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サウザント・ナイト ~謎の異世界転移からの魔法使い生活~  作者: 黒姫双葉
第一章 魔女と魔法使いと異世界と
13/319

長老さま

***






「……おい。結局めぼしいところ見つかっていないではないか?!」

「あれーおかしいなぁー」

「どれもこれも物件が微妙過ぎる!」

「いやミールの評価が厳しいだけじゃないか」

「私は普通だ!」


……そもそも。ごく普通の範囲に絞ったあたりで候補の六割が落ちた。

急すぎる勾配の上や、川を渡らなければならない、所謂僻地にあるようなものを弾くと、八割が落ちた。

あと残った二割は、幽霊屋敷や先ほどの妖精の家など、人が住めるような場所ではなかった。


「私は友としてマツリにいい部屋を提供しなくてはいけないのだ!」

「いや、流石に私もそれは理解しているがね。街から離れた場所に住まわすことを強制しているのは私だしな」

「―――はぁ……。ほかに何かないのか。最悪私は自分で作り始めるぞ」

「本来妖精たちの住処である森であまり家を建てるなよ、面倒なことになる」


ああ……と答え、そういえばと、妖精の寝床の上に家を建ててしまった男の話を思い出す。

街郊外はほとんどが妖精達の土地。この街は妖精と人とが近くにあるからこそ、その線引きがあいまいで分かりづらい。

さて、どうするか……。

――ん?


「どうした学院長」

「…………ん?ああ、ちょっと妙案を思いついてね」

「それは本当に妙案か?」

「はは、信用したまえ」

「あ?」

「おい」


こいつの人柄を信用することなど世界がひっくり返ってもあり得ないことだ。

基本魔術師は性格が破たんしているものばかりだが、こいつはその中でも群を抜いているからな。

俗に、変態ともいう。


「なあ、ミール。魔法使いにとって最も大事な才能って、なんだと思う?」

「……?あー、魔力をどれだけ制御できるか、とかか?」

「不正解だ。答えはな―――どれだけ妖精に好かれるか、だ」

「なんだそれは」


好き嫌いで才能が決まる?

剣に……修練に生きる私たちにはよくわからない次元の話だ。


「マツリ君は半分妖精のようなものだから、妖精と同じように魔力を編めるが……それ以上に、彼女は妖精たちから寵愛の対象になっている」

「いや、マツリは千夜の魔女に浸食されているのだろう?妖精はかの魔女を嫌っているはずだが」

「ああ。だが別に彼女は千夜の魔女本体ではない。そこが人間である私たちと妖精との精神性の違いというかな……。私たちは嫌う対象に付属するものまで嫌悪の対象とするだろう?」

「……ああ。色眼鏡で見てしまうからな」


事実、私もすべての魔女が悪いものではないとは知っているが、どうしても千夜の魔女のイメージがあるため、魔女扱いをされると怒ってしまう。


「だが、妖精たちは違う。千夜の魔女は千夜の魔女として。その身に取り込まれた妖精たちは妖精たちとして……別の存在として分けているのだ。肉体と魂、両方がそろった千夜の魔女は嫌うが―――身体を半分ほど浸食されただけのマツリ君のことは、まるで自らの子供のように思っているのだ、彼らはな」

「人間には理解できない精神構造だな……」

「そりゃそうだ。妖精のことを理解できる人間など、それこそ魔法使いだけさ」


煙草を取り出し、火を付けずに加える学院長。


「彼女の魔法使いとしての力量を図る上でも――ここは彼女に任せるとしよう。なあに、彼女自身もただ貰うだけは嫌だろうし、拒否することはあるまい」

「おい、責任もって家を探すというのはどうした」

「保留するわけではないよ。それに、お前が見た中でもあの泣き女の家が最も良かっただろう?」

「それはそうだが、まさか……マツリに泣き女を退治させるつもりか?!」

「それこそまさかだ。まだまだマツリ君にはそんな芸当はできないだろう」


だが、と付け加えて。


「魔法使いの才能、という点では過去最高レベルの力を持つマツリ君の、その魔法使いとしての力量を確かめておくということも―――大事だろう」

「……む……」


魔術師としても魔法使いとしても才能の存在しない私には、こういう場合言葉に従うべきなのかどうかがわからない。

いまいち、丸め込まれているような微妙な気持ちのまま、一応学院長の提案を了承した。

当然、マツリに危険が絶対に及ばない、という条件は固く誓わせたが。


「それにあの家には魔法使いが残した大量の資料があるからな~」

「おい貴様まさかそれが狙いではないだろうな」

「まさか。原本はちゃんとマツリ君に残すさ」


写本は作る気か。

……まったく、こいつは……。

どうしようもないほどに魔術師だ。







***







「なんだ、学院に戻ってきて用事でもあるのか?」

「マツリ君が回復しないことにはどうしようもないからな、しばらくは通常業務さ。それに、回復したらまず向かわなければいけない場所もある」

「……お帰りなさいませ。……はぁ、姉さん……」

「いや待て、別に丸め込まれたわけではないぞ!今回は最初からひどかっただけだ!ほら、この紙を見ろ!」

「…………ふわ……。あ、おかえりー」


決して嫌ではない、少しだけ騒がしい声たちで目が覚めた。

見れば、シルラーズさんとミールちゃんが帰ってきている。

結構長い間寝ていたみたいだ。時計を見れば、三時間ほどは経っていた。


「あれ、ミーアちゃん何見てるの?」

「物件です。……学院長、本当に探す気はあるのですか?」

「君ら姉妹は同じこと言ってくるなあ……。もちろん、探す気はあるとも。だが、その前にマツリ君をテストしたくてな」

「俺ですか?」

「ああ。魔法使いとしてのテスト兼、初仕事さ。魔法使いも職業のようなものだからね、稼ぐ方法というものは知っておきたいだろう?」


稼ぐ方法……!

今の俺は一文無し。唯一あるらしいのは魔法の力だけだ。

それを利用して稼ぐことができるというのなら、願ったりかなったりである。


「ぜひに!」

「あ、マツリさん……!」

「では契約完了だ。なあに、初仕事はもちろん私たちも手伝うからな、問題などない。……な?二人とも」


あれ、双子がともにあーあ、という顔をしている。

……何故に?

その答えは、大きなため息を吐きつつ話し始めたミールちゃんから教えられた。


「おいマツリ、いいか……学院長(こいつ)は人の上げ足は取る、言葉を好き勝手自分のいいように取る、弱みなどを利用するなどと―――つまりは、人を利用する天才なのだ」

「つまりは人間のクズです。あまりこの人の言葉を鵜呑みにしないようにしてください。いいですね?」

「おいおい、さすがにそれは私への風評被害じゃないか?」

「あ?」「は?」

「……なーるほど。わかったよ、今度から気を付けるね」


たしかに……さっきまでの会話を思い出すと、すごく乗せられている感があった。

口車に乗せる。なるほどこういうことか。


「私がそんなことをするわけないじゃないか?はっはっは」


あ、すごく胡散くさい。


「おい、胡散くさいなどと思うな。……少なくとも、魔法の力量を測るというのは君にとっても大事なことだよ」

「姉さん、今この人半分は口車に乗せたと自分から白状しましたよ」

「ああ、自分の罪を認めたな。いいかマツリ。こいつはこういうやつなんだ」

「はいそこの双子、今は一応大事な話しているから黙っているように」


ちゃんと静かになる双子。えらい。


「……私は魔術師だ。魔法のことは知識でしか分からないから、私が教えることは不可能だ。そして、魔法使いというのは、魔術師ほど数がいるわけではないのだ。つまり、自分で探求していかなければいけないんだよ」

「師匠に当たるような人がいない……ということですか?」

「ああ。だが、君は人間の師匠はいなくても、もっとずっと心強い者たちがいる。隣人……妖精たちさ」

「妖精……ですか?」

「今の君は妖精に好かれている。彼らが、君を導いてくれるだろう。……尤も、君自身もきちんと先人たちの知恵を継承して探求を続けなければいけないのだがね」

「好かれている……とはそんなに思えないんですけどね……」


なにせまだあったこともない。

……あ、いや一度会っているか。でも、そんなに好意的に接してもらえたような記憶はないなー。

それも、話などをする前に俺がぶっ倒れてしまったせいなのだが。


「そこは間違いない、私が保証しよう。……だが、たとえ妖精たちに好かれていても、君自身が研鑽しなければ何の意味もない。特に君の場合、その身体ゆえに――魔法使いとして成熟しなければ命すら危うくなる」

「え、そこまでですか?!」

「もう一度、千夜の魔女が身体を狙いに来ないという保証がどこにある?それに、妖精に好かれるということは彼らの悪戯に巻き込まれやすくなるということでもある。力は、必要だ」

「……まあ、確かにそうですよね」


今回は、きちんと俺のことを案じてくれている瞳だった。

仕草や表情ではいくらでも飄々とできても、その人の本当の心根はどうしても瞳に現れる。

――うん。シルラーズさんの言葉は、信じられる。


「今回の家には魔法使いの残した本などもたくさんある。君の役に立つだろう。……あとは、初仕事を終わらせるだけさ」

「はい。……あれ?仕事といっても、俺魔法なんてまだ使えませんよ?」

「確かに、その点が心配なのだ。ゆえに、身体が治り次第―――長老の元へ連れていく」

「長老?」


誰だろうか。

今まで全く話に上がってこなかった人だけど。


「……会ってくれますでしょうか、長老さまが」

「おそらくだが、会ってくれるはずだ」

「人の前に直接姿を現すのは何年ぶりになるか……」

「お前たちが生まれた時だから、もう十六年も前だな。それだってまだ赤ん坊だったお前たち二人にしかあっていない」

「姿を覚えているわけではありませんし、実質を言えば会っているとは言えませんね」

「お前たちをカウントしないなら、少なくとも五百年は姿を見せていないぞ」


五百年という単語が普通に出てきてびっくりした。

さすが長老。言葉に違わず長生きなんだなぁ。


「そんな気難しい人なの?」

「気難しいというか……まあ、私たちも昔会ったらしいということしか知らないから、本当のところは分からないが……」


言い淀むミールちゃん。

はて、そんなに形容しがたいのだろうか?

続きは、ミーアちゃんが話してくれた。


「そもそも、人ではありません。主や昔語りの伝承が正しいなら……長老様は―――旧き龍の一柱です」




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― 新着の感想 ―
[一言] 最後の方の 「お前たちをカウントしないなら、少なくとも五百年年は姿を見せていないぞ」 のセリフの「五百年は」のところが「五百年年は」になってました。
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