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彷徨う夢の中



俺が知っているミーアちゃんよりも、幼い子供の姿のミーアちゃんはショートヘアーで髪を束ねておらず、そしてその手に手袋をつけていなかった。

近くには誰もいない。ミールちゃんの姿もないようだ。

まあ、あくまでもこれは夢の中なので急に人が現れたり、逆に消えたりするんだけどね。

………あと、ミーアちゃんがいるからと言って決して、これがミーアちゃんの夢だとも限らない。

かつて泣き女のあちらさん、シェーンと邂逅した際に俺に夢を見せたのが、オネイルズという魔法使いの男性であったようにね。


「でもまあ、なにもしないのもね。………こんにちは、俺のこと見えてる?」

「………」

「あははー、駄目かー」


どうやら俺はこの世界の中では本当に傍観者でしかないらしい。

これは、本当の意味で夢に迷い込んだだけなんだろうなぁ。なにか目的や、俺に特定の事柄を伝える意図や逆に害する意思があれば、どうであれ俺は夢の世界で何もしない存在としてはいられなくなる。

見ること自体が目的なら別として。


「―――ね、君!一人なの?じゃ、一緒に遊ぼう!」


そんなことを考えていると、とても元気な声が俺の耳へと入ってくる。

夢が動き出したようだ。これは現実の誰かの夢に、俺の精神が潜り込んでしまっている状態なので夢の動き、流れには逆らえないのだ。

そして、夢は停滞せずに常に動き続けるため、夢の内容を理解したいのであればきちんと状況を追いかけていかないとよく分からなくなってしまう。動き続けるといっても、情報が連続的に………つまりは物語としてきちんと動いてくれるとは限らないためだ。

ほら、あるよね。

直前まで影も形も全然なかった謎地形、謎人物が出現したりとかさ。それどころ夢自体が切り替わったり、シーンの変化があったり。

もしも、そんな風に変わってしまっても前後の流れを理解していれば付いていける。というか最低限の情報は入手できる。

魔法を使えば流れの向きもある程度は変えられるんだけどね。今の俺にはちょっと無理かなぁ。

と。それよりも声の主に意識を向けないと。


「………あれ?」


声の方を振り返ってみるも、おやおや?

不思議なことに、顔のあたりが不鮮明にぼやけていた。

んー、これは夢の主が声の主をよく覚えていないってことかな?或いは―――思い出したくない、とか。


「い、いいよ………私、その………」

「どうしたの?早く行こうよ!」


若干、日に焼けた手が幼いミーアちゃんの手を掴む。

その手を見て驚いたミーアちゃんは、背後を少々気にした後に、結局少女の圧に負けて引っ張られていった。

向かう先は森の中。

街の西側に広がる翠蓋の森や、俺の家の近く………町の南に存在している妖精の森とは違うから、多分これは街の北側か、東側にある黒い森の一部だろう。いや、東側の森は線路があるだろうから、北側かな?

街の人が普通に薬草摘みとかに行くなら北の森が一番近いし安全だ。妖精の森は色々と危ないし、翠蓋の森はそもそも普通の人は入れないし。

でも、その森が子供たちの遊び場になっているのは知らなかったな。

危なそうにも思えるけど、でも現代と違って電子機器もなければ街の中に遊具も少ないので、確かに遊び場は森になっちゃうか。まあ、最悪本当に危なくなったらプーカとか付近の森に住まうあちらさんたちが子供を助けてくれるはずである。

人食いの仔もいるけど人に、特に子供には優しいあちらさんって多いからね。


「そう。助けてくれるはず、なんだけど」


でも、夢の主はこの過去を鮮烈に記憶している。なら、絶対に何か普通では済まないことが起こったのだろう。

………これは純然たる過去の話であるため、今を生きている俺には何もできないけど、それでも。


「放っておけはしないよね」


せめて。誤って迷い込んでしまっただけであっても、なにか出来ることを探さなければ。

目をつぶって頷くと、足を動かす。うんうん、俺はやはり自分の足で歩きまわる人間なんだから―――どこであろうとそうしないと、ね。


「待って待って」


………まあ、この声は絶対に聞こえてないんですけどね!





***






北側の森(恐らく)は、入り口近くは割と整備されているようであった。

雑草はきちんと抜かれているし、木枠によってある程度の道が作られている。看板なんかも立っていて、山の公園によくあるようなアスレチックコースを彷彿とさせた。

ものすごく広いけどね。あと、遊具とかはもちろん少ない。

樹々の隙間から気持ちのいい日差しが差し込んでいるし、散歩するなら最高だろうね。


「あ、あの、えっと。この先は危ないって、書いてあるよ………?」

「大丈夫だよ、みんな普通に行ってるし。私は危ないところまで行かないしね~」

「………本当に、大丈夫かなあ」


うん。大丈夫じゃないと思います。

けど、子供の頃ってどうしてもこういう危ない場所に行っちゃうんだよね。いや、子供だけじゃないか。嵐の日に川や海の様子を見に行く人たちも、きっと同じような心理の筈。


「―――ちゃん、その子………離れた方が良いよ………」


森の中には数人、他の子供たちもいて、その中一人がミーアちゃんの手を掴んでいる少女に話しかける。

その子供も、顔には同じようにモザイクがかかっていたけれど。声音や仕草から見るに女の子っぽいけど、それすら不明瞭だ。そもそもとして認識が出来ない。

ミーアちゃんと一緒に居る子よりもさらに、夢の主からの認識が薄いのだろう。多分、風景とかと同じ舞台装置………いや、舞台道具の一種みたいな感じになってる。


「え?なんで?」

「なんでって―――だって、その子危ないから」

「んー?危ないって、どゆこと?」

「血が出たら大変なの。とにかく、手は放した方が良いと思う………」

「んー、んんう………?」


ミーアちゃんの手を掴んでいる少女の方は、モザイク越しでも行動が何となくわかる。首を傾げると、何がと言いたげな口元をしていた。

目元とかは見えないからね、口の形だけで何となく察するしかないのです、はい。

まあそれはともかく。少女は、疑問を形にするため口を開こうとして―――。


「………っ」


その瞬間、手を振り払って駆けだしたミーアちゃんに驚いて、動きを止めた。


「あ、ちょっと、君ー?!きみこちゃーん?!」

「わ、私はきみこじゃない………!」

「じゃあ名前は!なんていうの!」

「………、………!」


問いかけには答えず、幼いミーアちゃんは走っていく。

その足は森の奥地へと………って、そっちは危ないって言ってた方じゃないか。

取り残されている少女とミーアちゃん、どっちを追いかけた方が良いのか迷っていると、少女が突然に動き出した。


「待ちなさーい!きみこー!!」


うん。いや、だからきみこではないんだよ、少女ちゃん。

面白い子だなぁ、これだけ夢の中でキャラが建つほどに印象が残っているのは珍しいよね。

………でも、それと同じくらいに、印象が強い筈のこの子の顔が不鮮明なのが珍しいんだけど。


「まあ、それはいいか」


それよりも、少女がミーアちゃんを追いかけに走ったため、それに追走する。

走るというか、夢を彷徨っている俺は宙に浮いているの方が正しいけどね。存在が宙に浮いてるからね。

………それは現実でも同じだったりするけど、それもさておき。


「うーん。夢が濁ってきたなぁ」


森の奥へと向かう程、夢全体に黒が落ちていく。

色彩は曇り、気配は鈍重に。間違いなく、これから良くないことが起こって、そしてそれは夢の主にとってまさに悪夢そのものと言えるものなのだろう。

空を見れば、夢の輪郭に亀裂が入っていた。夢の終わりもまた、近い。


「でも、見ないわけにはいかないか」


彷徨うからこそ―――結局は必ず見ることになるから。

もうこれは変えられない過去。うん、気を引き締めて………先に進もう。




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[一言] ミーアちゃんを女の子が危険から庇って死ぬのかな?
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