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買い物終了!




***




と、そんなこんなでようやく俺たちはミーシェちゃんから解放されたのでした。

化粧とか地獄だったよね、まず圧倒的に量が多い。そして匂いがすごい。ついでに値段もやばい。

例え元は薬草などから採取したものであっても、流石に店内の棚を埋め尽くすほどの化粧品が並べば、元々匂いには敏感である俺にとってはちょっと気持ち悪くなるレベルなのである。

いや、吐きはしないけどね。流石に普通に流通する程度であればどれだけ匂いが積み重なってもりばーすすることはない。

実際現代の方がもっときつい匂いはするのだ。匂いを通り越した悪臭とか。下水道マジ許すまじ。あれがあるから街中に匂いが溢れないというのを知ってはいても、近くに立ち寄るものではないよね、うん。

でも、こういう時毎回例に上がる某ローマよりはましか。あの時代、汚物を道路にポイしていたんだもんなあ………うん、そう考えると下水道管理会社の皆様には本当に頭が下がります、と。それはさておき。


「それ、お風呂入った後に必ずつけるのよ」

「化粧水だよね、分かったよ」

「水蓮、あんたもだからね。サボったら呪いかけるわよ」

「掛けられるものならやってみるがいい魔術師」


呪いをかけてやるっていう言い文句、魔術師とかそういう人間だからこそ出る言葉ですよねー、そしてそれが本当の呪いなのがまたちょっと困るところだよねー。

一応名前で呼んでくれているあたり、ミーシェちゃんの方は若干歩み寄ってくれて入ると思うけれど。思う、思いたい………多分?

実際の理由は俺と区別着けるのが面倒だから名前で呼んだとかありそうだ。


「………ま、とりあえず満足はしたわ。満足というか納得だけど」

「そっか、それなら本当によかったよ………」

「私から言わせればまだまだだけどね。でもまあ、服に関しては及第点よ。ブラ透けとか気にしてないのは別として」

「透けるという概念は今日知ったのでお手柔らかにっ」


あと、俺の持っている服のほとんどを選んでくれたのはシルラーズさんとミーアちゃんだ。俺は恒例の如く何もしていない。

なんなら物によってはお金すら出してない。ローブとかね?本当にごめんなさい、いつか返します。


「それで、俺からの依頼―――盗賊団一網打尽作戦への参加はこれでしてくれるんだよ、ね?」

「ええ。魔術師だもの、契約は遵守するわ」

「契約ってほど重みの在るものじゃないんだけど」

「あなたねぇ………魔法使いと魔術師の取引はどこからどう見ても契約よ?」

「そういうものなの?」

「そういうものよ、魔法使いの癖に常識ないわねぇ」


常識が壊滅してる人が殆どって噂の魔術師に呆れられてしまった。

確かにこの世界の常識はないようなものだけどさあ。来たばかりの頃よりは身に付いているとは思うんだけどなあ。

まあまだ一か月程度しかたっていないので、慣れないことの方が多いのも事実だ。魔女の知識に頼り切っているわけではないからね。

自分で知ることが出来る範囲のものはなるべく自分で知るべきだ。


「日程はまだ先でしょ。それまでは自由に過ごさせてもらうから」

「うん、もちろん。本当はシルラーズさんとかミールちゃんも一緒だといいんだけどね」

「ん?ああ、あの青髪の女騎士ね」


こめかみに手を当てて思い出している風のミーシェちゃん。もしかしなくてもミールちゃんとは知り合いだったのか。


「シルラーズっていうのはアストラル学院の学院長………龍殺しのシルラーズでしょ?」

「そうだよー、やっぱり有名なんだねぇ」


流石です、シルラーズさん。変人なのは俺もすでによく理解しているけれど、横の水蓮のことを救ったりとかあとはこの街の霊脈、力の方向性をしっかりと管理していたりとか。

とにかく、変人である以上に良い人なんだよね。


「有名に決まってるでしょ、齢十四歳で生態系の頂点たる新しき龍を惨殺した、”怪物魔術師”。その性根は血も涙もないって話だけど」

「………ん?それ俺の知ってる人と同一人物なのかな………?」


惨殺、血も涙もないという印象はないけど。

第一あの人は”龍殺しの英雄(ドラゴンスレイヤー)”の筈だ。ならば龍を殺したことによって救った人がいるわけで。怪物魔術師なんて蔑称で呼ばれるのはおかしいと思うのだけど。

ふーむ?

―――というか、俺ってミーアちゃんとかも含めてだけど、お世話になった人たちの過去のことを何も知らないな。

今更過ぎる事実ではあるけれど、なんだろうか。そう、このままじゃ駄目だと思うんだ。

知らないままに助けられて、知れずに恩を返すなんてできない。俺の在り方がそれを許さない。より良い方へ、幸福な結末へ向かうことを眺めることこそが俺の望みなれば、例え傷を負っても、嫌がられても最後に好きな人たちが笑っていられるようにするのが、魔法使いとしての力を得た俺のやるべきことだろう。

特にお世話になっている皆のことだ。この力の限り、命の限り助けになりたい………うん。そう思うのは、普通のことだよね?

今回のこの盗賊団のことも、少しは恩返しに繋がるだろうか。いや、この程度じゃまだまだか。

何も知らないこの世界で面倒を見てくれたみんなには、こんな事では返しきれない恩がある。そして己の矜持にかけて、恩を仇で返すことはしない。


「頑張らないと」

「なに、急に考え込んでどうしたの?」

「い、いやー、なんでもないよ?」

「あっそ。まあいいけど、しっかりこの依頼終わったらあなたも契約を果たしなさいよ?」

「けーやく?」

「―――賢者の石。忘れたとは言わせないわよ」

「ああ、それね。いいよー、大きいの作っておくねー」

「………簡単にいうの本当にムカつくわね」


何故か怒られたけど、問題ないよ。俺にとってならばそこまで面倒なものでもないからね。

純正の作り方ではないけど。効果効能は同じだから安心してほしいです。正直に言えば今渡してしまっても何の問題もないんだけれどね。

ちらっと覗き見たミーシェちゃんの表情は、あくまでも仕事の報酬としてもらうとでも言いたげで、今すぐ欲しいから催促をしているわけではないということが分かるから。

なので、ここでは何もしないこととする。うん、割とこの子も律儀だよね。


「何笑っているのよ、気持ち悪いわね」

「お前の顔に何かついてるんじゃないのか」

「事あるごとに煽ってくるな!鬱陶しいのよこのクソ妖精!」

「私は(ふん)ではないが」

「そういうことじゃないのよ!!!」

「あはは………」


にぎやかなことはいい事だ。殺意のやり取りでもコミュニケーションではあるからね。うん、良いことだよきっと、そう思いタイデスネ。

改めてあちらさんと魔術師というのは相性が悪いのだと納得する。生き方、存在の仕方が致命的にズレているのである。

それに関しては彼らと彼らだけではなく、普通に世界を生きる唯人でも起こり得ることだから異常だとは断言しないけれどね。

街中を外れて歩くこと十数分。俺たちは気が付けばミーシェちゃんの自宅である移動式馬車の前まで戻ってきていた。


「今日はありがとね。そして今度の時もよろしくお願いします」

「はいはい、礼なんていらないわ。既に貰うものは貰う契約なんだから」

「そうだけど、それでもお礼が言いたいんだ。………ありがとね、ミーシェちゃん」

「………そ」


素っ気ない風に言葉を返したミーシェちゃんだけど、若干口元が緩んでいるのは見えたよ。

やっぱりいい子だなぁ。元の心の素直さがあまりに分かりやすすぎる。あ、褒め言葉だからね?

たくさんの買い物の結果である紙袋を持ち直すと、「またね」と片手を振る。ミーシェちゃんは素っ気なくだけど、きちんと手を振り返してくれた。

それに微笑むと、水蓮の手を取って馬車の前から去る。さ、まずは一つ目的達成だ。

うん、良かったよ。ミーシェちゃんと仲良くなることが出来て―――なんて、そんなことを思いつつ、俺たちのキャンプ地へと移動を開始する。心強い味方が出来て良かった良かった。

………じゃ、本番が訪れるのを待つとしますか。いろいろと俺の用事も済ませながら、ね。




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