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服を錬成した!


***





「うん。まあよくよく考えたら水蓮の服、ないんだよね………」


沐浴を終えさっぱりした後、きちんと服を着こんでいるとふとそんなことに気が付いた。


「水蓮、服どうしよー。作れる?俺の貸してもいいんだけど丈が足りないと思うんだ」

「いらぬ」

「いるよ?」


寧ろなんでいらないと思えるのっ?

魔法で作れるなら良いんだけど、流石に実際の物質を作り出す魔法というのは難易度が高い。

より正確にいうのであれば、俺の魔法は薬草魔法と呼ばれるもので、要はハーブの力を借りた魔法なんだけれど、これは様々なことに効果を発揮する代わりに基本、物質そのものに干渉するようなことはない。

もちろん普段から俺がやっているように煙霧で植物を形作って何かをする、ということは出来るけどあれは本来の薬草魔法の使い方ではないのである。

魔法薬を調合するのが本来の薬草魔法だ。アストラル学院なんかで教わる魔法の使い方もそういったもの。

………俺がやっているような魔法は術式体系から微妙に外れたもので、個人が行使する特殊な秘術に分類される。俺の場合は薬草魔法をベースにした霧と煙の魔法だね。

魔術師も魔法使いも大体が自分だけの秘術の使い方を編み出すもの。

でもそのためには基礎となる知識が必要なのである。何の魔術、魔法を基礎として自分だけの秘術を作るかは当人次第だけどね。

ちなみに魔術師はそうした特有の秘術を一族のものとして代々継承し、力を高めようとすることが多い。血によって魔術師となる存在はそういった性質から一族ごとに特有の魔術を持つのである。

逆に魔法使いは個人だけで特有なものを編み出すけど。血ではその性質が受け継がれないから当然の話といえばその通り。

と、話がそれてしまった。

物質に直接影響を与える魔術として著名なのはやはり錬金術だけど、あれは実は魔法使いとはかなり相性が悪い。

科学の祖となった金属を自在に操ろうとする魔術体系だ、森と共に生き、あちらさんと共に歩む魔法使いにとっては忌み嫌う対象であることが殆どである。


「………まあ錬金術にも時代があるけどね」


元の世界でいうルネサンス期以降に出現したヨーロッパ式錬金術。

あれらは特に古くから存在している魔法使いにとっては嫌悪されている。直接的に科学―――人類の森林破壊と大量消費文明を形作る転換点になったのだからまあ仕方ない。

元の世界よりも文明が遅れているこの世界でも、例えば鉄道が整備されているように徐々に科学が台頭してきている。

魔法や魔術が実際に力を持つ世界である以上、俺のいた世界ほど科学だけが重要視されることはないだろうけれど、それでも大多数の人間にとっては科学こそが生活の基盤となることは間違いない。

さて、そんな錬金術は実はさらに時代を遡ることが出来るのである。

このルネサンス期の錬金術師として有名なのは賢者の石を作り出したとされているパラケルスス。彼は新たなる錬金術理の提唱者であり革新者であった。

それ以前の錬金術というものは遡れば古代ギリシアにまで到達する、非常に歴史のある魔術なのである。

まあ古代ギリシアの錬金術は謎が多いんだけどね。ヨーロッパ式錬金術の元になったのはこの古代ギリシア錬金術がアラビア・イスラム世界に伝わったものであるアレクサンドリアの錬金術………イスラム式だ。

この時代の有名な錬金術師としては、金すら溶かす王水を作り出したジャービル。この時代は材料こそは植物由来のものだけど、やはり思想は科学に近いのでヨーロッパ式よりマシとは言え、魔法使いからは嫌われる傾向にある。

唯一嫌われていない古代ギリシアの錬金術に関しては推測でしかないけど、もう魔術ではなく魔法に近いんだろう。

”魔女の知識”にアクセスすればわかるだろうけどね。でも自分で知るというのも大事だからどうしても必要な時以外は無理に使わないようにしているのです。うん。まあ、なんというか便利すぎるから。

使いすぎると怖いよね。


「かといって幻覚幻影の類いはなあ………」


実際には纏っていないわけだから色々と困ることがある。

あと水蓮が裸で出歩くことに変わりはないので看過することはできません。駄目です、絶対に。

しょうがない、苦手だけど錬金術頑張ってみるかなあ。

本来は錬金術は魔術に属するものなので魔法では使えない。なので魔法の形式に落とし込まなければいけないのでちょっと大変なのである。

全ての秘術が、元が物理的な作用を齎すことを念頭に置いているわけでは無いので、錬金術のように物質に大きな作用を与える魔術って実は少なかったりするんだけど。


「んー。『広がる木の根、結び付くは旅人の杖』」


杖で草むらに円を描き、その中に五芒星を描く。さらに五芒星の五つの角にそれぞれの模様も一緒に書き込んだ。

薬品を使うことが多い錬金術だけど、残念ながら手持ちにないので他の魔法で代用だ。

今回は魔女術(ウィッチクラフト)と四大元素理論を併用した。元素というのは有名も有名な、火と水と風と土、そしてエーテルだね。

ソロモン王の召喚術でも使われている円は力の循環と守護の意味を持つ。慣れない俺の錬金魔法の成功率を高めるためだ。五芒星も同じ効果である。

その後に左手を円の一部に触れさせて、トリスケルの紋様を露わにした。


「『杖に従い力は循環し、終始も上下もない円環へ』」


円の中に麻を放り込んで、そして呪文を唱え終わる。


「『物質を再生成、存在を再定義、新しい形へ。………ようこそ(ヘイル)』!」


座ったまま杖で地面を叩くと、円の中の麻が宙に浮き、輪郭が解けていく。細い糸へと変じた麻は俺が漠然と抱いている服のイメージによって素早く編まれ、服の形をとっていった。

例えるなら白色の長袖ブラウス。俺が作ったせいであまり飾り気はないけど、正面のボタン周りには控えめなフリルが施されていた。下半身は黒色のシックなスカートだ。

こっちは紐で留めるタイプ。フリルとかはないけど、うっすらと蒼色で俺の身体のものと同じトリスケルの紋様が描かれている。

地面に書いた図形が消え、ふわりと二着の洋服が宙を舞う。


「おっとと。うん、できた!」


それが落ちて汚れてしまう前に両手で抱えると、出来栄えをよく確認することにした。

膝の上にスカートを広げ、大きさを見る。うん、良さそうだ。ブラウスの方も問題はなさそう。

………あ、この組み合わせなら同じ黒色のタイツみたいなのあってもいいかも。それくらいなら服の所持数が少ない俺でも持ってたはずだ。


「随分と強引な錬金術だな」

「苦手というか初めてだからね。とりあえず服が出来たよ、ちょっと着てて」

「いや、着てなどと言われても困るが。おい、まてマツリ。待て、おい」


二着の洋服を水蓮に押し付けると、一旦テントへと戻る。

風呂敷のようなものに詰め込んだ洋服をひっくり返すと、その中から下着とタイツを取り出すと再び水蓮の元へ移動した。

大きさは多分何とかなると思うんだよね、特に下着は。

うん、あんまり嬉しいことではないけど俺のお尻大きいからさあ………!!安産体型がなんだよ、スリムな身体でいいんだよ、俺は元男なんだよう。


「あれ?どうしたの?」

「………着方を知らぬ」

「あ、そっか。そうだよね」


服を全裸のまま持ち上げて固まっている水蓮は、今は人の姿だから違和感を覚えなかったけれど人の生活を深く知っているあちらさんではないのだ。

服を知っていはいるけれど、着方を知っているわけでは無い。


「じゃあ俺が着せてあげよう。………ふふふ、いつもは俺が着せ替え人形扱いされることの方が多いからね、こういう機会は珍しいんだよね」


主にシルラーズさんとミーアちゃんがいろんな服を持ってきてくれるんだけど、たまになんでこんなものがあるんだ、というような物もあるので不思議だよね。

というか俺の方がミーアちゃんより年上の筈なのに完全に主導権握られているのはなんでなんだろうね!?

うう、女としては勝てないからなあ。男だけど女っていうの、地味に厄介。

と、それはともかく!さあ、水蓮にお洋服を着せてあげるとしましょうか!

何故か、若干身体を引いている水蓮に近づくと、笑顔でその手を握る。結構強めに。


「ふふ、ふふ。うふふふふ。覚悟は、いいかな?」

「まて。待て、まて。おい、やめろ今のお前はなんか怖い!」


まずは下着だよ、ちょっと身体の真下あたりに失礼しますねっ!

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