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交渉成立!




「で。もういいかしら?私は私で色々と忙しいの、この街にいる間に魔術の研究も進めないといけないし」

「ああ、そういえばこの街はあちらさんの素材とかが合法的に手に入る唯一の街なんだっけ」

「………あなた、この街に住んでいる魔法使いなのになんでそんな今更のことを確認してるのよ」

「うん、まあ。ほら、俺あんまり触媒とか使わないから」


使っても薬草だけだね。そんな話をしたらミーシェちゃんが信じられないものを見る目をしていたけどね。

でも魔法使いなら、全般的に魔術師ほど触媒は使わないものだよ。力を貸してくれるあちらさん自身がその代りになってくれるから。


「じゃあすっごく上質な触媒を報酬にしたら、ミーシェちゃんは手伝ってくれるかな?」

「あら、ちゃんとメリットを提示するようになったのね。いい心がけだけど、それも物によるわ。私は天才魔術師なの、生半可な触媒じゃ―――」

「賢者の石でいいかな?」

「じゃ………じゃ………はぇ?」


金属に変質をもたらす魔術を使用する際には賢者の石というものは抜群の相性を持つ触媒だ。当然、あちらさん由来のものに対しても使えるし、いざとなれば魔力の塊としても使い潰せる便利な石。

有名だよね、でもこの世界でも賢者の石はそう簡単に作り出せるものではない。

………俺は別だけど。俺、というよりはこの身体かなあ。

極稀にいるのだ、その身に不可思議な生命を宿す存在というものは。例えば不老不死の人間………死者であるが故の不死性を持つアンデットとかではなく、れっきとした人間………の血液は賢者の石を作り出す際の触媒としても使える。

俺もまたその例にもれずに、千夜の魔女の肉体という魔と幻想に覆われているという特性故にちょっとだけ魔法をかければ俺の血は賢者の石へと転じるのである。元々の錬金術にも黄金や水銀にハーブを混ぜて作るレシピもあるからね。

不死に到達した人間なら割とできることだから別段誇ることではないけれどね。いや、まあ不死をその身に宿すだけの魔術、魔法を扱えるのは相当な実力者だけなんだけどさ。

唇に置いてある指を八重歯で噛み切る。少し垂れた血液に息を吹きかけると、小さな血の粒は瞬く間に同じ大きさの固形物へと転じた。

俺の認識、意識をもってしか賢者の石にはならないんだけどね。他人が如何こうしても俺の血液から賢者の石を作り出すことはできない。

あと、これ俺からすれば無駄に工程を増やしているだけなので普段は作り出すことはないのである。意味がないからね。


「これはお試し用ね。もっと協力してくれれば大きな塊を差し上げます………特別だよ?誰にも言わないでね」


特にシルラーズさん辺りには。ものすっごく怒られるのは目に見えている。

賢者の石作り放題とか、普通に考えればチートもいいところですからね。魔術文化自体が破壊されかねない。まあ俺の血が元であり、そして俺の許可なければ触媒としての機能どころか魔力源としてすら効果を発揮しないからインフレになることはないんだけど。


「で、どうかな。これで足りないとなるとちょっと困るんだけど………」

「………なた………」

「え、はい?」

「あなたは!いったい!なにものなのよ!!ありえないでしょ、賢者の石を作り出すとかあああああ!!!!」

「うわぐわわわわわ首振らないで脳が揺れる!?」


あまり体調が良くないんだ、そんなに揺らされたら気持ちが悪くなる!

というか背後で水蓮が俺に対する攻撃だと勘違いして戦闘態勢に入りつつあるから!いろんな意味で危ないからストップストップ!?


「はぁ………はぁ………」

「く、詳しくは言えなくてごめんだけど、ちょっと魔法使いとしても変なんだ、俺」

「そうでしょうね!………金貨くらいの大きさの賢者の石をくれるなら考えてあげてもいいわ」


おー、流石魔術師だ。損得勘定は素早いね。

賢者の石が己の利となると理解した瞬間、若干今までの積み重ねで嫌そうな顔はしつつも折れてくれた。

ゆすられたときに乱れ、くしゃくしゃになった胸元を適当に戻しながらミーシェちゃんの方を見ると、笑いかけた。


「いいよ。もちろん―――じゃあ、よろしくね」

「ふんっ。………それと、ちょっといいかしら」

「うぇ?」


頬を両手で掴まれて一瞬困惑した後、ミーシェちゃんの顔が鼻と鼻がぶつかりそうになるほどの距離にまで近づいた。

はらりと垂れたミーシェちゃんの髪が俺の頬に触れて若干のくすぐったさを生じさせる。

うわ、なんというかこの娘もやっぱりといいますか、整った顔をしているなあなどと、自分の顔を赤くしながら考えていた。

可愛さの中に凛々しさと不器用な優しさがあるのがミールちゃんで、無表情の中に寂しさと悪戯心が同居しているのがミーアちゃんとするならば、ミーシェちゃんは美しさの中に自信と熱量を併せ持っている少女だといえるだろう。

瞳は常に何かをまっすぐ見ていて、それ故に視野の狭さも在るもののそれ以上に辿りつくべき場所を見据えていて、そのための努力を怠らない―――ある意味、とても純粋に生きているのだ。

ああ、でも。双子騎士とは仲悪いだろうなぁ。特にミールちゃんとは相性が悪そうだ。

だってほら、どちらかと言えばお互いに激情タイプだからね!


「いやになるくらい綺麗な肌してるわね。でも、なんで化粧していないの?というか普段のスキンケアは?」

「すきん………?あ、ミーアちゃんになんか聞いたような気がする」


結局よくわからなくて道具だけ放置しているんだけどね。ミーアちゃんに教えてもらったのだけれど、ああいうのって持続しないよねぇ。

普段ならミーアちゃんが来た時にそういうのは勝手にやってくれるし、自分ではやらないかな。うん、そうなんだよ、やってくれるんだよね………一緒にお風呂に入った後とかねー………。


「しかもブラの大きさ若干あってないわね?んで―――そこの妖精!あんたに至っては着けてすらいないじゃない!どういうことよ?!」

「知らん」

「………「知らん」じゃないわよ!あのねぇ、折角綺麗な姿してるんだからそれを維持するために努力をするのは当然なのよ!」

「あの、俺元………」

「口ごたえしないの!」

「あ、はい」


基は男であるなんていっていい雰囲気ではありませんでした。まあ言ったところでそんなの関係ないでしょって言われるのがオチだと思うけれど。


「もう一つ条件追加よ。今からあなたたちを女の子にするから。当然拒否なんてさせないわ」

「あ、はは。うん、わかったよ」

「じゃあまずは下着からよ。その後は化粧品売っている所に行って………服はいいにしても化粧の仕方を教えるところからよね………」

「あの、えーと。お手柔らかにお願いします?」

「い・や・よ!」


………とまあ。

そんなわけでミーシェちゃんがなんやかんやあって仲間に加わることになりましたとさ。

その代りに俺と水蓮はこれから着せ替え人形になるんだろうけどね、まあランジェリーショップは最初から目的地の一つだったからいいんだけどね。

でも当初の予定より時間もお金もかかりそうだなあと、思わず小さな溜息は出てしまったのであった。

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