毒を吐くけど、穢れてなんてない」


シンスちゃんの剣の速度が増した。

親愛と共に、怒りの匂いを感じる。親衛騎士団は仲がいいね、本当の家族のようだ。


「シンス。手伝う」

「よろしく!」


ミーアちゃんが相手の武装を的確に破壊し、その隙をついてシンスちゃんが動きを無力化。何度もそうして戦っているのだろう、動きには無駄がなく、意思疎通が非常にスムーズに出来ているのが分かった。


「私の出番ないじゃない。ま、いいことだけど。触媒だって安くないし」

「あはは………」


片手サイズの杖を手にしながら、ミーシェちゃんが俺の隣にやってくる。その杖には幾つかの加護を与える呪文ともう一つ、恐らくはこの子の本名と思われる名前が刻まれていた。

アナグラムなのか或いは暗号なのか、通常の文字形態ではないから読めなかったけどね。


「畜生が、形勢が悪いな………テメェら、足止めしてろ!!俺たちは基地に戻ってもっと強力な武器を持ってくる!!!」

「え、無理っすよ―――!!」

「ああ?!ここで全滅するよりマシだろうが!それとも捕まって首を撥ねられてぇのか!」

「ぐ………」


まあ、結構な重罪を働いているわけだからもしかしたらそういう処遇もあるかもしれないけど、少なくとも上司が言うことでは無くない、それ?


「阿保らしいわ。さっさと終わりにして欲しいわね………『ラオフェン』」


ミーシェちゃん指を鳴らす。残響は長く続き、音に呼応してミーシェちゃんの纏っているローブの内側から四つの呪的な力が籠められた刀剣が現れた。

宙に浮く、水晶のように透き通る刃のそれは、魔術によって形作られた道具だ。


「エアスト、ツヴァイトは待機、ドリット、フィーアトはあの盗賊団の纏め役に突撃しなさい」


金属同士が衝突する様な音を響かせながら、ミーシェちゃんの命令を受けた刃が動き出す。あ、すごい。動きがかなり早い。

踊る刃が盗賊団の頭目に迫り、進行ルートを妨害した。


「殺していいの?」

「一応捕縛で………」

「そ。仕方ないわね」


もう一度指を鳴らすと、刀剣の形が切り替わり、円環のような形状へと変化した。液状金属というわけでは無くて、これは多分機会みたいになっているんだと思う。

つまり、完全なる可変構造―――え。なにそれものすっごくかっこいい!

ロボットが形態変化するってことだよね、男のロマンだよそれ!もう俺男じゃないけど、その憧れは健在なのだ!


「おぉー………おおおー………」

「なによ、ヘンな目線向けないでよね………まあいいわ。『拘束』!」

「糞魔術師がァァァ!!―――おい、盾になれ!!!」

「はあ?!何を言ってんだ!」

「一瞬でいい!一瞬あれば………糞が!!」


ミーシェちゃんの魔術を前にして、逃走しようとしていた盗賊の幹部たちが言い合いをしているのが分かった。何を言っているのかまでは聞こえないけどね。


「仲間割れかしら?ま、纏めて捕まえちゃえばいいことよね」


円環剣が二回りほど大きくなり、幹部たち全員を捕らえられるほどの規模へと変わる。

もう一つの剣は盗賊の動きを警戒して剣の姿のまま、周囲を漂っていた。


「いいか、基地に戻ればあいつ(・・・)と連絡が付く!俺が戻れば、お前らも纏めて連れ戻せる道具を持ってこれる!そして戻る方法は俺が持ってる!!分かんだろうが、ここで俺が捕まったら終わりなんだよ!!」

「全員で戻れないのかよ!!??」

「知るか、使ったことなんて無ぇ!!だが、使うまでに十秒くらいかかるってあいつが言ってた!!」

「―――ッチ。次に捕まえた女は俺が優先的に使わせてもらうからな!!」


言い合いが終わったのだろう、幹部たちの一人がミーシェちゃんの剣に向かって突撃する。手には魔弾を撃つための銃砲が。

魔弾はもうないけれど………あ、待って。そういうことか!


「ミーシェちゃん、ストップ!剣を戻して!」

「はぁ?なんでよ」

「魔弾と同じ材質で作られている銃剣が取り付けられてる!魔術を壊されるよ!」


魔弾よりは効力は落ちているようだが、それでも魔術破壊の呪いは健在だ。不用意に触れるのは危険すぎる。


「―――ッ!ムカつくわね、どこのどいつよ!こんな盗賊団如きに魔弾なんて与えたのは!」


それは俺もとっても知りたいところだけど、今は魔術を戻すのが先だ。高度な魔術を破壊されると呪い返しが強すぎる、ここでミーシェちゃんまで戦闘不能になるのは流石にまずい。

なにか策があるようだから、ここで確実に止めておきたかったけど、背に腹は代えられないよね!安全第一!

指を鳴らし、ミーシェちゃんの剣の魔術が盗賊幹部たちから離れていった。


「ははッ!!!魔術を退かせやがった、いいぞ!!………さーて、確か使い方はこうだったか、『渡り烏の叫び声!呪い渦巻く壊魔の道』―――ッうお?!」

「………転移魔術、いや転移魔法?」

「ただの道具による転移ですって!?どこまでふざければ!」

「いや、あれは―――魔法として不完全だ」


頭目が黒い水晶玉を地面に投げ付けると、黒霧が渦巻く。

渦潮のように幹部たち全員を纏めて飲み込んだその霧はしかし、途中で色を赤く染めていく。

本来、魔法使いやあちらさんが転移する際に使う妖精の通り道、フェアリーサークルは維持するのが非常に難しいとシルラーズさんが言っていた。

特に一般人を通らせるのは難易度が高い。特に大人が複数ともなれば、あちらさんが取り換え児(チェンジリング)をする際とは全く条件が違う。………でも、生贄を使えば話は別だ。

人ひとり分の血の匂いが、遠くにいる筈の俺の元まで漂ってきた。


「転移に足りない魔力を………人を喰って確保しているの………?」

「そうみたいだね、なんとも呪いじみた魔法だよ」


………奇蹟とは程遠い。

黒霧の渦が止んだ後には、ぐちゃぐちゃになった幹部の一人の死体が転がっていた。

片手は何度も折れ曲がり、もう一方の手は捻じ切れて地面に落下していた。

頭目は転移を成功したらしい―――うん。一度見たからね、もう見逃さないよ。


「居場所分かるのよね魔法使い、さっさと道を教えなさい!流石にこんなとんでもない事をしでかすやつら、放ってはおけないわよ!」

「うん、分かってる。早く追いかけよう」


騎士たちの方を見れば、全員の無力化に成功していた。

丁寧にミーアちゃんが枝で盗賊たちを撫で、完全に気絶させている。あれなら放っておいても後ろから刺されることは無いだろう。


「お二人さん、大丈夫?」

「はい、問題ありません」

「まだまだいけるよ~」


流石、領主を守る親衛騎士団だ。盗賊相手じゃ疲れすら感じていない。次は傍らで座っている水蓮に視線を向けた。

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