二人で街へ行こう!
流れるように、普段よりも格段にいい動きをして水蓮の身体の下に潜り込むと、そのまま足をホールドして押し倒す。
ええ、もちろん地面には羽毛よりもふかふかな草を生み出しているから怪我をすることはないですとも!
「ぐぬ、離せ、おい」
「ふふふふ、駄目だよ~諦めて服を着るんだ!」
すべすべの足をしっかりと掴んでいるので現状の体格差や力の差を無視している。逃がさないよー?
ぺろりと舌で唇をなぞってまずは下着をつける。
あ、なんだろこの気持ち。すごく、良い。悪戯心が刺激されるというかなんというか。
まあうん。ほらそもそも下着っていうのは身体の造詣を保つためには必須のものだから健康的に考えるにしてもつけるべきだし………などと理由を重ねて、ちょっと唸り声を発し始めた水蓮の肌に優しくショーツを這わせた。
え、ブラ?無理だよ流石に大きさが合わなかった。
どっちの意味で大きさが合わなかったのかは、聞かないでください。俺の男としての尊厳云々が死んでしまいます。
「………少し小さい」
「ぐはぅっ?!」
どちらにしても尊厳さんはお亡くなりになりました。
俺のお尻って、大きいのかなぁ………俺の身体をもとにしているはずなのに水蓮の身体がスリムなだけなのでは、とも疑うけどなあ。
でも水蓮の身体も出るところは出ている体型だし俺の身体が駄目なんだろうなあ。
―――あれ?俺ってもしかして、太っているのかな………!?
少し服を捲り上げてお腹周りをぷにぷにと摘まんでみる。うん、凄く柔らかいです。筋肉なんてどこ行ったのレベル。少しは帰っておいで?
胸やらお尻やらに栄養素は行くと思ってたけど、結局それも太っているということに変わりないよね。あはは、遅ればせながらも今気が付いたよ!
ちょっと泣きそうになりながら諦めた様子の水蓮に服を着せていく。
まずはブラウスだ。ホールドを解き一旦座らせると、袖を通してから前に回り込んでボタンを一つ一つ留めていく。皺にならないように伸ばしたら、今度はスカートだ。
「くすん。ちょっと立ってみて?」
「何故、急に泣き出したんだ」
「気にしないで、こっちの都合だから」
「………なにかの病か?」
「違いますっ!」
あと人間なら何もしてなくても身体の防衛反応やら何やらで涙が出ることあるからね。うん、まあ俺半分は人間じゃないけどね。
それはそれとして、立ってもらった水蓮の足もとからスカートを通し、ブラウスを中にきっちりと入れ込んだ。
そして横に回り込んでこれまたボタンで留めると、片足に優しく触れる。
タイツの口を両手で開いて、水蓮の艶やかな素足を包み込んだ。もう片方も同じようにゆっくりと、しっかりと。
「うん、でき………た………」
「―――やっと終わったか。おい。おい、マツリ。どうしたぼうっとして」
「いや、俺が適当に作った服なんだけど、凄く似合っているから」
「何度も言うが、お前を基に作った身体だ。自画自賛か?」
「違うよ。水蓮はそういうけどね、基にしただけで結局は中に宿るものが全然違う。君の美しさは君の物だ」
俺から生まれた美しさは俺を超えないなんて言っていたけれどそんなことがあるものか。だって、君の美しさは俺だけによって生まれたものじゃないんだから。
水気を帯びたかのようにしっとりとした白い髪が身体の線をはっきりと映し、どちらかといえば少女の形に近い俺とは違う女性らしさを持つ肉体は、飾り気のない服を大人の色気を持つ物と変じさせていた。
長く伸びる足を覆う黒色のタイツは、本来の肌が見えないが故に、その白さを想像として脳内に映し出し、まるで彼女は深窓の令嬢のような、湖面に映る月のような静かな美しさを湛えていた。
………ただ、一点。気になるところがあるとすれば、だけど。
「その胸は、ちょっとえっちぃすぎるかな!!」
急いで俺が普段から纏っているローブの留め具を外すと、水蓮の方に掛けて前をしっかりと止めた。
うん、だってブラ付けてないんだもん水蓮。俺ほど胸は大きくないにしても身長があって背筋が伸びている水蓮の双丘はしっかりと目立つので、その下の形が丸見えだ。
ブラ付けないと少し胸は自重で垂れるんだけど………あ、実体験です………若い人だとそれでも形良いのに変わりはなくて、例を挙げればドレスなどを着ている時に近くなる。
現代だと多分トップレスブラとか付けるんだろうけどね。俺は付けたことないけどね、トップレスブラ。
あれは先端の方擦れたりしないのかなあ。服の材質によっては地獄になりそうだ。
「えっちぃ………。なんだそれは」
「う、魅力的とかそういう感じの言葉だよ、気にしないで」
俺のこの世界の言語の学習というか習得の法則によってどう考えても和製英語な言葉なども通じてしまう。
もちろん相手がそもそもそういう言葉を知らなければ問題はないけど、便利すぎで逆に不便である。いや助かるんですけどね?
これがないと俺は文字を読むことすらできないから。学習工程をスキップしたというのはズルしているということであり悪い気がするけど。
「ま、まあ街に行ったらちゃんと服を買うからさ、今はそれ着ておいて。ブラもちゃんと買おうね」
「ふん。すん、すん。ふふ、まあ。いいだろう」
自分で着ると大きめのローブだけど、水蓮が着ればそこそこちょうどいい大きさになっていた。タイツに包まれた足の膝から下が見えている程度だね。
腕の方も七分丈だ。邪魔にはならないだろう。
手を上げたり下げたりして纏わされた服を見ていると、おもむろに水蓮が俺が着せたローブの匂いを嗅いでいた。
「えーと、何してるの?」
「いや。良い香りがする」
「薬草の匂いかな。内側がポケットになっててね、薬草詰めてあるんだよ」
ええ、薬草魔法の使い手ですから。ちゃんとハーブ類も持ち歩いているんですよ?さっきの麻もそこから出したものだ。
ローブの中に収めてあるものは処方用のものだから魔法の触媒としては殆ど使わないけど。効果も実際に薬学的効能を持つ物が多い。
その他では気分を良くしたり痛みを遠ざけるような香りを出すアロマのような目的で使用する薬草もあるけどね。
これらは別に、魔法使いとしては持っていて当然のものなのでいつもローブのポケットに収納されている。
そんな薬草の香り漂う俺のローブなんだけど、何故か水蓮は気に入ったようだった。
まっすぐな髪を揺らしながら袖部分に顔を埋めている。仕草だけ見れば子供みたいな行動で何とも口元が緩むというかなんというか。
―――ま、いい気分になってくれたのならよかった。
指を組んで前へと伸ばし、身体を解す。その際に頭からずれた帽子をもとの位置に戻すと、地面に転がっている杖を掴んで水蓮の方に近づいた。
「じゃあ行こう。君は人をもっと知らないといけないからね!」
「む、急に、手を引くな」
「ごめんごめん!」
謝りつつ、取った手をしっかりと握ってから徐々に走り出すと、大きな声で叫ぶ。
「街までお願い、皆!!」
一拍おいた後、俺と水蓮の白い髪が風に煽られる。もちろん自然に起こった風ではない。
無数の淡く輝いて空気に溶ける鱗粉を舞わせる翅が周囲を覆い、たくさんのあちらさんが姿を現した。髪はこの子たちが現れた時に起きた風で舞ったのだ。
「マツリとマツリと………えーとスイレン!」
「いいよー、いいよーおくってあげる」
「きれーなしろいろ!でもなかにくろいろまじり!いたそういたそう?」
「痛くないが」
「いたくないけどいたいんだよー!つらいんだよー?」
見たままのことを行ってしまうような子供としての性質を持つ彼らピクシーだけど、その感受性までもが未成熟というわけでは無い。
寧ろこの子たちの見るものは純粋で混じり気のない世界そのものだ。単純にあるがままを見るという点においては、どのあちらさんよりも、そして魔法使いよりも優れているといえるだろう。見えるだけ、なのがピクシーらしいんだけどね。
ピクシーたちの目にそう映っているのであれば、益々放ってはおけないんだよね。
まあそれはそれとして。
「わをつくるよー」
「まわれまわれー」
「おどれおどれー?」
ここ最近で何度も使っている”妖精の通り道”をピクシーたちにお願いして作ってもらった。
今の俺は弱っているからね、あまり自分だけで魔法は使いたくないのだ。本来の魔法使いは常にあちらさんに手助けしてもらって魔法を使うので今までが普通じゃないだけなんですけどね。
でも自分でやれることは自分でやっちゃうよね。助けられ続けるのも、ねぇ。
今回はそんなことは言っていられないので頼りますけどね。
「いつでもー」
「いいよー」
「いってらっしゃーい」
「ありがとう。行ってくるね」
「………」
渦巻く草の円に二人で身体を投げ入れる。さあ、光を抜ければ久々の街だ。