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いざ、盗賊退治へ





***







「………っ、って。あー、もう朝か………」


汗で額に張り付いている髪を剥がし、同じく汗ばんで肌と密着している服を軽く扇ぐ。

目を覚ませば俺の視界が映し出すのは、水蓮と共に眠った森の中の景色だ。うん、寝る前はこんなだった。時刻の差があるからもうちょっと暗かったけど。今は少し明るくなっている。

それはそれとして。


「あー………うー………」


本当なら見てはいけない他人の記憶を覗いたことにまず落ち込みました、はい。

ミーアちゃんの夢。それもただの記憶整理のためのものではなく、深く心の底に根付いた記憶の情景を覗き見るなんて駄目だよなぁ………。


「マツリ。………おい、お前何を落ち込んでいるのだ」

「え?あー、ちょっと夢見が悪くて………」

「………弱るほど無茶をするからそうなるのだろう」

「君には言われたくないなあ、それ………まあ事実なんだけどさあ」


水蓮も大分無理をする質なので一方的に駄目だぞーなんていわれても盛大なブーメランだからね、と。


「はー、ふーう」

「あまり見たくない夢だったようだな」

「うん。まだ俺が見るには早い夢だった」

「………気にしすぎるな。お前はなんでも抱え込み過ぎる。お人好しすぎだ、馬鹿者」


乱暴に俺の頭が水蓮によって撫でまわされた。ぐるぐるとその動きになすがままにされていると、小さく欠伸が出る。


「眠いのか」

「うん………まあ、夢の世界を漂っている間は休んでるって感じしないからねぇ」


あと作戦実行のために朝早く起きてるっていうのもあるんだけど。

一応睡眠時間は長くとったんだけど、結局は身体の調子の方はあまり良いとは言えないね。それでも発案者として席を外すわけにはいかないので。


「ご飯食べたら、出発しようか」


とりあえずは気分を切り替えて、この盗賊団事件の方に意識を集中させるとしましょうか。






***







「おはようございます、マツリさん。………寝つきが良くなかったのですか?顔色が少し悪いです」

「おはよ、ミーアちゃん。寝つきが悪いというか、夢見が悪いというか………まあ、気にしないで」


集合場所である駅まで来ると、既にミーアちゃんとシンスちゃんが待っていてくれた。シンスちゃんの方は目元を擦っており眠そうなのが見て取れるけど。

眠いのは俺も同じなのでちょっと親近感。


「あとはミーシェちゃんだけだね」

「はい、そうですね」

「んー、ねむねむ………」


眠気の取れる薬草などは流石に今は持ち歩いていないし、だからといって眠そうなシンスちゃんに無理矢理目を覚まさせる魔法をかけるのもあれだし………ということで、欠伸している様子をじっと見守ることにする。

右手の消毒液の香りを漂わせる包帯は相変わらず巻かれているようだ。


「んー、どしたのマツリちゃん」

「ううん。なんでもないよ。ただ、眠そうだなぁって」

「いやぁ眠い眠い………私、朝弱いんだよね………」

「シンスはいつも寝坊してる」

「その度にミーアが起こしてくれるけどね~。いつも助かっておりますミーア様………」


手を合わせ、ミーアちゃんを崇め始めたシンスちゃんに苦笑すると、背後から足音が聞こえた。


「なにやってるのよ、あなたたち」

「あ、ミーシェちゃん。おはよー」

「ええおはよう。………ごく自然に挨拶してこないでよ、貴女と私は仲良くないんだから」

「えー?」


俺的には結構仲がいいと思ってたんだけどなぁ。

まあそれはさておき、きっちりと全員集合したところで作戦開始と行きますか。


「じゃ、みんな。気を付けようね」

「マツリさんが一番気を付けてください」

「あはは、ほんとにね~」

「言われるまでもないわ。………ところであの妖精はどこに行ったのよ」


水蓮の姿が見えないことにミーシェちゃんが気が付いたようだ。別に教えても問題ないので、すっと俺の影を指さす。

一瞬影に波紋が奔り、揺れ動くのが見えた。

それを見てミーシェちゃんは俺の影の中に水蓮が隠れていることを察したようだ。


「なんだ、隠れてるの」

「列車の中に入れば出てくると思うけどね。朝で人が少ないといっても、街中で魔法も何も使わずに歩くのは嫌がるから」


俺の身体を基にしたと言っている水蓮の人間体は、元にされてる俺が言うのもなんだけどかなりの美人さんだから人の目を集めるんだよね。

で、基本的に人嫌いを自認している水蓮はそれが嫌なので、今回の移動中は俺の影の中に避難しているというわけでした、はい。

便利だよね、影の中って。まあ純粋な人間を隠すのは難しいんだけど。頑張ればできないことは無いけどね………弱っている今は無理だけど。


「マツリさん、そしてシキュラーの魔術師様。列車が到着しました」

「はーい、今行くよー。よし、じゃあミーシェちゃん………よろしくね」

「―――はいはい。よろしく」


つっけんどんなミーシェちゃんにそれでも笑いかけながら駅舎へと入っていく。

中に入れば黒い鋼鉄の塊………蒸気機関を搭載した車両が俺たちを待っていた。

昨日も言っていた通り、先頭の機関車とは別に貨物を運ぶための荷台車が三両連結されており、俺たちはその中に潜り込むわけだ。一応、相手に魔法使いか魔術師がいるということを考慮してミーシェちゃんに透視除けの魔術をかけて貰っている。

囮だとばれたら困るからね。ちなみに透視除けなのは、相手の腕前が分からないからです。幻覚で財宝を作るのでは、相手の力量次第で見破られちゃうからね。


「じゃあ俺は先頭車両側に乗るね。ミーシェちゃんと………あとシンスちゃん。二人は後ろをお願い」

「はいはーい。じゃ、ミーア気を付けてね」

「………私はあなたの方が心配」

「え、なんで?」

「お馬鹿だから。無理しないでよ、シンス」

「うん、大丈夫大丈夫~」


二人のそのやり取りにくすりと笑うと、ミーシェちゃんの隣に移動して小さく呟いた。


「本当に―――シンスちゃんを、そしてミーアちゃんをお願いね」

「………ねえ、貴女。何か隠してない?」

「ううん、なにも。ただ、嫌な予感がするだけだよ」


まあその予感はだいぶ前から感じているんだけど、そこまではいわなくてもいいよね。

帽子のつばを下に降ろし、ミーシェちゃんに手を振るとみんなより一足先に列車の中に乗り込む。意外と狭い、内装は木造のものとなっている貨物室にぽふりと座ると、俺の影から水蓮が飛び出してきた。


「あれ、もういいの?」

「人目もなくなった。魔術師も消えた。影の中に潜む理由もない」

「でもミーアちゃんくるよ?」

「………む」


あ、ちょっと渋い顔した。

昨日言いすぎたことは水蓮自身も良くないことだって自覚している証拠だろう。というか、本当にあの言葉は水蓮自身をも抉っているから………辛いのは本人も同じだろうにね。

なんだかんだ言ってこの仔は人に甘いんだよなぁ。


「お待たせしました、マツリさん………っ」

「………なんだ。文句でもあるのか」

「いえ。なんでもありません」


表情が凍り付いたミーアちゃんが、凍り付いたまま俺の隣に腰を下ろす。うん、普通に険悪ですね?

仕方ないとは思うけどさ。

取りあえず二人に挟まれている感じなので、ちょっと居心地がね、あれだよね、うん。


「仲良くね、二人とも………」

「遠縁次第だ」

「善処します」

「………ですよねぇ」


苦笑いすると、前の車両から汽笛の音が聞こえた。出発の合図だろう。

この機関車の運転室には人間がおらず、魔術で作られたゴーレムによって自動操縦がなされているらしいけれど、本当に秘術をうまく使っているなぁって感心する。

蒸気機関車の運転室って、かなり過酷だからね………なにせ火室に石炭を放り込む作業が必須なのだから。

もしかしたらこの世界の、特にこの街の蒸気機関車はそんなことしていないかもしれないけれど、直接見てはいないから何とも言えない。あとでこっそり覗こうかな。


「あ。動き出した」


そんなことを考えていたらゆっくりと列車が動き始めた。窓がないから外が見えないのは残念だけど―――さて。

じゃあ、盗賊退治………頑張るぞー!

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[一言] この二人仲良くなる日は来るのだろうか
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